表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

第17話 自覚2


「貴国のものと思われる船団が日本の領土に近づいているとの知らせが来ましたが、何かご存知ですか?」



 与那国島に駐留する陸上自衛隊から30隻近くの船団が接近しつつあるという報告を受け、政府は即座に各国に派遣している駐在官や交渉団へ事実確認を指示した。

 菅谷達には思い当たる節が大いにあったために、直ぐにコミテルン帝国の代表の元に向かっていた。



「驚いたな・・・。蛮国風情が通信魔法具を使えるとは。」


帝国の代表は言葉を続けた。


「間も無くオキナワの占領が開始される。それが完了次第、ニホンを三等属国として扱ってやろう。ありがたく思うことだ。」


ある意味で予想の範囲内の返答だったが、菅谷達は認識の甘さを実感させられた。


「それは・・・日本と戦争する宣言と受け取って宜しいのですね。」


「どう捉えようと其方の勝手だが、帝国に勝てると思っているのか?」


「我々は一旦失礼させて頂きます。」


 言質を取って足早に立ち去ろうとする菅谷達に、帝国の代表は慈悲を与えてやるという様な上からの物言いで言った。


「そなたらが降伏を申し込めるよう、暫くは帝国に滞在する事を容認する。泣いて許しを請うというなら、略奪を控えるよう兵たちに伝えても良いぞ?」


「そうですか・・・また近い内に伺うことになるでしょうが、その際は宜しくお願いします。では。」






*****







 那覇航空基地に所属する海上自衛隊・第5航空群の二個飛行隊はかつてP-3C哨戒機を運用する部隊だったが、中国の海洋進出に対する警戒から新型国産機であるP-1哨戒機への更新が先行されていた。



 防衛大臣から防衛出動が下命され、第5航空群司令部に出動が命じられた。また政府内でも対策本部が設置され、対処方針の策定や各省庁・自治体との連絡体制の構築が始まっていた。



与那国島では駐屯する陸上自衛隊が迎撃の準備を始めていた。

 とは言っても与那国島に配備されている部隊は監視目的のため、火器は隊員や装備を守る為の最低限しか無くとても上陸を阻止するのは不可能であり、辛うじて出来ることは敵勢力の上陸予想地点から離れた場所に住民を避難させつつ応援が来るまでの時間稼ぎの体制を作ることだった。





*****






「閣下、間も無くであります。」


「やっとか。」


 侵攻部隊を率いるゼルバ・スチアロンは待ちに待ったと言わんばかりの声で部下に応対した。


「今回の戦は楽だぞ。何しろ軍を持つことが禁じられている国を攻めるのだからな。」


「しかしその様な国があるなど信じられません。しかも大陸との位置が描かれた地図まで見せるなど、攻めてくれと言っている様なものです。」



 コミテルン帝国には日本と国交を結んだ国々から断片的な情報が流れており、その中で憲法9条の条文を耳にした皇帝の鶴の一声で日本侵攻が決められていた。


 更には日本の領海を帝国に認識させる為に菅谷達交渉団が提供した地図があったことも侵攻の一因だった。






*****






 91式対艦誘導弾・ASM-1Cを搭載したP-1哨戒機20機が飛び立つ頃、コミテルン艦隊の上陸が始まろうとしていた。





「閣下、事前砲撃はしなくて宜しいのですか?」


「戦利品ごと吹き飛ばしては兵への褒美が無くなってしまうだろう。帝都のお偉いさんによれば相手は亜人ごときと対等な関係を結ぶ蛮族でしかないそうだ。それに抵抗が激しいならその時に撃てばいい話だ。」


 与那国島を目前にしたスチアロンは、自らの功績を称えられる未来を思い浮かべながら号令を発した。



「よし、上陸だ‼︎」


「「「おおおおおおオオオ‼︎‼︎」」」



 先遣隊の兵士が次々に小舟に乗り込んで島に向かって漕ぎ出したその時、異変が起こった。




「何だ?」


「鳥・・・いや竜か?」



 遠くの空から何かが飛んでくるのに気づき、兵士の多くは一旦動きを止めた。



「いくつもいるぞ・・・デカイ‼︎」


「何か落としていったぞ!」


 風を切る様な音が響き、落とされた物体はまるで意識をもっているかの様に艦隊に向かってきた。






直後、船団は爆音と水柱で包まれた。






「な、何が⁉︎・・・か、閣下‼︎ 6号艦、12号艦、17号艦沈没!」


「3号艦、25号艦も大破です!」


あまりにも一瞬の出来事に兵の多くは呆気に取られた。



「上陸急げ‼︎」


スチアロンの声で我に返った兵士達は取り憑かれたかの様に与那国島へ急いだ。

 そこには先程までの余裕や士気は無く、悪魔から逃れようとする防衛本能しか無かった。




 爆煙が空を覆い、海水と木片の雨が降り注ぎ、悲鳴が響くその度に船は数を減らしていく。

もはや自信と威厳に満ちていた艦隊の面影などありはしなかった。

 それでいて上空を飛ぶ悪魔の群れは一切の変化を見せず、まるで決まりきった日常の作業のように淡々と先ほど爆発したものと同じ物体を投下していった。



「な、何故・・・・こんな・・・事に・・・」


何が軍を持たない国だ、何が楽な侵略だ、これのどこが蛮族なんだ‼︎



 スチアロンの頭には帝国の外交官に対する様々な恨み言が浮かび上がってきたが、喉から出る前に旗艦へASMが直撃し、彼は海に吹き飛ばされた。









 艦隊は一隻残らず撃破したものの敵の少数が与那国島に上陸を果たしてしまった。しかし敵兵は多くても20名程度であり、悲観的状況ではなかった。



 後に応援の陸上自衛隊と米海兵隊も加わって直ぐに掃討されたが、逃げ遅れたり自衛隊の指示を無視した島民数名が犠牲となった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ