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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第二章 駆け出し冒険者編
32/39

過去、そして混沌

「とりあえずアヤメちゃんはお風呂に入って血を流してきたほうがいいよ。その綺麗な黒髪が傷んじゃうから」


 言われたとおりアヤメが脱衣所に入っていく。

 私は近くのベッドにぼすんと腰かける。

 セリシアは別のベッドに腰かけた。

 いつもは隣に座るのに……。

 フラウさんは血が付いた斧とガントレットを外して布で血を拭き取っている。

 

「さて、聞きたいことはある?」


 こっちを見ずにフラウさんが質問する。

 

 聞きたいこと……。


「あの、あの人は何なんですか? フラウさんの事を知っているみたいでしたが……」


 フラウさんの手が止まる。


 ……あれ、いきなり地雷だったか?


「カーレントちゃんは、帝国戦争って知ってる?」


 帝国戦争……。


 あ、あれか、ゴルドール達も参戦したっていう。

 確かアキレス帝国が侵略戦争を始めて、それをハイランド軍が押し返して、今は停戦状態だったか。


「あの戦争で犠牲になった国があってね。セリシアちゃんの国、ハオウ共和国なんだけど……」


 ハオウ共和国、アキレス帝国と隣接している国だ。

 そしてセリシアが産まれた国でもある。

 

「ハオウ共和国はアキレス帝国の侵攻を止められずに侵略された……今じゃ街は荒れ、人たちは貧困にあえいでいる。そしてそうなったのはハイランド軍のせいだと言う者もいて、さっきのはその内の一人ってこと」


 名前を知ってたのは軍人として参戦してたからか、元隊長って言ってたし、結構名前知られてたのかな。


 そういえばさっきの人裏切りとかなんとかいってたよな。

 聞いても大丈夫だろうか、まぁダメなら答えないだろうし聞いてみるか。


「あの人、ハイランド軍の裏切りがどうとか言ってましたけど……」

「それ、は答えられない」


 うっ……さっきと同じような殺気を感じる……。

 体が固まる……。

 やめて、ほんと怖い……。


「あ、ごめんねつい力が入っちゃった」

「いや、いいですよ、私が地雷を踏んでしまったのが悪いんです……」


 やばかった……。

 正直漏らすところだった。

 裏切りについては聞かないほうがいいな、後聞きたいこと……。


 あれ?


「その内の一人って事はあの人と同じような人はまだいるんですか? それこそ同じ種族の人とか」

「あぁいるよ。虎族の、しかも白い髪はハオウ軍の中でも上位の者達だった。正確には白虎族か。今のハオウ軍をまとめているのもその種族だ。セリシアちゃんと同じ種族だよ」


 いる、いるのだ。

 ということは……。


「セリシアちゃんの父親は、いないよ……軍のトップで、国の王でもあった彼は最後の最後までアキレス帝国に抵抗して、そのまま帰らなかった。母親、王妃はその後娘と他国に逃がされ消息をたった……」


 先に言われた。


 いや、でもなんでそんなに詳しいんだ?


「あなたは……」

「そして、王女が見つかったと聞いて接触し、そのまま監視を続行。奴らの狙いの一つ、セリシア王女を守りながら奴らが現れるのを待ち、そして処分する。それが今回の大まかな任務だった」

 

 監視……。

 元々偶然じゃなく狙って近づいてきたってこと?

 

 え、というか待った待った、セリシア王女って、セリシアが、王女様?

 いや確かにセリシアは王女並みの可憐さと可愛さを持っていると思ってたけど、ってそういうことじゃないか。


「すいません、なんかついていけないんですけど……セリシアが王女様?」


 そう言いながらセリシアを見ると……あれ、セリシアもすんごいびっくりしてるんですけど?


「何? セリシア、あなた王女様だったの?」


 いつの間にか上がっていた湯上がりのアヤメもびっくりしている様子。

 まぁそういう反応になるよな。

 

「私も、しらなかった……」

「そうだろうね、あの時はまだまだ小さかったから。目元とかお母様によく似ているよ」

「え、セリシアのお母さんを知っているんですか!?」

「あぁ、私は軍団長としてお父様と肩を並べたこともあったし、親交もあったからね。隠していてごめんね」


 知ってたのか。

 知ってたら言ってくれればとも思ったが、さっき任務って言ってたし言えなかったんだろうな。


「本当に立派になった。他国へ出たと聞いたときはどうなるかと思ったけど、元気そうで良かったよ」


 ふっ、とフラウさんが笑顔になる。

 フラウさんがセリシアに向ける視線。

 まるで親が子供に向けるような暖かい感じがする、そんな視線だった。


 そういえば私達とずっと一緒にいたときセリシアには絶対手を出さなかったな。

 何かと見てたから気にしてたけど、そういうつながりがあったからなのか。

 なんかこう、親戚のかわいい子というか、なんか身近にいた子が大きくなって帰ってきたみたいな、そんな感覚かな。


 セリシアの神聖たる体に見入るとはなんて不届きものだと思っていたけど、そんなことはなかったのね。

 カレン反省……。


 とりあえず王女様とかは一旦おいておいて、お母さんは今どこにいるかわからないかな。


「あの、セリシアのお母さん、王妃様は今どこにいるとかわかりますか?」

「あぁわかる、が、場所は教えられない」

「え! 何でですか!?」

「こっちの都合もあるんだけど、セリシアちゃんに危険が及ぶかもしれないから。わかって頂戴」

 

 教えられない……か。

 でも生きているってことがわかっただけでもよかった。

 

「安心して、ずっと会えないってわけじゃないから、とりあえず今の問題が解決したらすぐに連絡するよ」


 それなら、いいのかな?

 会えることは会えるのか。

 よかった。


「私、会わなくてもいいです」


 ……え?


「セリシア? どういうこと?」


 フラウさんもえ? って顔してるし。


「お母さんは、たぶん私が帰ってくるの、嫌だと思うから」

「なんで、そう思うの?」

「覚えてるのは、ぼんやりとだけど、お父さんとお母さんが喧嘩しているところ、理由はたぶん、私が生まれたから」

「なんでセリシアが生まれたら喧嘩することになるの?」

「私が女だったからだと思う」


 あれか、跡継ぎの問題か。

 戦争中で、生まれた子供が女の子。

 もしかしたらなかなか次の子ができなかったのかもしれない。

 そしたら喧嘩になるかもしれないが……。

 セリシアが微妙な反応を見せてたのはそのせいか。


「私はお母さん達にとってはたぶん要らない子、だから会わなくてもいいの。生きてるってことだけわかってれば、私はそれでいい」

「そうか……わかった、だけど一応は終わったら手紙を出すよ。会うか会わないか決めるのは、それからでもいいだろう?」

「……わかった」

「セリシア……」

 

 生きてるのに会えないってのは悲しいような気がするが、本人がそういうならしょうがない。

 

「カーレントちゃん達はこれからストゥーディアに行くんだろう?」

「はい、明日の朝、には出ようと思ってましたが食料とか買い忘れてたんで明日の朝から準備して、出発は昼ぐらいですかね」

「そう、たぶんあそこは安全だと思うけど、一応気をつけておいて。私たちの味方もいるからもし何かあったらこれを」


 フラウさんが立ち上がり何か取り出した、胸の間から。

 あ、やわらか北半球の温もりが……。


「それを吹いたら助けてくれるはずだから。ただくれぐれも本当に大変なときだけ使うようにね」


 渡されたのは鉄でできた銀色の小さな棒のような笛だった。

 犬笛みたいな形だけど、これは吹いたら音出るのかな。


「わかりました、ありがとうございます」

「いいよ。じゃああたしは行くね。あんた達と数日過ごせて楽しかった。またあったときはよろしくね」

「もう行くんですか?」

「ゆっくりしていきたいんだけどね、ここでの任務が終わったらすぐ戻るように言われてるから」


 手馴れた手つきでガントレットをはめ、斧を担ぐ。

 

「元気でね」

 

 それがフラウさんの別れの言葉だった。



~~~



 次の日、私たちは準備をするために宿を出た。

 そのまま食料等を買って昼には王都を出るつもりだ。

 商店街を三人で歩く。

 昨日のこともあり空気が重い。


「ねぇセリシア、あなた本当に嫌われてるって思ってるわけ?」


 アヤメさん、いきなりすごいところ突きますね……。


「うん、だから会いたくない」

「ふーん、そう。まぁあなたがそういうならいいけど」

 

 アヤメは何か納得してない感じだ。

 彼女も私と同じでも母親には会えないから、何か思うところがあるのかもしれない。

 

 それにしても今回はなんか色々起きたな。

 フラウさん、白い悪魔、セリシア王女、ハイランド軍、ハオウ共和国、裏切り……

 たぶんこれ後々またなんか起きるな、そういうフラグばっかりだった気がする。

 

 鍛えなおさなきゃな。

 もう不覚をとらないようにしないと。

 もしまたあの白い悪魔みたいな強い奴が来ても倒せるように。

 今回はフラウさんが来てくれたからいいけど、もしこなかったら……いや、やめよう、とにかく鍛えなおして強くならないと。 


 私達は買い物を終え、微妙な空気のまま王都を出た。



~~~



 研究都市ストゥーディア。

 国権立シューレ魔法学園を中心に広がる、ハイランド王国で二番目に大きい学園都市だ。

 都市の周りを囲む壁もさることながら、都市自体の大きさも王都に負けず劣らず大きい。

 元々はただの魔法研究を中心とした都市であったが、それを学ぶ人が増えていき、それを見た先々代の王が能力の高い者を国で育ててその力を役立ててもらおうと学園を設立。

 今では周辺諸国の中では一番の大きさを誇る学園になった。

 わけ隔てなく種族の差別なく、各々の能力を健全に育むのが教育方針だとか。


 ついでに国権立は国の権力で建てましたってことらしい。

 県立とか市立みたいなものか。


「えーと、試験は二年に一回、学費は一年に金貨一枚ってさ。入学する前に能力検査があるだけで、特に試験は無い、と」

「試験無いんだ。というかアヤメそういうの集めるのすきなの?」

 

 私はアヤメが読んでいるパンフレットのような物を指差した。

 王都でもなんか貰ってたよな。


「結構面白いわよ。王都のはちょっと微妙だったけど……あ、入学希望者は午前中に学園前のカウンターで手続きだって。一応毎日受け付けているけど、人が多い場合日にちをずらすって書いてあるわ」


 毎日受け付けてるって、入学したらすでに回りはすごい進んだところ勉強してるって事にならないのかな。

 そこらへん大丈夫なんだろうか。

 そもそもこの世界はカレンダーが無い。

 日時の感覚が結構アバウトだから学期とか無いだろうしそこらへんも心配になってくる。


「とりあえず宿探して、早く見つかったら見るだけ見に行ってみる?」

「僕はいいよ。セリシアはどう?」

「私もそれでいいよ」


 いつもと変わらない様子で返してくるセリシア。

 

 ここに来るまでに私達の間の微妙な空気は無くなった。

 だが、たぶんそれは表面的なものだと思う。

 王都での話題を避けたり、意識的に違うことを話したり。

 まぁ誰だって暗い雰囲気のままは嫌だろうし、今はこれでいいのかもしれない。

 私もアヤメのようになんだかしこりが残っている感じはするが、時間が解決するかもしれないし、今の所何かできるわけでもない。

 過激派みたいなのはフラウさんに任せるしかないし。


「じゃあとりあえず宿探しね。できるだけギルドに近い所がいいわよね」

「だね」

 

 宿探しというかギルド探しだな。

 こういうとき無性にスマートフォンが欲しくなる……。

 ギルド付近のビジネスホテルを検索検索ぅ!!


「にしても、なんかすごいごちゃごちゃしてるわね」

「ねぇあれ、木に家がくっついてるよ」


 すごいごちゃごちゃしている。

 確かにアヤメの言ったとおりだった。

 

 基本今まで通ってきた都市などは石作りが多く、西洋風な印象を受けたが、ストゥーディアは違った。

 石造りの建物もある、だが、それと同じくらい色々な形の建物があった。

 半球状のかまくらのような建物や、木造の日本家屋のような形の建物、セリシアが言ったような木に家がくっ付いているような物もあった。


 この混沌カオス具合……なんとなく日本の町並みを思い出すな。

 洋風な建物と和風な建物がごっちゃになっている感じと言えばいいか。


 建物も混沌カオスだったが、周りの歩いている人々もまた混沌カオスだった。


 身長が140位で、頭から角を生やした毛むくじゃらな人がいたり、所々鱗が見える人がいたり、鎧姿の大男がいたり、ってあれは普通に人間族か。


「種族の差別無くってのは本当なのね」

「みたいだね」


 これが教室で授業を受けるってなんかすごい光景になりそうだな。


「あ、カレン様ギルドあったよ」

「さすがセリシア、よーしよしよし!」

 

 でかしたセリシアをムツ〇ロウスタイルでなでなでする。

 やーんと逃げようとするセリシア。


 いつもそんなに表情に出さないセリシアが、私がいじることで恥ずかしがったり違う表情を見せている。

 "私が"いじることでというのがみそなのだ。

 嗚呼至福……

 まてこのー、うふふふ……


「だらしない顔してないで早く行くわよ」


 アッ、ハイ、ウィッス。

 というか私だらしない顔してたのか。

 イケメンが台無しだ、少しキリッとしとこう。


 私達はギルドのすぐ近くの適度に安くそこそこきれいな宿に入った。

 早速荷物を置いてシューレ学園を見に行ってみる。


「なんかここも街中に負けず劣らず混沌カオスだね……」


 この世界の感じからして小さなお城というか、教会のような建物かと思っていたが……どうしてこうなった。


 確かに中心は教会ぽいが、それに食い込むようにというか、無理やりくっ付けたように前世でよく見た角ばった石造りの校舎が好き勝手に伸びている。

 かと思えばその両端には尖塔が付いていてお城のようにも見える。

 さらに離れには大きな神社のような屋根が見えていたり、なんだこれ。


「想像以上ね……」

 

 アヤメさんも若干異様に思ったのか引き気味である。

 なんか増築しすぎて迷路になった家を思い出す。


「あれが受付かな?」


 洒落たデザインの門の横に小さな建物があり、それらしい窓が開いている。

 たぶんそうだろう。

 だがあいにくすでに太陽は昇りきり昼を回ってしまっていた。

 入学手続きは明日だな。

 

 私はどっかで昼を食べて宿に戻ろうと提案し、三人でそこらへんの食堂に入った。

 

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