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第18話 自覚3

「今回初めての防衛出動となりましたが、適切な判断だったのでしょうか?」


「外交担当者が高圧的に交渉に臨んだ為にこのような事態になったとの報道がありますが、総理の責任については?」


「島民に死傷者が出たのは自衛隊の行動に問題があったからでは?」


「与那国島への報道関係者の立ち入り制限は情報統制ではないのですか?」



 与那国島侵攻部隊の撃滅が完了した翌日に緊急会見が開かれたが、説明にあたった原田官房長官や各省の担当官は記者達からの凄まじい追及への対応に追われた。





 当然の事ながら世論は沸騰した。最初は政府の強引な外交政策の所為だと決め付けての批判が多かったのだが、菅谷外交官らとコミテルン帝国の担当者との交渉に際しての音声記録が公開されるないなや、一気に批判のベクトルが反転した。


 余りにも理不尽すぎるコミテルン帝国の態度に国民の大半が怒り、一部では報復を行うべきとの声も出ていた。


 また政府批判ありきの某政党や自称市民団体、偏りの強い報道会社は現実を直視していないとして逆に非難を浴びることになり、警察省国家公安庁による露骨な監視も加わって一層の勢力縮小を余儀なくされた。


 因みに国家公安庁の名称は当初「公安庁」になる予定だったのだが、それでは法務省公安調査庁と混同し易いので頭に「国家」を付けて組織が始動していた。






*****






コミテルン帝国・ノボォナ郊外


「菅谷さん、外務省から連絡です。与那国島に上陸を図ったコミテルン帝国の部隊は自衛隊が全滅させたそうです。ただ島民に数名死傷者が出たと。」


「本省から指示は?」


「政府の今後の方針が確定するまでは外交団の身の安全を確保するため、一旦帰国せよと。」


「最初から砲艦外交をしていればこんな事にならなかったろうに・・・。この世界は恫喝外交が基本だと何度も報告を上げていたぞ俺たちは。」


「それを言っても仕方ないですよ。ユーティアルの時と違って、政府は下手に軍事力を見せつけて覇権主義の帝国に反日感情が巻き起こるのを恐れていたんですから。

 それより直ぐに帰国の準備をしましょう。敗北を知った帝国が我々を襲う可能性も捨て切れませんからね。」


「ああ、分かってる。」






*****





「・・・自覚していなかった・・・ということか・・・」


 宮原総理は総理官邸の執務室で一人呟いた。コミテルン帝国がここまで日本を見下すとは外務省も予想外だっただろう。


 ユーティアル王国の時は初期にフィヨル王女の身柄が日本にあったから上手くいったのかも知れないが、それでも王国側には相手の力を見極めようという雰囲気が感じられたそうだ。


 だから覇権国として多くの国々と接しているコミテルン帝国も極端な事はしないだろうという見方があった。或いはエルフが中心のユーティアルや他の亜人国家との交流が成功したなら人間の国々とも大丈夫だろうと安易に考えていたかも知れない。








若しくは、これが平和の毒というものなのだろうか。








 日本はあの太平洋戦争・大東亜戦争の敗戦以来、アメリカの庇護下で平和を享受してきた。

 平和が何の担保も無く当たり前に存在するものだと深層心理に刻まれていったのかも知れない。だからこそ、相手が本気で戦争を吹っかけてくるなどあり得ないという前提が、例え根拠が無くとも当たり前だと思えていたのだろう。


 確かに地球では国家対国家の戦争はあまり起こらなくなった。しかしそれは人類が進化したのでは無く、単に戦争による利益が費用の割に合わなくなったに過ぎない。現実に内戦や紛争は依然として続いているのだ。

 しかし多くの日本人は戦争や紛争は対岸の火事としか思っていない。海外で日本人が紛争やテロに巻き込まれて犠牲になっても、一時的に話題にしてすぐ忘れる。






 転移という国家の存亡が掛かった非現実的現象に直面しても、外交相手の態度がどれほど野蛮であっても、多くの日本人は目を背けていた。


 いくら自分たちが平和主義を貫こうとしていても、相手にその気が無ければ単なる妄想に過ぎない事に。


 このような時ほど、日本国憲法の前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」という皮肉な一行はないのではないだろうか。


 もちろん平和主義を否定すべきでは無いし、通常なら平和的な生活を望まない人間は居ないだろう。しかし盲目的な平和主義は時に戦争を引き起こす事をはっきりと認識しなければならないのだ。


 かつてナチスドイツを率いるアドルフ・ヒトラーに譲歩を繰り返して第二次世界大戦を誘発してしまった欧州のように。








 いずれにしろコミテルン帝国が日本に戦争を仕掛け撃退されたという事態は、大きな波紋となって国内外に影響を及ぼすことになる。





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