0匹目。
ドッタン、バッタン、と母が二階から降りてきた。
「ヤトっ、た、大変っ!!」
宇佐乃 夜兎。十五歳。えと、市立東高校一年生です。ちなみに、誕生日はまだ、来ておりません。
さて、このちょっと、お化粧が薄くなってきた母は、夜空。家で本屋を経営。最近はカフェと合併してにぎわっています。
そして、父は五年前に事故で他界。女2人で父が残してくれた一階が本屋兼カフェの二階部分に住んでいます。
「んー? お母さん、どうしたの?」
「あ、あのね! ヤトがオーディションに受かったのよ!!」
ビシッ、と紙を母は、仏壇に手を合わしていた私に見せた。私は、「どれどれ、」と覗き込んでみる。
「えっと…ジャヌーズ新グループメンバー募集の一次オーディションに通過しました事をお知らせいたします。……は? ジャヌーズ?」
ジャヌーズといえば、日本を代表するアイドル事務所だ。……ただし、男子の!!
「ご、ごめんねぇ、ちょーっと、遊び心でお母さん、ヤトの男装写真を送ってみたの…、」
男装写真といえば、つい、この前、一階のカフェで執事コスプレをしたばかりだった…、私は、がっくりと肩を落とすとお母さんをにらみつけた。
「お母さんっ、どうするつもり!?」
私の質問に母は、あはは、と笑った。そして、満面の笑みで私にはさみを見せた。
「もう、二次オーディション、行くしかないわよね?」
私は、返事もせずに母からはさみを奪い取り、ポニーテールにして一年ほど伸ばし続けた髪を思いっきり、切った。
バサッ、
その時の私の思い切りはとても、格好良かったそうだ。(母談。)