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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第三章 学園編
37/39

寝る前に

 スワニルダ・フォン・ヴォルフガング。

 なんて言いにくい名前だといいそうになるが、ヴォルフガングというかっこいい響きに免じて許してや、いやすいません、調子乗ってました。


 今私はそう名乗った彼女の前に座らされている。もちろんジャパニーズセイザだ。

 彼女の隣には恋人であるらしいフランツが座っている。私が引きちぎってしまった腕も彼の足の上においてある。

 恋人……。

 私から見たらどう見ても人には見えないのだが。


「うーん、まず名前から聞こうか。名前はなんていうんだ?」

「カーレント・アウドといいます」

「カーレント……ああ、最近噂の貴公子様か」

「誰が貴公子です?」

「お前がだ。誰もが驚くほどの魔力量と変わった剣を持った美男子。まぁまさかそれがこんな」


 そう言いながら彼女の目線が私の胸に移動する。


「あー……ほんとに女か? いや確実だとは思うが全然無いな」

「ほっといてください。というかなんで分かったんですか?」


 年上にはばれる何かがあるのだろうか。

 

「あれだけ女の子な声でいやいや叫んでたら分かるだろう。顔も中性的だから男装すれば男にも見られるだろうな。すごく平らだしな」

「くっ」


 聞かれてたうえにこの仕打ち……。

 キッ、と彼女をにらみつける。


 椅子に腰掛け足を組んでこちらを見下ろしている白衣の彼女。

 髪はぼさぼさでいかにも研究しかしてませんという印象を受ける。

 目もなんだか眠そうな感じで隈があるようにも見える。


「で、なんで研究室がこんなことになったか教えてもらえるか?」


 私はここに来るまでの事は適当に誤魔化して、入ってきてからの事をメインに話した。


「ふむ、それでこうなったと。でもまさか我が愛しのフランツに怪我を負わせるとは思わなかったな」


 そういって隣のフランツのぼろぼろなズボンを履いた足に手を乗せる。


「フランツには防護の魔法陣を忍ばせていたんだが、それでも耐え切れないほどの魔力。確かに他の奴等が興味を持つのも分かる。なかなかいるもんじゃないからな」


 足に乗せた手を移動させて腕を組むようにフランツに寄りかかる彼女。

 なんだろう、ネクロフィリアか何かなのかな?

 いや、そもそも何でできているんだろう。

 やっぱりゾンビとかミイラなのだろうか。


「ん? なんだじっと見て。彼は渡さないぞ?」

「いやいりませんから。というかその、フランス? さんは何なんですか?」

「フランツだ。彼は私の作った……人形、だ」


 あぁ人形だったのか。

 本気でゾンビかと思った。

 何でも中にある程度自動で動ける魔方陣が書いてあるとか。


「あの、腕もいじゃってごめんなさい。最初ゾンビかミイラの魔物かと思って」

「見た目がこんなだからな、しょうがない。今ちょうどボディの再構築をしていてな。腕もどうせ取り替える予定だったからいいんだが……。そういや貴公子様よ、魔力を結構使ったみたいだが、体のほうは大丈夫か?」

「はい、全然余裕です」

「余裕か……。お前家計にエルフがいたか?」

「はい、母がハーフエルフです」

「ハーフ? 父親は?」

「普通の人間です」

「クォーターか……それでその魔力量……」


 フランツと腕を組んだまま考え込む彼女。

 そんなにおかしなことなのだろうか。

 エルフは基本魔力が高いから、私もその血が流れているからこうなっているのだと思っていたんだけど。


「正直言うとクォーターでその魔力量はおかしいな。我が血のようにまったくの純血ならまだしも」

「え!? スワニルダさんエルフなんですか?」

「ん? ああ、純血のエルフだよ。年は聞くな、数えるのをやめて久しい」


 ええ……純血のエルフなのか。

 ぼさぼさで癖で跳ねまくってる髪に隠れているが確かに耳がエルフ耳だ。


 正直エルフに対してのイメージが犯された気がする。

 アーレはハーフでも美人でどこと無く神秘的なエルフっぽさがあったから、純血の人はさぞや綺麗な、妖精すら回りにいるような、なんか常に光っているようなイメージを持っていた。

 が、彼女はどこにでもいそうな研究員だ。

 研究以外はだらしなく、きっとお風呂にも三日に一回くらいで、主食はカップラーメンを食べているに違いない。

 まぁカップラーメンは無いか。


「なんかすごく嫌なイメージをもたれた気がするが、まあいい。それよりわれは講義のためにそろそろ部屋を出なければならないのだが、お前はどうする?」


 この人教師だったのか。

 というかなんか一人称が古風というかなんというか。


「どうするって、部屋から出ますよ」

「そうか、よければ講義を見ていくか? 寮には帰りたくないんだろう?」


 心臓がドクンと鳴った。

 

「なんで、そう思うんですか?」


 私の問いかけに、けだるそうな顔でふっと笑い、三百年は生きているんだ、それくらい顔を見れば分かる、と答えた。


 年数えてないんじゃないのかよ。



~~~



 彼女について部屋を移動する。

 講義をする予定の部屋に入り、始まる時間まで待つ。

 といっても時間があるわけではないので、大体の時間である程度集まったら始まるのだが。

 席に着き、周りを見渡してみる。

 あまり人はおらず、私を合わせても5人しかいない。この教室は少し中心から離れている場所にあるから集まりが遅いのかも知れない。


 そう思っていたが、一人増えただけで全然集まらなかった。


「では、そろそろ始めようか」


 大きな黒板の前にある壇上でスワニルダが声を上げる。

 静かな教室での講義が始まった。



~~~



 講義の内容は、今までのものと色々と違っていた。


――魔法による記憶、性格などの情報の記録、そしてそれを使っての魔法陣での再現――


 この講義ではじめて知ったが、彼女が言うには人の魔力には個々人の記憶や性格などの情報が混ざっているらしい。そしてそれを魔法陣へ移して刻み込み、その人の記憶や性格を記録、さらに人形へそれを書き込むことによってその人を再現する、というものだった。


 これって、つまりあれだ。

 クローン技術に近いものじゃないか?


 前世では倫理的な問題などで禁止されていたものだ。

 

 いや、とある近未来SF漫画の電脳化のほうが近いのか?

 でもここにはネットも無いし、そもそもその記憶を入れたあと学習しないんだったら意味がないか。

 もし学習できるとしたら、それによって行動パターンも増えて人間のように……まてよ、そうだとしてもゴーストが入っているわけじゃないから、結局はただパターンの多いだけの人形に……でもこっちがそれを魔方陣に刻まれた行動だと分からなかったら人間として認識したとして、そうすれば客観的にはゴーストが宿ってると言えるのか? そういえばあの作品ではゴーストの定義とかあったっけ?

 

 私がうんうんと一人で勝手に思考の迷路にはまっていると、スワニルダ先生が私の名前を呼んだ。


「何か一人で考えこんでいる人間がいるが、カーレント君、このことについて何か思うことがあったか? 何でも思ったことを言ってみるといい」


 教室中の視線がこっちを向く、といっても4人しか、あれ、人減ってないか?

 とにかく私はさっき考えていた事を簡単に説明した。


「ふむ、君はなかなかに面白い考えをしているな。ゴースト、とは魂のことでいいんだな? 魔物じゃなくて」


 ああ、この世界にはゴーストって魔物がいるのか。幽霊みたいなのかな?

 私はその問いに肯定する。


「そうだな、まだそこは研究中なのだが、今のところかなりの時間が必要だが、少しずつ学習しているようだ。ただ、魂が宿っているかは分からん。客観的にみて人間のように見えるかもしれないが、繁殖もできないし、恐怖を感じたりすることもない。生物としての定義からは外れているな」


 学習するのか。

 もしかしたらいつか自我を持ったりするのだろうか。


 講義はその後も静かに進んでいき、静かに終わった。


 私としてはすごく面白いものだったが、何でこんなに人が少なかったのだろうか。

 記憶の保存、再現、まるでSF世界のお話で面白いのに。

 まぁファンタジックなこの世界ではそれぐらいじゃ驚いたりしないのかもしれないな。

 


~~~



「で、なぜお前は我の部屋に一緒に帰ってきたのだ?」


 私は講義の後、先生について研究室まで戻ってきた。

 

「いや、あのー研究室めちゃくちゃにしたままだから、片付けを……」

「うそつけ、寮に帰りにくいんだろう。なんだ、同室の奴と喧嘩でもしたのか?」

「まぁ、そんな感じで……」

「しょうがないな……お前がよければ一日だけ相手してやる。明日には帰るんだぞ」

「え! いいんですか!?」

「そんな顔してたらさすがの我も帰すのはどうかと思ってしまう、ただ明日には絶対帰るんだぞ?」


 そんな顔ってどんな顔だろうか。私結構顔に出やすいのかしら……。

 いきなり来た私を泊めていってくれるあたり面倒見がいい人なのかもしれない。

 

 瓦礫をまとめて端に寄せる。

 とりあえず今日はもう遅い (めんどくさい)から明日ごみをまとめて捨てるらしい。

 なんか数日放置しそうな感じだが、私の部屋じゃないしいいか。


「あれ、ここベッドとか無いですけど、まさか床で寝るんですか?」


 うわ、あからさまに馬鹿かって顔してる。

 しかもフランツさんにジェスチャーであたまパーみたいなことしてこっちを見てくる。

 フランツさん特にリアクションせずに見えている片目だけこちらに向けてくる。

 めちゃくちゃ怖い……。


「ここで寝れるわけ無いだろう。こっちだよ」


 あ、ですよね。

 

 先生は無事だった奥側の棚のほうへ向かった。

 そしておもむろに棚に手を掛けて――       


「うおっ」


 動いた。

 忍者屋敷ばりにくるっと回る。


「ニンジャナンデ?」

「ん? なんだそれは」

「いやこっちの話です。でもなんでこんな隠し扉が?」


 問いかけに手招きで返しながら隠し扉の先にいく先生。

 私はフランツさんと二人きりになるのはいやなので先生について扉をくぐる。

 フランツさんはついてこなかった。


「寝るのはここだ」


 隠し扉を抜けた先は小さな部屋だった。

 見た感じ寝室かな。


 小さなテーブルを挟んでソファーが二つ。

 それとは別に机がひとつと、ベッドがひとつ。

 全体的に狭く感じるが、窮屈すぎることも無く、私としては落ち着ける感じだった。

 にしても……。


「ベッドがひとつですか……]

「何いっている。お前はソファーだ」


 ですよねー。

 ついでにお風呂も無いのか聞いてみたら、無いと言われた。

 ちょっと辛いが一日ぐらい我慢しよう。

 

「お前、一応同室の人には連絡したほうがいいんじゃないのか?」

「あー、たぶん大丈夫かと、あ……」

「あ、なんだ」

「そういえば一泊二日で出てるから今日帰ってこないんでした」


 おっと、あからさまな帰れオーラが見える。

 

「まぁいいじゃないですか、先生も一人じゃ寂しいでしょ?」

「彼がいるから平気だ」


 逆に怖い気がするんだが。


「私じゃなくて、お前が一人がいやなんだろう?」

「いえ、そんなことは」

「誰だってたまには一人になりたいときがある。だけど、人はただ、人を求めるときがある」


 ただ人を求める……

 

「何かあったんだろ? これでも教師だ、生徒の話を聞くぐらいはできるぞ。それに、知らないもの同士だから楽に話せることもあるだろう?」

「見かけによらず面倒見がいいんですね」

「我にとってはお前たちは小さな赤ん坊のようなものだ。面倒くらい見るさ」


 エルフだからか、なんとなくアーレを思い出す。

 アーレの方が綺麗好きでエルフっぽい気がするが、なんとなく似ていると思った。



~~~



 私は今まで誰にも話したことの無い事を話した。

 話したことの無い事。

 私が女性しか好きになれない事や、それを知られるのが怖いこと、転生の事はややこしくなりそうなので言わなかったが。

 なぜここまで話したのか私も不思議に思った。

 なんとなく彼女は大丈夫だと思えた。

 泊めてくれたりしたからか、彼女の言葉に安心したのかもしれない。

 

 私の言葉にずっと耳を傾けて、時に頷きながら聞いてくれた。

 その後特に何も言わなかったが、私は少しすっきりした。

 人に話すとすっきりすると言うのは本当だったんだな。

 そういえば、今までこっちにきてから誰にも相談なんてした事なかったしな。


「……お前は、後悔しないか?」


 静かな部屋の中、彼女の声が響く。


 後悔、か。

 

 どうだろうか、私はこのままだと後悔するのだろうか。

 前世では、正直良い人生を送ったとは思えなかったし、転生してから今度はそんなことは無いようにとも思った。

 そして今、私はどうだろうか。

 良い人生を送れていると思う。だが、このまま周りに隠し続けても後悔せずに生きられるのだろうか。

 

「どう、でしょう。私がこのことを伝えたとして、どちらにしても後悔するかもしれません」

「そうか……」


 しばらく沈黙が流れる。

 私はその沈黙の中目を閉じる。

 

「……まぁ、なんだ」


 反対を向いたまま喋っているのか、少し遠くから声が聞こえてくる。


「お前はお前らしく、思ったまま喋り、行動すればいい。お前にとって大切な奴は、きっとそのことを気にしないし、もし周りのや奴等がそれを気にするようなら、ここにまた遊びに来い」


「我はそんなこと気にしないし、また来たときは泊めていってやる」


 私は、知らず胸の奥から熱いものがこみ上げてくるものを感じた。

 

「……先生、ありがとう」


 震える私の言葉に、あぁ……と素っ気なくだが、彼女は答えた。


"自分らしく振舞いなさい、思ったままを言葉にしなさい。なぜなら、そのことを気にする人はあなたにとって大切な人ではないし、あなたにとって大切な人はそんなことを気にしたりはしないはずだから"

スース博士(児童作家)

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