謎は謎のまま
「助けていただいたお礼に、街まで案内しますよ。今日はうちに泊まって行ってください」
他に行く当てもなかったので、そう言う猫少年のリーフに付いていくことにする。
道中、怜奈はリーフの耳や尻尾を触りまくり、恥ずかしそうに嫌がる彼の反応を楽しんでいた。
盗賊と拳闘士、か。俺は歩きながら、先ほどのリーフの言葉の意味を考える。
ゲームなんかではよく目にする単語だ。すばしっこさを売りにして、トリッキーな技を使う盗賊。武器を持たず、拳ひとつで次々と敵をなぎ倒すパワータイプの拳闘士。
俺が今までやってきたゲームでは、そんなイメージだった。
リーフに、そんなイメージでいいのか?と聞くと「だいたいそんな感じです」と返ってきた。
となると次は、なぜ俺たちがそんな力を持っているのか、だ。
カッターナイフを握りしめ、ゴブリンと対峙したときのあの血がたぎるような昂揚感。あれはなんだったんだ?常に無気力だった俺に、あんな激しい感情の起伏が備わっているとは思っていなかった。いろいろ考えたが、「本能」という単語が一番しっくりくるように思えた。
「普通は家系や血統によって、生まれつきその人の素質が決まるんです。例えば僕なんかは、両親も祖父母もみんな魔術師でした。だから僕も、魔術師です」
にへらっと笑い、身に纏う黒いローブを広げて見せてくる。魔術師なんてご大層なものならば、なぜさっきゴブリンから逃げ回っていたんだ。
「俺たちの両親は、なんの力も持たないただの人間だ」
「あら、竜次のお母さんは、拳闘士じゃなかったかしら」殴ろうか。
確かに気性の荒い母で、幼いころは怜奈と一緒にいたずらをするとよく叩かれたりしていたものだが、巨体のゴブリンを数十メートルも吹っ飛ばしたりはしない。
「だから、謎ですね。落ちてきた人に力が備わっている事は、前例がないはずです」
落ちてきた人。空を見上げる。
俺たちはあそこから落ちてきたのか。見えるのは、日本から見える月よりもすこしサイズの大きな球体が三つ。等間隔に横並びで浮かぶそのうちのどれかが、俺たちのいた地球なのか。
「あの星に関して、僕には詳しいことは分からないんですけど、どこかにあの星を研究している機関があるそうですよ」
元の世界に戻るには、その機関とやらに接触する必要がありそうだ。
無限に続くかに思われた草原は、唐突に終わった。丘の向こう側に森が見えてくる。森に隣接しているのが、どうやら街の入り口らしい。
街の外観は、全体的に灰色な雰囲気だった。
地面は砂と草だが、ビルのような建物がそこかしこに林立している。たいていの建物は傾いていたり崩れていたり、ところどころが煤けていたり、蔓草が伝い始めていたりしているような有様だ。
廃都。まさにそう呼ぶのがふさわしいと思えた。
空に向かって伸びるコンクリート群を見上げて、俺は溜息をついた。
コンクリート?この世界のイメージとは、違いすぎる。