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第20話 情勢2

 ユーティアル王宮にて行われていた御前会議は結論が出ないまま終わり、閣僚は各々の自室に戻っていた。






「まったく‼︎ ヒトと戦う為にヒトに協力を仰ぐなど何を考えている‼︎」


 エルリア近衛騎士団長は自らの執務室に入ると御前会議での不満を爆発させ、執務机に怒りをぶつけながら銀色の長髪と豊満な胸囲を大いに揺らしていた。輝きを放っていると思える程の髪から突き出た耳が真っ赤な事からも、その怒りの程度が伺える。


「団長、落ち着いて下さい。」


 エルリア団長の副官メルダは色々な羨望の眼差しを向けながら団長を宥めた。


「お茶を用意しますので少し休みましょう。」


「ああ、すまないな。」









「団長はニホンがお嫌いのようですが・・・」


「当然だ。ヒトは野蛮で低俗で卑劣な奴らだという事は分かりきっているだろう。帝国が我ら亜人の土地に踏み込み何をしたのか、この国で知らん者は居まい。」


「しかしニホンは先の事件でフィヨル様を人質する事もなく、死なせてしまったエルフ達を丁寧に弔ったと聞いています。」


「それはそうだが・・・多くの同胞の命が失われたのにその原因であるニホンと手を組むなど、お前は納得できるのか?」


「・・・納得は、出来ません・・・。しかし、亜人をヒトより劣った存在だと信じて止まないコミテルン帝国に比べれば、まだ信用出来るのでは、ないかと・・・。」


メルダは言い淀みながらも自身の考えを伝えた。


「そうか・・・。全ての亜人が結集出来れば、ニホンなどに頼る必要も無いだろうに・・・」


エルリア団長は悔しそうに呟いた。







 マーダリア大陸東部にはユーティアル王国を中心に幾つか亜人国家が存在しているが、海を隔てた大陸の南方にも亜人諸国がある。


 その亜人諸国は日本から見ると東南アジア辺りに位置しており、地球ならばフィリピン・カリマンタン(ボルネオ)島・スラウェシ島などのある一帯が、この世界ではコンバル島と呼ばれる巨大な一つの島となっている。

 更にその南西にはスマトラ島とジャワ島が合体したような細長い島があり、南東へ行くとニューギニア島やオーストラリア大陸と微妙に似ている陸地が存在する。


 フィヨル王女らは日本の巡視船と遭遇しなければコンバル島の亜人諸国へ向かい、コミテルン帝国に対抗する為の亜人同盟成立へ向けた密約を交わす予定だった。


 日本の出現によって大きく予定が狂ったものの亜人各国は連携を構築しつつあるが、全ての亜人諸国が一致団結しているとは言い難かった。


 かつては亜人同士でも領土を巡る争いが繰り返され、帝国という脅威がある為に不本意ながら手を取り合うと認識している国が少なくないのが実情だった。








*****








 日本政府内ではコミテルン帝国への対応について急進派と慎重派に分かれていた。



 急進派はこの世界での軍事レベルの低さでは自衛隊や旧陸海軍が深手を負うことは有り得ず、東方の主要都市であるノボォナを早期に攻略した上で講和を要求すべきだと主張していた。

 対する慎重派は魔法という不確実性がある以上は迂闊な行動は慎み、情報収集と敵の再侵攻への備えを優先すべきという立場だった。


更に、これが防衛省・自衛隊内に於いてはより面倒な構図となっていた。

 元々旧陸海軍の受入れに前向きな迎合派と否定派の睨み合いが続いていた所へ今回の事態が発生し、迎合派と否定派それぞれでコミテルン帝国に対する急進派と慎重派に分裂する事態になっていた。



いずれにしても対策予算について財務省と大喧嘩になる訳だが。











 日本政府関係者にとってコミテルン帝国との戦争は悪夢に等しかった。



 まだ十分ではないが何とか最低限の食料輸入の目処が立ち、皇国島の原油掘削も軌道に乗り始めた。ユーティアルとの食料品以外の貿易も順調に拡大し、どん底だった日本経済に希望の光が差し込んでいた。




 そんな矢先にコミテルン帝国が日本に喧嘩を売ってきた訳だが、それは追加の予算編成を意味していた。


 ただでさえ年末の転移で各省庁は次年度の予算を1から作り直さねばならず、多くの職員をこれまでに無い程の過労に追い込んで何とか4月からの予算を作成した矢先に、他国との戦争という余計で厄介極まりない仕事が追加されてしまったのだ。


 漸くひと段落ついたと思ったら更に面倒な事態に対処しなければならないとあっては、全国の担当部署の公務員から怨嗟の声が轟くのは当然だと言えた。












 コミテルン帝国による侵略戦争への対応をしなければならない防衛省では、元々抱えていた最重要課題にも対処せねばならなかった。





旧陸海軍の今後の在り方だ。





 将兵達については法的には日本に帰化した外国人として、過去に存在した人物と同姓同名の別人という扱いになった。


 このため現在生存している従軍経験者とタイムスリップによって約80歳差の同一人物が存在する場合、法的には別人の扱いになる。




 また戦争犯罪を問うことや賠償請求も当然の事ながら出来ない。

太平洋戦争中の事は彼らにとっては未来の出来事であり、未来に犯す罪を裁くなど阿保以外の何物でも無いからだ。

 太平洋戦争前の日中戦争での戦争犯罪を追及しようにも、そもそも現代日本が歩んだ歴史の中での過去の当事者達とタイムスリップによって現れた将兵達は法的に別人であり、彼らを裁く根拠は何1つ無いのだ。


 仮に何処ぞの平和主義団体が訴訟を起こそうものなら裁判所は棄却する可能性が大だ。











 とにかく否定的な意見が根強いながらも自衛隊と旧陸海軍を段階的に統合運用することは決まったが、一筋縄でなかった。


 現状では主に連合艦隊の海軍将兵には海上保安庁・海自への協力と自衛隊式の訓練の一部を、皇国島の陸海軍将兵には島の開発に伴う土木工事や農作業と自衛隊の訓練の一部へ交互に従事させているのだが、何せ人数が膨大なため衣食住の提供は無視できない負担である。


 また油田によって自衛隊と旧軍の燃料事情は幾分改善されてはいるが、民間需要を無視する訳にもいかない。




 そもそも80年前の兵装のままで旧軍が自衛隊と行動を共にするのは無茶が過ぎる。

 自衛隊との統合を図るという事は必然的に防衛装備品を旧陸海軍に支給し、その上で訓練を重ねなければならない。


 しかし小銃や軍服ならまだしも、戦車や榴弾砲、航空機などは直ぐに用意できる代物では無く、時間が掛かるのは必至だ。










 また在日米軍は日本政府と米大使館の合意や地位協定の抜本的な改正などによって扱いは大きく変貌している。


 そして転移から間も無い頃の在日米軍と旧陸海軍の何とも言えない空気は関係者にとってとても気まずいものだった。






 しかし対馬沖事件から暫く経った頃、いずれは共同で作戦を行う可能性もある事から在日米軍と旧陸海軍の指揮官を集めての懇談会が防衛省主催で行われていた。


 最初はお互いに腫れ物を触る様な態度だったが、軍人として共通する部分があったのか多少は打ち解けられた雰囲気となった。


 駐英武官や駐米武官を経験した陸海軍指揮官が少なくなかったことも影響したのかもしれない。








 そんな旧陸海軍は後に大きな役割を2つ、ユーティアルなどからの要望と自然の猛威によって果たす事になる。




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