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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第二章 駆け出し冒険者編
28/39

王都ハイランド

 グルーブを出てから七日、とうとう王都ハイランドに着いた。

 今回はキャラバンなどに便乗せずに歩きで移動したのだが、地獄だった……


 四日目にして、携帯食料が底をついたのだ。

 正直四日でつくと思い、ちょうど位の量しかもって来てなかったのがいけなかった。

 とりあえず、自分たちで食べ物をとらなければと狩に出た。

 近くに森があり、鹿系魔物デールがいたのでそれを狩った。

 探すのに時間がかかり、あたりは夜になっていた。


 狩りをするだけで一日終わってしまった……

 

 デールは食べれるがあまり美味くないとは聞いていたのでどうかとは思ったが、体が大きく肉も多そうなのでここは我慢しようということになった。

 さて調理、というところで恐ろしいことに気がついた。

 

――調味料が、無い――


 調味料、それは臭みや味を調えて、美味しいものをさらに美味しく昇華させてくれるもの。

 ましてやまずいと聞いているものに使えばそれなりに食べれるようにしてくれる。

 それが、無い。

  

 全員顔に絶望の色を浮かべたが、焼けばそれなりの味になるのではと思い直し、火をおこして焼いてみた。


 細く切った枝の先で、じゅうじゅうと音を立てて焼ける魔物肉。

 あたりに漂う焼ける肉の匂い。

 朝から食べていない三人は無言で肉が焼けるのを待つ。

 ぱちぱちと火の粉が舞う。


――グルルゥ……――


 何か生き物が威嚇するような鳴き声。

 

「魔物か!?」

 

 私は勢いよく立ち上がる。

 まったくこんなときに……

 セリシアは座ったまま耳を動かして音を拾おうとしている。


「セリシア、位置はわかる?」

「わかる、すぐ近くにいる」


 近くだと!?

 緊張感が一気に高まる。

 セリシアを見るとその音がした場所を指差している。


 アヤメが座っている方向……


「アヤメ、気をつけて。アヤメの方に居るみたい」


 警戒を呼びかけるがアヤメは下を向いたまま動かない。

 

「何してんの、早く構えて」


 この前の記憶がよみがえる。

 誰も怪我しないように私ががんばらないと。

 なんならすぐに撃てるように装填しておいて


「待って」


 私を手で制して止めるアヤメ。

 不思議に思いつつ次の言葉を待つ。

 もしかしたら魔法で先制するつもりなのだろうか。


「何か考えがあるの?」

「いや、そうじゃなくて、さっきの音……私の、おなかの、おと……」

「………」




 私はすっと剣を納め、静かに座りなおした。



 デールの肉は味はほとんど無く、その代わり匂いが強く、肉自体も硬いと最悪だった。

 私たちはそれを乾燥させて、眉間に皺を寄せながらそれをかじりながら移動した。


 次はちゃんと余裕を持って準備してから移動するようにしよう、そう三人で誓った。

 


~~~



 王都ハイランド。

 ハイランド王国の首都であり、不敗と言われるハイランド軍の守る都。

 アキレス帝国戦争ではハオウ共和国を落としたアキレス軍を一気に押し返し、ハイランドのみならず周辺諸国さえも救い出した救国の王、ハイランド王の座す都である……


「ハイランド王は代々武勇に優れ、戦争の際は前線でのすばらしい武功を」

「その後ってまだまだ武勇伝が続くの?」

「というか、それしかないわね」

「じゃあいい。それよりも安くていい感じのビジホが載ってるマップとかないの?」

「びじほ?」

「あぁ宿宿」


 隣で歩きながら門番からもらったしおりみたいなものをめくるアヤメ。


「んー無いわね」

「使えないしおりだわね」


 なんて言ってても始まらない、とりあえずギルドを探そう。

 できればそれから近いところがいい。


「カレン様あれ、ギルドって書いてある」

「さすが、でかしたセリシア」


 私達は看板の指し示す方向へ急いだ。


 

 王都についてからまず探したのは宿だ。

 荷物もおきたいし、この旅での疲れを洗い流したかった。

 一度川を見つけたので夜になってから隠れて汗を流したが、やはりお湯じゃないとさっぱりしない。

 女の子はいつでも綺麗にしないとね、と言うのはアヤメの談。

 まあ私もセリシアも大賛成だけどね。

 だが、王都に着いてからそんなこと吹っ飛んでしまった。

 

 グルーブとは比べようが無いほど大きな城門、城壁。

 門番からどこから来たのか、名前などを答え街に入ってからはさらにすごかった。

 まるでお祭りでもあるのかというほどの人と活気。

 そして大きな通りに綺麗で清潔な町並み。

 その通りをまっすぐ見ると、白く巨大、大きいだけじゃなく遠くからでもわかる多くの装飾が日に照らされて輝いて見える。

 ハイランド王城だ。

 

 私達はおのぼりさんのようにそれを見、きょろきょろうろうろと道草をして宿のことなどすっかり忘れていたのだ。

 

「たぶんギルドの近くにはそれなりの宿があるだろう」

「カレン様なんでわかるの?」

「なんでって、冒険者は大体宿借りるから、それなら近いほうに宿構えたほうが儲かるでしょ?」

「なるほど」

「でかい駅とか観光地名所にホテルが多いのと一緒だよ」

「ほて……?」

「それよりあれ、ギルドじゃないの?」


 アヤメが指差した建物、かなりでかいけど……


「さすが王都。ギルドもでっかいな」

「ギルドで宿聞いてみたほうが早いんじゃないかしら?」

「あ。そう、そう思ってたんだよ」

「今あって言ったでしょあって」


 さすが私だな。

 闇雲に探すより聞いたほうが早いよな、私もそう思ってた。


 とりあえずギルドに入ろう。

 だいぶ外も暗くなってきたし早く宿を見つけないと。


「うおぉ……これはまた……」

 

 すごい人だな。

 それに二階もあるし、掲示板もギルド員も倍くらいいる。

 そこかしこで乾杯の声や楽しそうに食事している人たちもいて、そこらの酒場より活気があるんじゃないか。


「っと、それより宿宿」


 カウンターのギルド員に聞いてみるか。


「うっ、カレン様……」

「カレン、セリシアが」


 あー、今日一日中人ごみの中だったもんな……

 もともと人が多いところ苦手だし、酔っちゃったかな。


「アヤメ、セリシアと一緒にいてくれるか? 私が聞いてくるよ」

「わかった。セリシア、こっちで座って待ってよ」

「……わかった」


 いつものポーカーフェイスではなく目を潤ませてすがるように見てくる視線に決心が揺らぐ……


「すぐ、すぐ戻ってくるから! 絶対に!」

「はぁ? いいから早く行きなさいよ」


 アヤメさん冷たい……





「ギルドから出てこの通りを右ですね」

「はい、でも早く行かないとうまるかも知れませんよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 ひらひらと手を振られたので振り替えしてセリシア達の所へ戻る。

 わざわざ地図まで書いてくれて、親切なギルド員さんだった。

 依頼受けるときはあの人に頼もう。

 さて、早く宿にいってセリシアを休ませて上げないと。

 ってあれ? 誰かと話してる?

 あ、まさか。


「綺麗な髪だねぇ。宿探してるって言ってたけど、よければ僕たちの部屋に来ない?」

「そうそう、二人とも俺たちが朝まで可愛がってあげるよ?」

「私達連れがいるのでいいです!」


 で、でたー! いかにもナンパする奴が言いそうな可愛がってあげるよ宣言ー!

 ……貴様ら私のセリシア、とついでにアヤメに声かけるとかわかっとんじゃろおのぉ?

 

「……装填、弾種『スラ…」

「ちょっとあんたたち、それあたしの連れなんだけど」


 ん、あれ?

 私より速く男との間に入る人がいた。

 女性だった。

 だがかなり変わった格好と武器を持っている。


「お? なにお姉さんも一緒にくる?」

「は? 空気読めっての。私もこの子らもあんたらなんてお断り」

「えぇいいじゃない。きっとたのしいよ? おいしい酒もあるから」

「男の癖にうだうだと、それ以上面倒くさいこと言うんなら……」


 ドンッ、と地面が揺れる。

 助けに入った女性が背中に背負っていた獲物の長い柄が地面を突いた。


「うっ……わかったよ、おい、いこーぜ」

「お、おう……」


 すごすごとギルドから出て行くナンパ野郎ども。

 へっざまぁ。


「セリシア、とアヤメごめん遅くなって」

「カレンさまぁ……」

「なんかその言い方気になるんだけど」


 セリシア本当にごめんよ……アヤメはまぁいつもどおりで。

 私は助けてくれた女性に向き直る。

 近くで見るとなおさら女性の見た目が変っているのがわかる。


 背中の中ほどまで伸びたブロンドの綺麗な髪。

 さらりと右に流した前髪と、キリリとした目元に意志の強そうな印象を受ける。

 さらに今彼女が持っている大きな戦斧。

 かなり大きな刃と、その反対は鎚になっていてかなりの重量があるように見える。


 あぁそこまではいい、そこまでは。

 問題は服装だった。


 彼女はかなり肌を露出していた。

 まずはちきれんばかりに主張した胸は上半分がほとんど見えてるような状態で少し動けばこぼれてしまいそうなほどだ。

 そして引き締まったお腹はこれでもかと丸見えになっている。

 ちゃんと肌を覆っているのは両腕の肩まであるガントレットと腰に巻くようにしてスカートのようなひらひらした布くらいだ。

 だがそれもちゃんと閉じてなく、ショートパンツと膝までの鉄のグリーヴと綺麗なふとともが見えてしまっている。


 なんだこの痴女、まったくけしからん、まっことけしからんな。

 おっと涎が。


「あの、ちゃらい野郎から二人を助けていただいてありがとうございました。何か御礼ができればいいんですが、今急いでまして。あのお名前だけでも教えてくれませんか?」

「あんたこの子らの連れ? 男ならちゃんと見てあげ……」


 なんだろう、かなりじっと見つめられてるんだが。

 何か失礼なこと言ってないよな?


「えっと、そんな見られると恥ずかしいんですが……僕の顔に何かついていますか?」

「あぁいや、そういうわけじゃないんだが。私の名前はフラウ、フラウ・ティンベルだ」

「僕の名前はカーレント・アウドと言います。またあったときは改めて御礼をさせてもらいます」

「私はギルドに結構出入りしてるからここにきたらたぶん合えるよ」

「わかりました。速く行かないと部屋がないかもしれないらしいんで、では」

「あぁ、またなカーレント”ちゃん”」

 

 あれ、ばれてた?

 さっきじっと見てたのはそれでか?

 彼女はがしゃんと斧を担ぎなおして掲示板のほうへ歩いていった。


「あんたばれてんじゃないの」

「そおみたいね。それより早く宿にいこう」


 軽く見ただけでわかってしまうくらいばれやすいかなぁ。

 ちょっとなにか考えるか……





「申し訳ありません冒険者さん、ついさっき部屋がうまってしまいまして……」


 お、遅かったかぁ……!!


「いえ、しょうがないです。それより他に近くに宿はありますか? できれば安いほうがいいんですが」

「そうですねーあるにはあるんですがちょいと裏のほうになるんですよねぇ」


 むー。

 できれば裏の方の宿は遠慮したい。

 治安が悪いしか弱い女の子三人じゃあ不安で夜も寝れなくなりそうだ。


「表のほうにもありますが値段はちょいと張りますね」


 むー…… 


「ん? カーレントじゃないか」

「あれ、フラウさんここに泊まってるんですか?」

「あぁここはギルドにも近いしな。どうしたんだ?」


 私は泊まる宿を探していることを話した。

 彼女はさっきギルドの掲示板を見に行ったときAランクの場所を見ていた。

 Aランクならたぶん冒険者業もながいだろうからいい宿を知っているかもしれない。


「すまない、あたしもここら辺には疎いんだ」


 予想外れましたー……


「だが、三人さえよければ私の部屋に泊まるか?」


 え?


「え? でもさすがにシングルに三人はきついでしょう」

「いや私が泊まってる部屋は広いから大丈夫だと思うぞ。主人、いいかな」

「フラウ様のお部屋ですね。あぁ元々大部屋ですので大丈夫ですよ。ただ料金は一人ずついただくようになりますが」


 えぇ! この人大部屋に一人で泊まってたのか。

 大部屋って五、六人は泊まれるパーティー用の部屋じゃなかったか。

 

「部屋がそこしか開いてなくってな。どうだ? 料金は六人用だから私が三人分払う、あんたらは一人分だけ払えばいいから高くないぞ?」


 六人用だったのか。

 フラウさんも料金が安くなるし、私たちも泊まれて万々歳か。


「セリシア、アヤメ、どう? 僕はいいと思うんだけど」

「私もいいわよ」

「カレン様がいいならいいよ」


 よし、決定だな。


「すみません、さっき助けてもらったばかりですが、お世話になってもいいでしょうか?」

「あぁいいとも。よろしくね」


 よかった、何とか泊まる場所を確保できた。

 路上でダンボールとビニールで公園に止まることになるかと思ったけどフラウさんのおかげで助かった。

 私たちはフラウさんに連れられて部屋に向かった。


 まさかこの決定のせいであんなことになろうとは……

 私達は人を信用することの難しさを身をもって体験することになった……

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