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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第二章 駆け出し冒険者編
27/39

過去

「セリシア、見える?」

「うん、見えた」

「人? 魔物?」


 私達は音の発生源の近くまで来た。

 一番先頭にいたセリシアが私の問いかけに答える。


「あれは人じゃない、魔物だよ。動物? かなにか食べてるから、こっちに気づいてない」


 魔物だったか。

 聞く限り肉食系らしいな。

 私も少し近づいてみる。


「あれは、狼かな」

「たぶんグレイウルフじゃない? 一匹だけだからはぐれたのかも」


 いつの間にか横まで来ていたアヤメが補足してくれた。


「Cランクか……このまま気づかれないように帰ってギルドに報告しよう」

「そうね」


 グレイウルフ、Cランクから討伐依頼に載せられる魔物だ。

 狼型の魔物で、群れで狩をする。

 爪や牙は鋭く、何よりもその灰色の毛皮が厄介だ。

 毛は硬く分厚いので、剣を弾くこともある。

 群れからはぐれた固体がこうやって縄張りの外まで迷い込むことがあるらしく、できればそのまま狩ってしまうのがいいらしい。

 だが私達はDランクなので無茶せずにギルドに報告しにいったほうがいいだろう。

 というのがアヤメの言い分だ。

 私もセリシアも賛成した。

 

「じゃあゆっくり下がるよ」

「わかった」

「了解よ」


 抜き足差し足忍び足ってね。

 あ、思い出した。

 

 そういえば初めて魔物を倒したときもこんなだったな。

 すごい嫌な予感がする……

 

 いや、考えるな。

 嫌な予感は考えると現実になるんだ、ってだれか言ってたようないってなかったような。

 あれ?


「アヤメ? どうした」


 アヤメが魔物を見たまま固まっている。


 腰が抜けたとか?

 いやでもさっきまで平気な感じだったしな。

 とりあえずできるだけ早くここから離れないと、というか私が早く離れたい。

 

 アヤメの方へ戻って呼びかける。

 反応が無い。


「アヤメ? おい、どうしたの」

「……あいつ、あれ」


 アヤメが指差したほうを見てみるが、魔物と食べられている何かだったものしかわからない。


「もう一匹いるとか?」

「あれ、手が」


 え、手?


「あいつ、動物を食べてるんじゃない」


 もう一度よく見てみる。

 草にかくれてよく見えないが、わかった。

 すでに半分以上食べられてるが、確かに、動物じゃない。


「あれ、あれは人間を、食べてる」


 草の間から見えたもの。

 それは人の手だった。


「まじかよ……とにかくこれ以上犠牲者が出ないようにギルドに

「うああああああああああぁぁぁ!!」


 え、ちょなに!?

 

「ア、アヤメ? っておい待て!!」


 ちょ、何してんの!?


 アヤメはいきなり叫びだしたと思ったら止める間もなく飛び出していく。


「青の精霊よ、我が呼び声に答え力を貸したまえ! 『ウォータブレード』!」


 そして走りながらの詠唱。

 バーサーカーかよ!?

 とにかく止めないと!

 

 私も後を追うように飛び出していく。


「セリシア! ちょっと来てくれ!」

「カレン様、もう来てる」

 

 はやい、さすがセリシア!

 アヤメの方を見ると、刃状になった水を放っている所だった。

 当たればただではすまないだろう、当たれば、だが。


「避けるな! 青の精霊よ!」

 

 予想通りアヤメの魔法は外れた、というか避けられた。

 大声なんか出すから……不意打ちでならなんとか当たったかもしれないが、相手に気づかせてから、しかもアヤメの魔法は精度が悪いので、まぁそうなるな。

 なんていってる場合じゃない。

 最初の魔法を避けてからグレイウルフはアヤメに狙いを定めたようで、すごい速さでアヤメに近づいていっている。


 くそっ! 間に合うか!? 


 アヤメが二発目を詠唱し魔法を発動させる、が。


「ぐっあっ!」

 

 形作られた刃は射出する前に霧散した。

 アヤメがこちらへ飛ばされてくる。

 間に合わなかった。

 飛ばされてきたアヤメを私が受け止め、魔物との間にセリシアが割り込む。


「アヤメ! おい!」

「青の精霊、よ、我が呼び声の元」

 

 こっちの声に耳を貸さずさらに上の魔法を発動させようとする。


「馬鹿やめろ! 今撃ったらセリシアに当たる!」

「だけど、あいつは、あいつはぁ!!」


 おいおいおい、本当にどうしたんだ。

 目は血走り口からは興奮しすぎてつばや泡を飛ばしながらも叫び続けている。

 今セリシアが一人で相手しているから早く加勢に行きたいが、こんな状態だと一人にできない。

 下手するとほんとに魔物ごと魔法で真っ二つにされそうだ。


 どうするか羽交い絞めにしたままの状態で考える。

 いっそのこと気絶させるか、とも思ったがそんな器用なことやったことが無い。

 黒魔法で動けないよう固めるか、いやそれだと魔法が使えるからだめか。

 あれこれ考えてると急にアヤメの抵抗が弱まった。

 やっと落ち着いたか。


「おい、アヤメ? 落ち着いたか? なんだってこんな」


 声を掛けるが反応が無い。

 何かおかしい、落ち着いたというよりぐったりしてる?

 名前を呼びかけつつ顔を見るために少し拘束を緩めて前を覗き込む。


「おいおい、なんだよこれ」

 

 アヤメがなぜ抵抗をやめたかわかった。

 アヤメの左の腹部から下が真っ赤に染まっている。

 抵抗をやめたんじゃない、できる体力がもう無かったのだ。

 元々体力が無い上にこの出血量、すでにアヤメの呼吸は浅く小さくなっていた。


 とにかく止血、傷を押さえてアヤメに呼びかけ続ける。

 今はこれだけしかできない、アヤメが自分で青魔法で回復できたらよかったが、明らかにできそうに無い。

 くそ、最悪だ。

 早く魔物を倒して街に帰らないと。

 私はアヤメを静かに寝かせ、セリシアに加勢しに行走る。


 びゅんびゅんと風切音がする。

 セリシアはバスタードソードをかなりの剣速で振るが、敵の機動力も高く致命傷を与えられない。

 敵もセリシアの剣速と間合いの長さに手が出せないでいる。

 あれを使うか。


 ボルトハンドルを起こして引き薬室を開放、魔法で弾薬を精製、ボルトを戻して目印の中に火球をつくり魔力を込める。 


「装填!弾種バック!」

 

  セリシアは呼びかけに気づき、一瞬のアイコンタクトで理解したらしく切り払いながらグレイウルフから離れる。

 すかさず追いかけようとするグレイウルフに狙いを定め火球を爆発させる。


「くそ、犬の癖に速い」


 直撃はしなかったが何発かペレットが当たったみたいで、灰色の毛に血が滲んでいる。


「あれ狼だよカレン様」

「狼も犬も同じだよ。ついでに私は猫派だから」


 グレイウルフとにらみ合いながら軽口を言う。

 

「前にも言ったけど私は猫じゃない、虎」


 そういいながら魔物に突っ込んでいく。

 私はもう一度薬室を開放し弾薬を精製込める。

 だがさっきと同じだと避けられてしまうだろう。

 どうにか相手が回避できない瞬間を狙いたい。


 黒魔術で足を固定する。

 だめだ、盛るのはすぐできるがそんなに速く地面を硬く固定できない。

 穴を開けて落す。

 そんなに深く穴を一瞬で開けるのは難しい。

 小さいサイズだと飛び越えてしまうだろうし。


 そうか!


「セリシア! もう一度さっきと同じように頼む!」

「わかった!」


 私は火球を作りそのときのために集中する。

 セリシアがさっきと同じように切り払いながらバックステップ。

 今度は逃さないつもりか一気に追いかけるグレイウルフ。

 私はグレイウルフの前に黒魔法で土の壁を作る。

 だが奴は止まらない。

 さらに加速して跳躍し、それを軽々と飛び越え、


「ギャ!!」

 

 その鳴き声と発砲音がほぼ同時に重なる。

 血を撒き散らしながら灰色のそれが吹っ飛んだ。


「空中なら回避できないだろ」


 私は壁を飛び越える瞬間を狙った。

 空中では踏ん張りもきかないから回避ができない。

 格闘ゲームでも安直なジャンプは死亡フラグなのと同じだ。


 私は一応もう一発装填して構えながら死んだかどうか確認する。

 毛皮は大部分が血で染まっており、肺に当たったのか口からは血の泡を吹いている。

 

 だが死んでいない。


「ごめんな」


 心の中で手を合わせて、頭にバックショットを撃ち込んだ。



~~~



 籠の中にはりんご、のような果物。

 私はそれを持ってドアをノックした。


「カレンとセリシアだけど、入っていい?」

「どうぞ」

 

 ドアを開け部屋に入るとアヤメが体を起こそうとするのが見えた。


「いいよ寝たままで、まだ本調子じゃないだろ」

「ええ、でも少しでも体を動かしたいの」


 傷は完全に塞がったらしいが、結構な量の血が流れたようで、二、三日は安静にと言われていた。

 私が隣で分厚い皮を量産する。

 結構難しいなこれ。

 隣ではセリシアが同じように皮を剥いているが私みたいに分厚くない。

 てか上手い。

 

「……ごめんなさい」


 ポツリとアヤメの口から言葉が漏れた。


「いいよ、パーティーなんだから助け合わないと」

「そうそう」


 私に合わせて相槌を打つセリシア。

 部屋にシャリシャリと皮を剥く音が響く。


「……私、セレナ川の下流沿いにある村に住んでたの」


 セレナ川。

 このグルーブの街が接している大きな川の名前だ。


「静かな村だった。私はそこでお母さんと二人で暮らしてた。お父さんは物心つく前に狩に出たっきり帰って来なかった」


 私は静かにアヤメの話に耳を傾ける。


「でも村のみんなは優しくて、二人でも暮らしていけた。私はお母さんを手助けするために色々勉強した。お父さんは魔術師だったらしくて、本は残ってたから勉強するには困らなかった。昼はお母さんを手伝って、夜は本を読んで薬草から薬を作ったり魔法を覚えたり。私は青属性が得意みたいだったから回復魔法も使えるように練習した」


 アヤメは近くに置いてあるコップで水を飲み、続けた。


「平和だった。私はある天気のいい日に薬草を取りに村を出た。いつもの場所で薬草を摘み村に帰る。もうすぐ年に一度の祭りだった。これから準備に忙しくなるけど、すごく楽しみだった。私はその祭りの日に、成人として村に認められるはずだった」


 だんだんと声が震え始めている。


「村に戻ると、いつも入り口にいた村守りがいなかった。不思議に思ったのと、何か嫌な予感がして家に走って戻った。戻る途中、村の中心の広場から大きな声と、悲鳴が聞こえた。祭りの準備でにぎわっているのかも、でも悲鳴が上がるのはおかしいと、様子を見に行ったの」


 何かに耐えるようにをぐっと握り、震えながら話を続ける。


「広場には村守りが集まってた。いつもは武器を持たない男の人たちも、みんなが武器を持って何かを囲んでた。囲んでたのは、さっきみたいな狼の魔物だった。村ではめったに見ないタイプで、たぶんあれもはぐれものだったんだと思う。村守りの何人かが怪我をしているのが見えたから、傷を治そうと、近づいたの。魔物がよく見えた。矢とか折れた槍が刺さってて地面が血で赤くなってた。でも、その血はそいつのものだけじゃなかった」


 息が荒くなり、早口になっていく

 

「そいつの、そいつの足元に人が倒れてた、五人はいたと思う。ピクリとも動かない、お腹から何か出ている人もいた。その、その中にいたの、目が合ったの! すぐわかった、あれは、私の、わたしの、お母さん、お母さんがあいつの足元で、血だらけで……!」

「アヤメ……」


 私はアヤメの手に手を重ねる。


「ご、ごめん、なさい……もう、大丈夫だと、思ったんだけど……魔物は、村守りのおかげで、それ以上の被害は出さずに討伐できた、でも、お母さんは助からなかった。倒れるまで治癒魔法をかけ続けたけど、だめだった……私は泣いたわ、三日くらい何も食べずにひたすら泣いた。もっと魔法がうまければ、魔力があれば、お母さんは助かったかもしれない、ほかの人も助けられたかもしれない……一撃で殺せる力があれば、すぐに魔物を殺して治療ができたかもしれない。私は力を、魔力の使い方を覚えたかった。そのとき、お父さんの本で魔法学校のことを書いてあったのを思い出したの。私はすぐに入学しようと決めた。それからすぐに村を出て、何とかここまでこれた。だけど、これ以上進むお金が無かった、だから私はすぐにお金になる職業、冒険者になった……そして、あなたたちとで会って、このざまよ……」


 泣きそうな、けれども口には自分を笑うような笑顔を浮かべるアヤメ。


「何が助けられたかもしれないよ。私は、皆の足を引っ張ることしかできなかった……」

「さっき取り乱したのは、そのときのトラウマが原因?」

「そう、ね……食べられてるのが人ってわかったら、頭が真っ白になって、あのときの光景が重なって……その後は、殺してやるって事しか考えられなかったわ」


 そうなるのも無理からぬことかもしれない。

 彼女の心の奥底には人を助けたいという思いと、復讐心、怒りがあるのだろう。


「私、後は一人で行くわ。これ以上迷惑掛けれないし」


 え、何でそうなる。

 

「こんな急に取り乱す人間がいたら迷惑でしょ。元々一人で行こうと思ってたし」

「何言ってんだ。はなからおいて行く気なんてないよ」

「でも、カレンもセシリアも、私のせいで危険な目にあったでしょ?だから」

「そんなことで置いて行ったりしないよ」

「そんな事って、もしかしたらそのせいで誰か死ぬかもしれないのよ!?」


 確かにそうだ。

 もしかしたら誰か命を落していたかもしれない。

 今回は倒せるレベルだったからいいけども、今後もこう上手くいくとも限らない。


「確かにそうだけどね」

「ならなんで? 元々赤の他人なのに」


 赤の他人って、何を言い出すんだこの子は。


「他人じゃないよ、アヤメは私たちのパーティーの一人。仲間の一人だろ? 仲間のフォローなんか当たり前だよ。それに、私はこれまで短い間だけど、アヤメと一緒にいれて楽しかったし、これからも一緒にいたいと思った。これじゃだめかな?」

「私も、アヤメとカレン様と三人でいるのは楽しかったよ」

「でも、またこうなったら」

「そうならないように、アヤメも気を強く持って次から気をつけるように。次がだめだったらまた次がんばればいい。そして、だめなときは頼ってくれていい、それが仲間ってやつでしょ」


 ちょっと臭かったかな、恥ずかしくなってきた……


「セリシアも、本当に、いいの?」

「うん、もうアヤメは仲間なんだから気にすることないよ。もしもの時は私も助けるから。私、カレン様より強いんだから」

「二人とも、あり、がとう……」

 

 私の手を握り返し、肩を震わせる。

 泣いているんだろう、手に熱い雫が落ちる。

 

「アヤメ、改めて、よろしくね」

 

 アヤメは泣きながら何度も頷く。

 私はアヤメが落ち着くまでずっと手を握っていた。


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