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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第一章 幼年期編
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銀色の耳

 ゴルドールを腕相撲会場に置き去りに、私はあの馬車へ向かって走っていた。

 冒険者が勝つかゴルドールが勝つかどっちでもいいが、とにかく長引いてくれれば助かるんだけどね。

 まぁすぐに勝負がついても広場は結構な広さがあるし、腕相撲会場と例の馬車の位置はその端と端になっているから中を確認するくらいの時間はあるとは思うけど。


 例の馬車が止まっている場所についたが、やはり回りに全然人が居ない。

 他の馬車は賑わっているのにこの馬車だけ人が居ないのだ。

 一体何がこの中に入っているのか。

 私はこの馬車に乗ってきた商人を探してみた。

 他は馬車の前で声を張り上げて商品を売っているのだが、この馬車の周りには商人が見当たらない。

 と思ったら馬車の影で草煙草、この世界で安い香料に使われている草を乾燥させて作った安物の煙草のこと、それをプカプカとふかしていた。

 商品を売る気がないのか、それとも誰も買いに来ないからそうしているのか。

 とりあえずその商人に声をかけてみることにした。


「あの、ちょっといいですか?」


 商人はハッとして、さっきまでの呆けた顔とは大違いのニコニコスマイルでこっちを向いて


「いらっしゃいませ!! いやぁお客さんはお目が高い!! こいつはあのハオウ共和国でも珍しい銀色の……」


 と、最初は勢い良く喋っていたが、私を見てだんだんとその笑顔を消していき、最後には、なんだガキかよ……と言い、ってガキ言うな。


「ここはガキが来る場所じゃねぇぞ。親御さんはどこ行ったよ? さっさと親御さん探して帰んな」


 子供が買うようなものじゃない。

 やはり魔物とか危険な生物でも乗っているのだろうか。


「よければ何が乗っているか見せてもらってもいいですか?」

「あぁ?おめぇ何が乗ってるか知らずに着たのかよ。あぁなんだ、お前が見ても面白くない物だよ。たく街で売れ残ったからキャラバンにひっついて着てみたがやっぱ売れそうにねぇなぁ」


 まったく相手にされない。

 街では魔物をペットとして飼うのが流行なのだろうか。

 この世には魔物を使役している人もいるらしいし、一定の需要があるのかもしれない。

 魔物なら魔物で見てみたい。

 村には魔物は出ないし、出たとしても村に来る前にゴルドールが狩ってしまう。

 しかも大体の魔物はその場で魔法を使って燃やしてしまう。

 なんでも放置しておくとその匂いで別の魔物が出るかららしい。

 一度だけ毛皮が使えるということで魔物の死体を持って帰っていたが、ウサギに三本短い角が生えたような魔物で、捌く準備にかかったところで私は部屋に戻った。

 血が滴っているのを見るのですら怖かったのに、腹を開いて革を剥ぐところなんて見たら絶対吐いてしまう。


「銀色の魔物ですか? かわいくて凶暴じゃなければ飼いたいんですが」

「魔物ぉ? はっ! 魔物なんて売っても誰もかわねぇよ。コレはそれよりももっと高価なものだよ。ま、この村にもコレを買おうって奴はいないみたいだけどな」


 商人はコレが売れないみたいで不機嫌だった。

 にしても何か教えてくれないな。

 早くしないとゴルドールが来てしまうじゃないの。


「一目でいいから見せてくださいよ。これでもそこそこ名のある貴族なんですけど」


 商人はあからさまに信じてないような目で私を見た後、あきらめたようにめんどくせぇなぁと立ち上がった。


「見せてやるからさっさと帰れよ。でも先に一得が本当に見ても面白いもんじゃねぇぞ」


 おっ、やっと見せる気になったか。

 私は何が出るか子供のように目を輝かせ、まぁ実際体は子供なのだが、商人が幌を捲るのを待った。

 この馬車の幌は他の馬車と違い、横の幌がカーテンのようにスライドするようだ。

 するするとそのカーテンが横にスライドしていく。

 そのカーテンの向こうにあったのは、予想道理檻だった。

 何も塗装もしていないだろうその灰色の檻は、所々錆びが浮いていたがしっかりとしていて、ちょっとした魔物でも壊せないのではないかと思うものだった。

 まぁそのちょっとした魔物ってのも見たことないんだけども。

 それくらい檻はがっしりしていた。

 だが三分の二も開いたのにまだ何も見えない。

 私はまだかまだかとカーテンが開ききるのを待った。

 そして、とうとうその時がきた。

 カーテンが開ききった檻の中にいたのは、魔物でも、かわいい動物ですらないモノ


「何……子供?」

「だから言っただろうが、面白いもんじゃないってよ」


 檻の中に居たのは、ぼろの布を体に巻いた子供だった。

 と言っても私と同じくらいの子供なのだが、何よりも私の目を惹きつけたのは、そのくすんだ銀色の髪と


「耳? 耳がついてるの?」


 そう、頭に耳がついていたのだ。

 猫の耳のようなものが頭の上についている。

 尻尾もあるのか気になったが、その子は檻の端にうずくまるように丸まっていたので分からなかった。

 でもなぜこんな子が檻に入れられているのか。

 見た感じ健康そうには見えない。

 檻の中はカーテンに遮られ、薄暗いのでさらに不健康に見えた。


「商人さん。この子はなんで、こんな檻に入れられているんですか?」


 商人は当たり前のように言った。


「こいつは奴隷だよ。商品だから逃げないように檻にいれてんだよ」


 奴隷。

 この世界には奴隷がいるのか。

 私は小さな子が檻に入れられている事と、この子は人としてじゃなく商品として売り買いされると言う二つの事実にショックを受けた。

 使用人などではない。

 この子は人としてじゃなくモノとして扱われるのだ。

 私は呆然とその子を見つめていた。


「おい、あれお前の親御さんなんじゃねぇのか?」


 商人が指差す方へ視線を向けるとゴルドールが何かが詰まっている袋を持ってこっちに走ってきていた。

 視線をまた馬車の方へ戻す。

 商人がカーテンを閉めようと、馬車の横についている紐を引っ張っている。

 カーテンが耳のついた子供を覆い隠そうとしたとき


 一瞬だけ、その子と目があった。




「今度からはちゃんと言うことを聞かないと連れて行かないぞ。いいな?」


 私はぼんやりとその言葉に、わかりました、と返事をした。

 奴隷。

 子供。

 商品。

 私はゴルドールに手を引かれながら家へと帰る道の途中、ずっとさっきの事を思い出していた。

 

 ショックだった。

 ファンタジーなこの世界では現実にあったような残酷なことは無いと心のどこかで思っていた。

 いや、たぶん私の周りには残酷なことは普通に転がっていたのかもしれない。

 ただそれを気づかせないように守ってくれていたのだ。

 ゴルドールが私にあの馬車を見せないようにしたのも、そういう事なのだろう。

 なのに私は彼の言葉を無視し、騙すようにして見てしまった。


「お父様……ごめんなさい」


 ポツリと漏れたごめんなさいに


「ん……反省しているならいい」


 と短く返事をした。

 その後はほとんど会話が無いまま、私達は家に着いた。


「二人ともお帰りなさ……何かあったの?」


 出迎えてくれたアーレが二人の顔を見て何かあったのか聞いてきた。

 二人とも険しい顔つきになっていたのかもしれない。


「実はな、カレンが……奴隷商の馬車を、見てしまってな」

「あら、そうなの」


 アーレはそれを聞いても表情を変えずにそれだけで済ましてしまった。


「お母様、あの子……あの奴隷の子は、あのまま売れなかったら、どうなるのですか?」


 私の問にアーレは当たり前のようにこう言った。


「売れなかったらウルガヌ鉱山で一生働くか、女の子で顔がよければ娼館で働くことになるでしょうね、それでも全く役に立たなければ……処分されるかもしれないわね」


 処分。

 まさか、物じゃあるまいし。

 いや、あの子は奴隷。

 他の人から見れば命や心があっても奴隷はモノなのだ。


「お母様、私……」

「カレン、よく聞きなさい」


 アーレは私が言おうとしていることが分かったのだろう。

 私の言葉を遮り、じっとこちらの目を見つめて言った。


「残酷だと思うかもしれないけど、それがこの国の秩序なの。もしかしたら奴隷にされるような事をしたのかもしれない。人に大金を借りて、返せなくなって奴隷に落ちる人も居るわ。悪いことをしたならば、それ相応の罰を受けなければいけないの」


 確かに私はあの子の事を何も知らない。

 もしかしたら犯罪を犯したのかもしれない。


「もしカレン、あなたがそれでもその奴隷の子を助けたくて、どうにかしたいって言うんなら、覚悟を持たなきゃ駄目よ」


 覚悟。

 覚悟か。


「覚悟……」

「そうよ。まだ難しいかもしれないけど、その子の一生を、その子が犯した罪を、全てあなたが背負うことになるかもしれない。一生よ。他の人達は奴隷を物として見ているけど、私はあなたにそうなってほしくない。途中で捨てるなんて事は私が許さないわ」


 人一人の一生を、もしかしたら罪をも一緒に背負う。

 その為の覚悟。


「人の命を買うって言うのは、それほどの覚悟が要る事よ。カレン、あなたにその覚悟はある?」


 正直、分からない。

 一生を背負うと言うのはどれほどのものなのか。

 前の人生でも結婚をしたり子供を生んだわけでもない。

 ましてや買うことなんてありえなかった。


 だが、あの時。

 一瞬目が合ったとき、あの子の目は、絶望しか映ってないような、ひどく暗い目をしていた。


 私はそれを思いだすたびに、まるで心が掻き毟られるような、えぐられるような感覚に襲われる。

 覚悟が今は足りてないかもしれない。

 だが、あの子を檻から出してあげたい。あの暗い顔を笑顔にしてやりたい。

 なぜここまであの子の事が気になるのかわからない。

 でも、どうにかしてあげたい。


「お母様、私はこれから魔法を習い、剣を習い、勉強をして知識もつけます。そしてあの子と一生を共にすることを誓います。だから、あの子を買うことを許してください」


 アーレは私の心を見透かすように、じっと私の目を見つめている。

 私はその目をじっと見つめ返す。

 覚悟と言うのかどうか分からないが、私はあの子のために、笑顔にするために一生共にあることを誓った。


「……ふぅ、分かったわ。まぁお金は冒険者時代に貰った物で作れるから、明日その商人のところに行ってみましょう」


 ふっと目を和らげて、アーレは私にそう言って微笑んだ。

 そうだ、私はお金のことをまったく考えていなかった。

 商人はなんたら共和国でも珍しいと言っていた。

 相当な金額なのかもしれない。そもそも奴隷がどれほどかも私は知らなかった。

 急に不安そうになった私の顔を見てアーレは笑い


「さっきの凛々しいカレンはどこに行ったのよ。大丈夫よ、全然お金には余裕があるから。これでも一応は貴族なのよ?」


 といって私の頭をなでた。

字数多すぎたかな…

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