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踊り子の女


 夕暮れ時、廃都の街を歩く人間を見かけることはなかった。ここは本当に街なのだろうか。

「こっちです。離れないでください」

 リーフは警戒するようにあたりをきょろきょろしながら歩いている。

 怜奈は物珍しそうにきょろきょろしながら歩いていた。

 俺はリーフに問いかけた。

「本当にこんなところに住んでるのか?」

「ええ、見た目はちょっとあれですけど、静かでいいところですよここは。魔獣が巣食ってる建物があるのは玉に瑕ですけど」

 かなり危険な予感がする。


 しばらく歩くと、ひときわ大きなビルが見えてきた。ここは傾いたり崩れていたりはしてないようだ。

「ここです」と言われ中に入る。

 内装は、まるで現代のホテルのようだった。受付らしきカウンターと、ラウンジらしきところにはソファがいくつも並んでいる。

「あら、お客さん?」

 不意に声がして振り返った。

「姐さん」とリーフが声を弾ませる。

 その女は、どことなく妖艶な雰囲気を纏っていた。紅色の長い髪に、怪しげに光る紅色の瞳。鋭く尖った耳が、人間ではないことを知らせている。身を包んでいるのは、胸の大きくあいた服だった。

 今にもたわわなモノが零れ落ちそうだ。と思いながら見ていると、隣にいる怜奈の突き刺さるような視線を感じた。

「姐さんは、踊り子なんですよ」

 俺の熱い視線に気づいたのか、リーフがいたずらっぽく笑う。

「男の人を元気にするのが役目です」

 怜奈のかかとが、俺のつま先を踏んだ。なぜだ。


「私はサティと言います。うちのリーフがお世話になったようで」

 頭を下げるサティ。「あまりお構いできませんが、今日はゆっくりしていってくださいね」と続けた。

 怜奈とは別々の部屋に案内された。部屋は六畳ほどで、やはりホテルのようだった。

「さっき通った廊下の、両開きの扉はどこに繋がってるんですか」

 案内される途中、そこだけ物々しい雰囲気を纏う扉を見つけ疑問に思った俺は聞いてみた。

「あれは、地下室の倉庫に繋がっております」

 にっこりと笑顔を見せるサティに、俺は少しだけ違和感を覚えた。

 倉庫か……。なにやら人のうめき声らしきものが聞こえたと思ったのだが、それは俺の勘違いなのか?

 


 部屋で少し休憩していると、怜奈が勢いよく飛び込んできた。

「ごはんだって」

 そういえば腹が減っている、と今更思い出した。

 ラウンジに行くと、様々な料理が用意されていた。肉料理、魚料理、不気味な色をした野菜料理。

 どれも驚くほど美味だったが、今まで食べた事のないような味だった。材料は何かと聞くと、森で採ってきたものだとサティは答えた。

「街に人はいないようでしたけど、こんなところで商売やって成り立つんですか」

 俺は率直な疑問を投げかける。

「いえ、私たちはこれが本業というわけではありません。異邦人の方がたまにいらっしゃるので、人助けのつもりで宿を提供しているだけです。お金は取りませんよ」

「俺たち以外にも、異邦人が?」

「ええ、大抵はあの近くの草原に落ちてくるので、ここが見つけやすいんでしょうね」

「ここに来た異邦人たちは、今何をしているんでしょう」

「さぁ……。大体一泊されたあと、どこかに旅立たれてしまいますが」

「……そうですか」

 疑問はいくつもあったが、突然急激な眠気に襲われ始めた。疲れが溜まっていたのだろうか。

 怜奈も「ねむい」と一言つぶやいて部屋に引き上げてしまった。

 ガラスの嵌っていない窓から外を見ると、すでに真っ暗になっていた。

 俺もそろそろ寝よう。


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