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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第三章 学園編
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苦手なこと、得意なこと

 「イヤ。カレン様と一緒にここにいる」

 「いやね?私も離れるのは嫌だけど、でもさ、こう、セリシアは剣術を学んだほうがこう、ね…?いや、いや、魔法ができてないとかじゃないよ?もちろん、頑張ってるのもよぉく分かるんだけどもね?」


 しどろもどろに説得しようとする私。

 断固として納得しないセリシア。

 全くの他人が見ても分かるくらい頬を膨らませて怒っている。


 「ご飯、もういらない。部屋にかえる」

 「あ、ちょっとセリシア…」


 セリシアはがたんと音を立てて立ち上がり、部屋に戻ってしまった。

 はぁ、とため息をつく私。

 怒るセリシアに対して、全く強気に出れない私を見て同じようにため息をつくアヤメ。

 こう、年頃の娘さんを持つ親御さんはこんな気持ちなんだろうか…?


 どうしてこうなったし…。


 事の発端は少し前から、いや、ここにセリシアと一緒に入学したのがそもそもの始まりかもしれない…。



~~~数日前~~~



 晴れた昼下がりの空に、気合の入った声が響く。

 声が聞こえてくるのは、瓦屋根の建物からだ。

 中を覗けばき、竹刀や胴着を着た武道者達の切磋琢磨している姿が見えるのだろう。


 が、それは元の世界の日本での事。

 ここではそうではない。

 

 竹刀は無い。

 あるのは杖、無手のもの多い。

 胴着も無い。

 あるものはローブを、あるものは革の防具を着用している。

 板張りの床にはうっすらと魔方陣が浮かび、時折はっきりと光り、その文様が見て取れる。 


 そう、ここは日本には無い場所。

 魔法学院にある修練場。

 そして、今日は魔法の模擬戦闘が行われている。


 「風の精霊よ!!我に力を、彼の者に鉄槌を!!」


 ローブをはためかせながら、詠唱を終える相手。

 緑魔法、詠唱にもあるように風。

 鉄槌って言っているし、たぶん真空刃!とかで切り刻まれる事はないだろう。

 この世界の魔法はイメージで形が決まりやすいので、詠唱にそれに関連する言葉を入れると形作るのが早く、正確になる。


 相手の姿がぶわりとぶれる。

 私は魔力を練り、イメージする。

 相手の風を逃がすような、切り裂くような鋭角な三角形の壁。

 しゃがんで手を床に付ける。

 相手との間に歪みが見える、たぶん高密度の空気の塊。

 かなりの勢いで近づいてくるそれを視界から遮るように、ズズズ、と目の前に黒い壁が生成される。

 塊で三角柱を作るのはしんどいので、二つの壁を鋭角に組み合わせて、角を相手のほうに向くように生成。

 ぼんっ!と何かが弾けるような衝撃と、まるでトラックがそばを通り過ぎたような、ごうごうと音を立てて風がそばを通り過ぎていく。

 私の作った黒い壁はびくともしない。


 「くそっ!水よ!!」

 

 土には水。

 よくある常套手段。

 正面から大量の水がぶつけられる。

 いくら尖らせて正面からの威力を分散するにしても、これだけ大量の水を浴びれ角からぼろぼろと崩れていくだろう。

 水を染み込ませて、さっきのような風の衝撃を受ければ吹き飛ばされるかもしれない。

 

 どうしよう、どうしよう!!もうだめだぁ~!

 がたがた震えて命乞いするしかないよぉ~! 


 何てことにはならない。

 なんたって私のは特別製だ。

 他人より大量にある魔力を注いでいる。

 それに、私の武器のガンブレードの弾にするために、毎日毎日硬く、鋭く、速く、正確に作るという練習は、私の黒魔法、土の生成技術を飛躍的に上げてくれた。

 いまや私の作る壁は土、というより石か、それ以上の硬さを誇っている。

 黒くて、すごく…硬いです…。なんてね。


 これからどうしようか考えていると、壁に切り裂かれた水流がだんだんと弱くなっていく。

 ちらり、と壁から顔を出して見て見ると、相手はぜいぜいと肩で息をしている。

 最初は力を込めて突き出されていた手も、いまやもう片方の手で支えないとこちらに向けられないほど辛そうだ。

 魔力切れ、だろう。

 魔力は体力のようなものだ。

 無くなれば体を動かすのも辛いし、最悪吐きながら汚物の中にぶっ倒れることになる。

 

 というか私が小さいころなったからね。

 懐かしい。

 

 このまま魔力が完全に切れるのを待ってもいいが、汚物にまみれて保健室行き、はさすがにかわいそうなので、ここら辺で終わらせるために次は私から攻めてみる。


 勢いが落ちても大量の水をかけられている壁に手をかざす。

 そして一気に加熱!

 ぎゅんぎゅんと魔力が吸われていく代わりに、手をかざした場所からだんだんと色が変わり、赤くなっていく。

 相手の水が冷やすより早く、熱くなっていく壁。

 じゅうじゅうと、水が蒸発していく音が大きくなっていく。

 周りに立ち込める熱気。

 

「くっそ、うそだろぉ!?」


 焦る声が、壁と、白く立ち込める水蒸気越しに聞こえてくる。

 

「さらにさらに、この壁をこうやってぇ」


 さらに魔力を込めて、壁の形を変える。

 少しずつ相手に向けて円錐のように尖らしていく。

 もちろん熱を伝えやすいように中は空洞にして、熱を加え続ける。


 赤く、熱された大きな円錐。

 傍から見たら、相手に向けられたそれは大きなランスのように見えただろう。

 ていうのはかっこつけすぎかな?


「さーていきますよ!」


 円錐の空洞の中に圧縮した炎の塊を作り出す。

 着火。

 赤熱したランスは、爆発した炎の衝撃を内部に受けて、相手に向かってすっ飛んでいく。


「ちょちょまっ…!……ごゅほっ!!」


 ふらふらな相手の腹に、容赦なく赤い槍が突き立てられる。

 あぁ神よ。願わくば彼を安らかに天へ導きたまえ…。

 彼のローブは赤く染まり、静かに魂の無い体だけが横たわるのだった…。


 なんてことにもならない。

 なんか変な声が出ていたが、たぶん大丈夫。

 たぶん。


 あ、先生が担架持ってきてる…。

 

 後から話を聞くと、結局魔力切れでそのまま気絶していたらしい。

 私のせいじゃないぞ。

 ないよね?

 確かに、思ってたより多少は時間がかかったけども。



~~~


 

 周りでは他の生徒が同じように魔法でのバトルを繰り広げている。

 派手に吹っ飛んだり、吹っ飛ばしたり。

 だが怪我人は出ない。

 出ないように作られている。


 この修練場、床に特殊な魔方陣と、さらに壁や、床下、建物の基礎にまで色々施されているらしく、体に傷がつかない、ついたとしてもすぐに回復するようにできている。

 魔力までは回復できないが。

 まぁそれができたら魔法での模擬戦闘は終わらないしね。

 

 相手がダウンしたので、私は暇になってしまった。

 手の空いたほかの生徒に相手をしてもらってもいいが、私が声をかけると大体の生徒が辞退していく。

 さっきの相手は珍しく向こうから声をかけてきたが、大体は一人戦うとあとは暇になる。


 たまにある修練場をつかっての魔法の模擬戦闘。

 最初のころは色々声をかけられたし、かけても拒否されなかったのだが、今みたいな戦闘を続けているとだんだんと避けられるようになってしまったのだ。

 それだけ勝てない相手、強い相手と思われているのだろう。

 強者は辛いね、まったく。

 さ、さびしいとか思ってないし!平気だし!

 うぅ…。


 寂しさを紛らわすのに、かわいい女の子に声をかけて冷やかそうとも思ったが、アヤメとセリシアの応援でもしようと思う。

 露骨に嫌な顔をされて心が痛かったからではない。

 決して。

 うぅぅ…。



~~~


 

 びゅんびゅんと風がうなる。

 緑魔法を使っている白とも、銀色ともいえる髪の超絶美少女、セリシア。

 彼女は剣で戦えば、私では足元にも及ばないほど筋がいい。

 獣人特有の体躯の強さに加えて、魔法での加速など、同じ年の並みの剣士では勝てないだろう。

 だが、今は魔法オンリーでの戦闘。

 彼女には分が悪い。

 

 セリシアの魔力は少ない。

 元々剣士よりなのだ。

 緑魔法の扱いは上手いが、剣での戦闘を軸にしての扱いだ。

 魔法だけだとかなり苦戦してしまう。


「…風の(つるぎ)!」


 セリシアがぶんと腕を振ると、風を切る音と共に目に見えない何かが飛んでいくのが分かる。

 鋭い風きり音を立てながら相手に飛んでいく、それを相手は間一髪で避ける。

 

「風の剣よ!」

「火よ!槍として相手を貫かん!」

 

 セリシアは詠唱を短縮しているので、相手より出が速かった。

 が、相手の魔力の方が上なのか、飛んできた3本の炎の槍によって一瞬でかき消されてしまう。


 攻撃をすばやい動きでかわしていくセリシア。

 時折避けつつ風の刃を飛ばすが、ことごとく打ち落とされている。

 

「うっ…!」

 

 魔力を攻撃に、避けるための身体強化に、と同時に使い続けているため、疲労で動きが鈍くなってきている。

 だんだんと被弾率が上がる。

 そして…。


「…ここまでにしましょ。もう勝負は決してるわ」


 ふらふらのセリシアに、相手からの負けを認めろという言葉。


 セリシアは素直に負けを認めた。



~~~現在~~~



「う~ん、どうすればいいんだろうか…」


 残った二人で食堂でつつく夕食。

 周りは騒がしいが、私達のテーブルは静かだ。

 お皿のなかのスープも冷たく感じる。 


 ここは魔法学院。

 その名の通り、魔法を主に教え、研究する場所だ。

 一応他にも色々教えてはいる。

 算術、薬草学、裁縫、革細工とか、他にもよく分からないものもあった。

 王国が建てただけあって、使っているものもレベルも高い。

 

 だが、剣術を教えるレベルだけは低かった。

 何回か出席してみたが、正直実家でお父様に教えてもらうほうがいいんじゃないかと思うレベルだった。

 入学の時立会いとかしてたと思うが…。

 

 「でも、だからって実家に帰ったほうがいいかも、っていうのもねぇ」


 そう、魔法が苦手なセリシアは、ここより実家で剣を教えてもらったほうがいいのでは?と話に出してみてみたのだ。

 私も本気で言ってるわけではないのだけど、一応の可能性として、そういうのもありではないかというものではあったのだけれども…。


 「上手くいかなくて落ち込んでるところにその言葉って、さすがに逆効果だと思うわよ?」

 「うあぁ…私はなんてことを…」

 

 あんなに怒って拒否するセリシアなんてはじめて見た。

 うぅ…ごめんよぉセリシア、嫌いにならないでぇ…。

 

 ごめんよぉ、とぶつぶつ呟くダメ人間になっている私をよそに、夕飯を食べ終えたアヤメが一言。


 「とりあえず、私達だけじゃいい案が出そうに無いわね」


 あんたはこんな感じだしね!とでも言いたげな目でじとっと睨まれる。

 ごめんなさいぃ…。


 「誰か力になってくれそうな人っていないの?」

 「先輩達は、当分帰れないんだっけ」


 いつもの先輩達は、皆いま学園にいない。

 ヨナ先輩はアイナ先輩に連れていかれ、アヤメのルームメイトの先輩も実家の様子を見てくるということでいないらしい。

 う~む、誰か他に…。

 

 誰かいるわけではないが、考えながらぐるりと食堂を見回す、あれ?


 「…スワニルダ先生?」


 食堂から少し汚れた白衣をきた人物がちょうど出て行こうとしているのが見えた。

 先生もここで食べるのか、なんか意外だ。

 自室で研究しながらモソモソサンドイッチを食べてそうなイメージだったんだが、いや、そんなことより。


 「アヤメパイセン、最近知り合った人で、力になってくれそうな人がいるんスけど、どうっスか?」

 「?」


 訝しげな目を向けてくるアヤメ。

 私は残りのスープをマナーそっちのけで飲み終え、先生を追いかけたのだった。

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