第23話 砲火2
空からの偵察によって自軍の様子を把握されていた地上の帝国軍はもちろんそんな事は想像だにせず、一路ユーティアルへと進軍していた。
一方のハバル砦には陸軍の砲兵情報班と共に自衛隊の特科部隊から観測隊等も派遣されていた。
陸軍のイメージ向上を兼ねているとは言っても流石に砲撃に必要な観測や計算などのプロセスを全て任せることは無く、更に旧陸海軍に多くの役割を課すと同時に自衛隊の行動も着々と進んでいる。
ユーティアルに対する帝国軍の攻撃が予想より強力で派遣した旧陸海軍の戦力では対応仕切れない場合に備え、新設されて間もない陸上総隊直轄の水陸機動団は出動待機。
呉を母港とする海上自衛隊第1潜水隊群第5潜水隊『そうりゅう』『うんりゅう』『はくりゅう』は出撃した第2護衛戦隊に援護要員として随伴している。
コンバル島の国家群に陸軍は派遣されていないが外交官や駐在武官、企業関係者などが少なからず滞在しており、上陸前の帝国船団撃滅が日本にとって絶対条件だ。
また海空自衛隊や米軍の航空機もいざという時に備え、いつでも出動できる状態を保っている。
しかし自衛隊幹部や防衛通議員には自衛隊の出動を不安視する者も居た。
本来自衛隊は専守防衛の理念に沿って本格的な敵地攻撃能力を備えておらず、訓練もしていない。大きく話題になった安全保障関連法を受けて幾ばくかの検討や組織改編が行われているとは言っても、米軍の補完的な性格は抜ききれていない。
自衛隊員に死者が出る不安というよりも、効果的な攻撃を為し得るかを疑問視していた。
*****
陸軍の監督と補佐の為に派遣された陸上自衛隊・特務派遣隊の平野剛1等陸尉は上司と共に砦の指揮官室を訪れていた。
「メリアール司令官、我が方の偵察によって帝国軍は遅くとも3日後、早ければ明後日の昼頃にこの砦へ到達する見込みです。改めて防衛計画を説明したいのですが、よろしいですか?」
「ええ、もちろん。」
「先ず彼我の戦力ですが・・・」
その後しばらく打ち合わせが続いた。
「・・・こんなところですかな。他に何か有りますか?」
「確認しておきますが・・・」
「どうぞ。」
「我々の部隊は帝国軍に対して有効な攻撃を行う為にニホン軍の指示に従いますが、部隊の指揮権は私に有ります。あなた方の役目はあくまで我々への指導役であって上官ではありません。
故に必要以上の命令には従いませんし、例えあなた方が撤退を決断しても、私が認めない限り砦の者は誰1人退きませんので。」
「・・・心得ました。」
部屋を出て廊下を少し歩いた所で平野1尉は上官に疑問をぶつけた。
「3佐、あの態度に腹が立たないのですか?いくら人間に酷い目にあったからと言っても、こっちはユーティアルに軍事協力してる身ですよ。美人なだけに余計タチが悪いと皆ぼやいています。」
「そう言うな。腹が立たん言えば嘘になるが、彼女は人間に対して憎悪が人一倍強いんだ。最低限の礼儀を弁えているだけでも相当な努力だろう。」
「しかし・・・」
「彼女の経験したことを聞いてしまっては、そう思わずにはいられんよ。」
「どういうことです?」
「補佐官のガル氏が教えてくれたんだが・・・言いふらすようなことじゃない。」
「はぁ・・・」
「ぼやくよりやるべき事がまだあるぞ。」




