王城の裏
白い髪の獣人が犯人……
それを聞いた時まさかと思った。
セリシア、はまずありえないとして、だとしたらこの王都にセリシアと同族の獣人がいるということ。
もしかしたら、もしかするかもしれない。
だが、もしそうだとしてそれが巷で噂されている殺人鬼だとしたら……
そうだとしたら、たまったもんじゃない。
きっと違う人だ、きっと。
とにかく確認できてないんだ、いいほうに考えよう。
違う人だとして、それなら何かしら聞けるかも知れない。
どこかに同族の村があるのかとか、ないかセリシアの両親について聞けるかもしれない。
だとしたら白い悪魔、犯人に接触するにはどうしたらいいか。
自分達で探し出すか、他の人たちが捕まえるのを待つか……
でもたぶん捕まったらただじゃすまないだろう。
これだけ騒ぎになるほど人を殺しているんだ、捕まったらたぶん聞き出す前に投獄、最悪処刑だろうな……
とりあえず二人、いや三人に聞いてみようか。
振り返り、いつものように入口近くでまっているであろうセリシア達を見る。
が、そこには思いもよらない光景が広がっていた。
「ふぇ? ちょ、ちょっと!」
冒険者達に囲まれていた。
中には武器に手をかけている者もいる。
おいおいおい!! まさかセリシアを疑ってるのかこいつら!?
「その子は違うぞ! その子はずっと僕らと一緒にいたんだ!」
大声で叫びながら囲みを割ってセリシア達の元へたどりつく。
セリシアを守るようにアヤメとフラウさんが前に立って壁になってくれていた。
フラウさんが心強く見える。
いつもこうだといいんだけど……
「おいねえちゃんよ、ちょいとその獣人の子を渡しちゃくれねぇか」
「いやだね。何を言われてもあんた達にこの子は渡せないわ」
リーダー格なのか、一番ガタイのいい男に毅然と言い放つフラウさん。
やだ、すごくかっこいい。
「その子が白い悪魔かもしれねぇって言ってもか?」
「違うよ。セリシアは白い悪魔じゃない、神に誓ってもね」
毅然と言い放つ私。
私に集まる視線。
ほんのちょっぴり、ほんとちょっぴり腰が引ける。
「おい坊主、俺は今その姉ちゃんと話してんだ」
ぎらりと睨まれる。
正直怖い……
が、ここで引くわけにはいかない。
「僕はこのパーティーのリーダーだ。うちのメンバーに話があるなら僕を通してくれるか?」
一瞬の静寂の後、割れんばかりの笑い声がギルド内に響いた。
こいつら完全になめてるな。
「おいおい冗談はよしてくれ、お前みたいなガキがリーダーって! じゃあリーダーさんあの獣人のガキを連れていくからよろしくなぁ」
そう言って私の肩に手をかけて押しのけようとする。
だが、私はどかない。
男は私の態度にイラついたのか、どけ! と言いながら無理やりに通ろうとする。
が、私はどかず、剣を抜き男に突き付けた。
「……おいガキ、こりゃあ何の真似だ?」
「おいこの汚い手を放せ糞noo●野郎、さっき言っただろ、この子は違うって。言葉すら理解できないのか?」
あぁやっちまった、通してなるものかととっさに抜いてしまった……
場の空気が張り詰める。
とりあえず中にはバックショット弾を装填しているが、人相手に使いたくない……
撃ったらたぶん日本では一発で発売禁止なFPSみたいになるだろう。
「お前、剣を抜いたってことは殺されてもいいって事だが、わかってんのか?」
「ああさかってるさ。ま、お前がその腰にぶら下げてるなまくらを抜くより先に、お前の頭はミンチよりひどいことになるけどな」
相手もこっちの実力を測りかねているのだろう、見たこともない変わった剣だろうしな。
私はいつでもお前の頭を吹き飛ばせるんだぞ? と無理やりにニヒルに見えるだろう笑顔を作る。
誰も動けぬまま時間がゆっくりと進む。
どうする、覚悟を決めてやってしまうか……
つう、と頬に汗が垂れる。
セリシアを渡すくらいなら、私はここで修羅道に、
「やめろ、そこまでだ! お互い剣を退け、この子の潔白はこのフラウ・ティンベルの名において誓う」
唐突に上がる声、フラウさんのよく通る声がギルドに響く。
でもフラウさんの名前に誓っても……
「まさかお前、あのフラウか?」
え? どのフラウ?
相手からの殺気が消え、驚いたように二、三歩後ろに下がる。
「おい、フラウ・ティンベルって……」
「でも確かに斧を持ってるぜ?」
囲っていたやつらがざわつき始める。
「ほんとに、ほんとにあのフラウだってんなら証拠を見せてみろよ」
「ああいいよ、これでいいかい?」
フラウさんが取り出しのはギルドカードだった。
だが、それは私達のものとは違っていた。
銀色ではなく、いや銀色ではあったが、半分金色でできていた。
なんで半分だけなんだ?
「まじかよ……半割れのギルドカード、本物のフラウだぜ……」
周りの男たちが退いていく。
「わかったよ、あんたに免じてここは引き下がるよ。不敗の軍の元隊長さんにはかないそうにねぇからな。おい」
ああ、ごめんごめん、剣を突き付けたままだった。
囲んでた奴らが散り散りになっていく。
これでひとまず大丈夫か……
「助かりましたフラウさん、でも軍の隊長だったんですね」
「まあね、って言っても元第二軍の、だけどね」
「それでも、そのおかげで助かりました、ありがとうございます」
アヤメもセリシアも礼を述べる。
「いいよ、それよりカーレントちゃんも無茶するねぇ。あのまま退かなかったらどうするつもりだったの?」
「それは、言ったとおり頭を吹き飛ばすとか……」
ふーんとフラウさんは私を見定めるように見る。
「できるの?」
うっ……
できないかもしれない……
剣を向けたとき、獣に向けるのと全く違う感覚だった。
なんといえばいいのだろうか、もう少し剣を押し出せば、魔法を使えば殺せると分かっていても、これ以上いけないと何か別の力で体をとめられているというか……
「今まで人を殺そうとしたこと無かっただろう? 手、震えてるよ」
ほんとだ、気がつかなかった……
ぐっと震えを止めようとこぶしを握る。
「フラウさんは、慣れてるんですか?」
ふいに口からそんな言葉が飛び出した。
震えていると言われて恥ずかしく思い、誤魔化そうとついて出た言葉だった。
「ああ、なんせあの不敗のハイランド軍にいたんだよ? 嫌ってほど慣れたさ」
どこか悲しそうに目を細めながら答える。
私馬鹿だな……何聞いてんだ……
「とりあえず今日はもうやめとこう。さ、宿に帰ろうかね」
そう言って歩き出したフラウさんは、もういつも通りの顔に戻っていた。
私もセリシア達と後を追うように宿に戻った。
~~~
次の日にはフラウさんのおかげでギルドでは私達に対して何かしようとする奴らはいなかった。
だが、犯人は獣人というのは一般の人々も耳にしているようで、街の中を歩くときはアヤメのローブを借りてフードを被って移動するようにした。
フラウさんもさすがに一人一人に潔白を証明していくわけにもいかず、無言でセリシアの隣を歩いている。
なぜ犯人ではないのにこんな事をしなければならないのか?
セリシアは周りの視線とまとわりつく犯人だと言われる囁きにまいっているようだった。
なまじ耳がよく聞こえてしまうからだろう。
二日目には午前中の依頼を終えて宿に帰ったら、すぐに横になってしまった。
私の心の中は苛立っていた。
彼女は犯人ではないとわかっているのに、それを疑い遠巻きに囁く住民達に、そしてそれから彼女を守れない自分にも腹が立った。
でも、どうしようもない……
私にはフラウさんのような信用も力も無い……
重い気持ちでベッドに腰掛ける。
「……明日には街を出よう。目的地はここじゃないし」
三人に呼びかける。
いや二人か、フラウさんは一緒に行くわけじゃないし。
「でも、そこまでお金溜まってないんじゃないの?」
アヤメの言うとおり、次のストゥーディアまでに使う食料代や水などを全部揃えれるほど溜まってなかった。
「いや、あるにはあるんだ。これ」
私は右の足に巻いている脚甲のベルトを外して、逆さに持ち上げて上下に振る。
すると、内側から三枚の金貨がちゃりんと床に落ちた。
「カレンこれ、どうしたの?」
「旅に出るときに、お父様が隠して持っておけって。硬貨袋が無くなったり、どうしてもお金がいるときに使えって」
「でも、金貨三枚なんて大金……もしかしてあんた達貴族とか?」
「一応、どこか領地とか持ってるわけじゃないけど」
私貴族様にすごい馴れ馴れしい言葉使ってた、と今更な事をつぶやくアヤメ。
「とりあえずこれで足りるだろうから、ちょっと買ってくる。アヤメはセリシアについててくれ」
「わかったわ」
金貨二枚を脚甲の裏にぎゅうぎゅうと入れなおし、腰の硬貨袋に残りの一枚を入れ、重い腰を上げる。
「あたしも少し出てくるよ」
「フラウさんも買い物ですか?」
「いや、ちょっと人探しを頼んでてね」
人探しね。
フラウさんは特に目的も無いのかと思ってたけど、人を探していたのか。
にしてはずっと私達と一緒にいた気がするが。
そういえば、今日は依頼した人探しの結果を聞いてなかったな。
買い物前にギルドによってみよう。
たぶんフラウさんも依頼を出してるだろうし。
二人で宿を出て、とぼとぼとギルドに向かう。
フラウさんはなんでギルドに? と不思議がっていたので、ちょっと野暮用でといっておいた。
特に言及はされなかったが、彼女にはばれてるかもしれない。
ギルドの前に着いて、いざ入ろうとしたときフラウさんが着いて来てないのがわかった。
「あたしはこっちだから、また宿で会おう」
手を上げてじゃあね、と別の方向へ歩いていく。
彼女は依頼を出していなかったのだろうか? それとも他に伝があるのか。
もしかしたら城に行ってたのはその目的があったのかも知れないな。
まぁもうどうでもいいか、どうせ明日には分かれるんだし。
私の心は今荒れているのだ。
今なら魔法で燃料気化爆弾、いやツァーリ・ボンバでも作れそうだ。
まぁそこまで構造をよく知らないにわかなのでできないのだが。
ギギギ、と西部劇で出てくるようなドアを押し開けてギルドへ入る。
入る前に聞こえていた喧騒が私が入った瞬間しんと静まり返った。
そして向けられる視線と囁き声。
セリシアはずっとこれを向けられたんだよな。
自然、こぶしに力が入る。
無視だ無視、さっさと報告を聞いて帰ろう。
「人探しの依頼を出していたカーレントだけど。何か報告はありましたか?」
「カーレント様……あ、一件入ってますね」
入ってた。
グルーブからここまで一件も入ってこなかったんだが、このタイミングで入るとは……
私は言われるまま硬貨を渡し、丸めて蝋で封をされたそれを受け取る。
周りで何をしているか憶測を囁きあうギルドの中から足早に外に出て、少し離れた場所で封を切る。
―― 白い髪の獣人を
”王都の四番街三番地の廃屋”
にて発見しましたので、これを報告します。
報告主 仮面の男 ――
四番街……
この王都は、ハイランド王城をぐるりと囲む街を正面から一、右を二、左を三、そして、後ろを四番街と分けてある。
私たちが宿を取っている一番街の反対、四番街は王城の後ろ側にある。
そしてそこはこの街で一番治安の悪い場所でもある。
できるだけそこには近づかない方がいいと、フラウさんからも言われていた。
だが、こうなれば行くしかないだろう。
せっかく手に入れた情報だ、それにまだ誰も知らないであろう情報。
白い悪魔が”捕まる前に”会えるかもしれないのだ。
行くなら夜がいいだろう、人目を気にせず行けるのは夜ぐらいだ。
宿に帰って二人に話してみよう。
もしかしたらフラウさんも来てくれるかもしれない。
私はだんだんと暗くなっていく中、走って宿へ戻った。
~~~
「セリシア、アヤメ、フラウさ、んはまだ帰ってないのか。まあいいや、聞いてくれ!」
部屋のドアを勢いよく開けて言う。
「ちょっとそんなに急いでどうしたのよ」
二人は明日の出発のために荷物の整理をしていた所だった。
ベッドの上には替えの服や道具などが散らかっていた。
あ、買い物忘れた。
でも今はそんな些細な事なんてどうでもいい。
そう、この報告書に比べれば些細なことだ。
私は興奮しながら立ったまま二人に言う。
「さっきギルドに出してた捜索依頼に報告書が来たんだ。白い髪の獣人が見つかったって」
「え、それって」
驚きの声を上げるアヤメ、セリシアは複雑そうな難しい顔をしている。
もしかしたら親が話題の殺人鬼かもしれないのだ、確かにそうだとしたら嫌かもしれない。
会えても素直に喜べないかも知れないが、一応は親なのだ、顔ぐらいは合わせてあげたい。
「場所は四番街三の薬屋の裏の家だって、これがその報告書」
「……この仮面の男って?」
報告書を読んだアヤメが不審な目でその名前を見る。
仮面の男、私も知ってるわけじゃないが別に名前を伏せていても不思議じゃないだろう。
もし報告が間違っていたら逆恨みされたりするかもしれないしね。
「そこは気にしないでもいいんじゃない? それより今日の夜に行こうと思うんだけど、どうかな」
「はぁ? フラウも言ってた様にこの一番街と違ってあそこは危ないって言ってたじゃない、しかも夜にって」
「もしかしたら明日には居ないかもしれないし、フラウさんが戻ってきたら一緒に行ってみないか聞いてみるから」
「でも……セリシアは?」
「私は、カレン様が、行くなら」
「セリシアまで、もう、じゃあ私もいくわ」
セリシアの答えを聞いてアヤメも決心がついたみたいだ。
だが、同行すると言ったセリシアの表情は相変わらずで、良くは思っていないかもしれない。
でも同行してくれるって事は一応は会いたいと思ってるんだろう。
私達は明日の準備もそこそこにフラウさんが帰ってくるのを待った。
私が買い物をするのを忘れていたのをアヤメに怒られながら待った。
セリシアはその間、何か考えているようだった。
結局フラウさんは帰ってこなかった。
私達はいざという時のために装備を確認して、三人で宿を出た。
燃料気化爆弾とは、簡単に言うと金属片などではなく爆風衝撃波そのものによって人体を損傷させる爆弾です。
ツァーリ・ボンバはソビエト連邦が開発した世界最大の水爆です。
どちらも恐ろしい兵器です。
一応参考に
燃料気化爆弾 https://www.youtube.com/watch?v=R69tyWX-zFs
ツァーリ・ボンバ https://www.youtube.com/watch?v=wIU_jd_HtNg




