初めてのパーティー
――朝――
カーテンの隙間から入り込む光、隣に見る愛らしいセリシアの顔、気分のよい目覚め――になるはずだった。
だがそれは隣に泊まっているのであろう客のせいで台無しにされてしまった。
がたがたと何かを準備する音。
あーだこーだ焦っているのか微妙に聞こえる声。
どたどたと部屋を歩き回る音……
そして極めつけにガッタンバッタンと大きなドアを閉める音!!
「だぁああうるさいぞっ!!」
「ご、ごめんなさいぃ!!」
ドア越しに聞こえた謝罪も、最後まで言い終わらないうちに離れたのか語尾につれて足音とともに小さくなっていった。
「んん……カレンさま?」
おっと天使を起こしてしまった。
「おはようセリシア、起こしてしまってごめんね」
そういってセリシアをなでながら布団を被りなおす。
まったくなんて朝だ。
私の意識はセリシアと布団の温もりを感じながらゆっくりと沈んでいった。
「カレン様、カレン様起きて、もうお昼だよ」
あぁおはようセリシア、今日も可愛いね、って
「あれ、お昼?」
「うん。エルノラさんがご飯運んでくれてるよ」
そうだった、さっき二度寝したんだった。
もそもそと布団から出る。
昨日遅くまで打ち合ったからか体がだるい。
結局セリシアから一本取れなかったな。
「今日カード取りに行かなきゃ」
そうだったそうだった、カード取りに行かなきゃ。
寝起きだからか疲れているからか、頭の回転がすごく鈍い。
私はあくびをしながらもそもそと昼食を食べた。
~~~
ギルドは朝依頼を終えた人たちと、今からもう一仕事する人とで結構人がいた。
カウターさん、は忙しそうだな……今日は別の人にしよう。
カウンターに付いているベルを鳴らすと奥から他のギルド員が出てきた。
「こんにちは~今日はどのようなご用件で?」
あ、なんかカウターさんよりちゃんとしている。
こんなまじめに聞いてこないしな、あの人。
そのぶんこっちも気楽に話しやすいんだけども。
「えぇ昨日冒険者登録して、今日カードを受け取りにきたんですが」
「少々お待ちくださいね」
そういって持ってきて渡されたカードは鉄のドッグタグのようなカードだった。
カード状の鉄の板に名前、どこで発行したものか、ランクだけ刻印された簡単なものだった。
「こちらがケースになります。もし紛失した場合最寄のギルドで発行できますが、本人確認などでお時間がかかる場合がありますのでご注意ください」
はい、と革でできたケースを渡される。
ケースは裏にベルトを通せるようになっており、腰につけたりもできるようになっていた。
「後、依頼の受け方やランクについての説明は要りますか?」
「はい、お願いします」
ちゃんと知ってないと後から問題になるかも知れないからな。
受付の人の説明によると、依頼は基本掲示板に出されているものから選ぶ。
依頼が自分のランクで受けられるものなら依頼書をとって受付で確認してもらい、報酬の何割かを契約金として払う。
何割になるかはその依頼による。
依頼をこなしてその証、魔物狩りならその牙や毛皮、採取ならその採取した物をギルドに持って帰り、審査を受けてOKなら依頼達成になり報酬が支払われる。
その際の対応や速さによってギルド内で評価されランクが上がっていく。
今は冒険者に成り立てなのでランクはEだ。
ランクはEからSまであって、採取系ならひとつ上のランクでもいけるが討伐系など危険なものは同ランクでしか受けられない。
パーティーで受ける場合はパーティー名を決めてから依頼を受ける。
その際報酬は増えたりはしないみたいなので、パーティーで受けるメリットがあるかどうかを考えながら受けなければいけないな。
ついでにパーティーで受ける場合、パーティー内の半分以上のランクが条件を満たしていれば低ランクがいても上の討伐依頼を受けることができる。
ただ、下のランクをパーティーに入れての戦闘はなかなか厳しいものがあるのであまりおすすめしないとのこと。
逆に高ランクのパーティー等が低ランクの依頼を受けると、その内容などによるがランクを下げられたりすることもあるらしい。
まぁ下のランクの依頼を手当たりしだいやられたら受ける依頼なくなっちゃうしね。
ふむふむ大体わかった。
とりあえず何かこなしてみようと思い掲示板を見に行ってみる。
掲示板は横に長く、ギルドの壁の一面を丸々使って作ってあった。
横長なのは入り口側から順番にランクで縦に区切っているからだ。
私達はEランクなので入り口に一番近い場所を見に行く。
「セリシア、どれがいいかな」
「薬草の採取。簡単そう」
セリシアが見ているのは薬草『プラネマ』を採取して持ってくるというもので、主な採取場所も載っていた。
数は三十本と書いてあるが、指定数以上でも買い取るようだ。
「じゃあこれにしようか」
依頼書を掲示板から取ろうとしたが、私の手は空しく空を切った。
「仲良くしてるとこ悪いね、午前中きついのだったから楽なのやらしてくれや」
なんかチャラそうな、っていっても雰囲気だけで服装は普通なのだが、お兄さんがひらひらと依頼書を持っていってしまった。
そうか、そういうことね。
早い者勝ちってことね。
「カレン様、カレン様」
「ん? ほかにいいのがあった?」
「あれ、取り返す?」
こらこらこら、剣を抜こうとしない。
不満そうなセリシアをなだめて、次を探してみる。
他はだいたい街中での雑用、荷物運びやら店番、探し物などだった。
冒険者が店番って大丈夫なのだろうか……
「んー、荷物運びでもいいか、最初のお試しみたいなものだし。セリシア、いい?」
「カレン様がいいなら」
じゃあ決まりだな。
内容は倉庫の荷物を移動するからその手伝いって書いてあるし、楽そうだ。
依頼書を取りカウンターに持っていこうとしたときギルドのドアが開いた。
なんとなく目をやると、そこには綺麗だが少し気が強そうな黒髪の少女がいた。
「カウターさん、これ依頼主からの達成書」
そういって少女は何か紙をカウターさんにわたした。
「はい、達成書、確かに受け取りました。これが今回の報酬です」
「ありがとう」
そういって小さな袋を受け取る少女。
さっきあのこが渡していた達成書ってなんだろ。さっきの説明にはなかった気がするけど。
私はもう一人のギルド員に依頼書を渡しながら聞いてみる。
「あぁすいません、あれは証拠としての物を持ってこれない場合に依頼主からもらう依頼達成の証です。例えば今受けようとしているこの荷物運びを終えても、こちらは現地にいないので達成したかどうか確認できません」
確かにそうだ。
いちいちすべての依頼についていくわけにもいかないだろうしね。
「そのため依頼を達成したと依頼主が納得したらその証として達成書を書いてもらいギルドに持ってきてください。それをギルド員が確認して不備がなければ報酬が支払われます」
なるほどなるほど。
依頼を達成したら達成書をもらうと。
「依頼は荷物運びですね。これは個人で受けられますか? パーティーで受けられますか?」
パーティー? 二人からでもパーティーになるのか。
「じゃあパーティーで」
「ではこちらにパーティー名と参加者の名前を書いてください」
むむ、パーティー名とな。
やばい、まったく考えてなかった。
んー昔からこういうの苦手なんだよなぁ……
あ、前世でやってたゲームのチーム名とかどうだろうか。
結構皆ちゃんと考えてつけてたもんな。
一人一人が歯車のようにかみ合って戦う、GiA!!
圧倒的な強さ、Absolute!!
太陽神、アマテラス!!
リミット・レス・スカイとかもあったなぁ。
ジークとかもあったなぁ。
懐かしい……皆人だった……
誰も死んでないけど。
皆かっこいいけどこれをそのまま使うのはなぁ……
「セリシア、何かいい案ない?」
「カレン様のパーティー、とか」
うん、それ私がいやだ。却下で。
しょうがない、私がいつも使ってた名前にするか。
「じゃあこれでお願いします」
私は用紙に見慣れた名前を書く。
『Merry Gate』
これは諺の、笑う門には福来るを英訳したものだ。
正確には Fortune comes at the merry gate になるのだが、私が好きなロボットゲームで好きなキャラがメリーゲートだけ使っているのを見て、気に入ったので色々なゲームで使わせてもらっていた。
メリーで可愛さを出し、ゲートでかっこよさと厨二ぽさを出しているこの言葉は正直最高にいかしてると思っている。
周りからは特に良いとか言われたことは無いけども……
「セリシア、これでもいい?」
「うん、なんか可愛くて良いと思う」
反応も悪くないのでこれでいこう。
「すいませんこれで登録お願いし「二人ともちょっと待ってくれる?」
登録しようとしたところをカウターさんに止められた。
「もし二人がよかったらだけど、この子も一緒に入れてもらえない?」
「カ、カウターさんいいですよ!!」
なんか本人は嫌がっているが……
「その子さえよければ良いですが、なんでまた」
「いやぁアヤメちゃんも今日カードもらった新人さんだからさ、新人同士仲いいほうが良いでしょ。ここら辺同じ年で新人っていないしさ」
あぁそれで顔合わせついでに一緒に依頼こなしてこいってことか。
こっちとしても仲間が増えれば依頼をこなすのも楽になるしいいかな。
お金に困ってるわけじゃないし、私たちとこの子とで報酬折半でもいいし。
それにアヤメって呼ばれた子、さっき依頼終わらしていたからこっちがわからなくなっても助けてくれるかもしれないし。
「僕はカレンといいます。よければ僕達と一緒に行ってもらえませんか?」
とスマイルで話しかけてみる。
笑顔で挨拶、これ大事。
私は火傷の跡を隠すために左の前髪を伸ばしているから無愛想にしてたら怖い人みたいになっちゃうからね。
「わ、私はアヤメっていいます。よろしく」
少し俯いたまま挨拶を返してくれる。
にしてもなんかすごく日本名だな、偶然なのか。
「私セリシア、よろしく」
「よろしく」
んー……セリシアとは普通な感じだな。
もしやこれは……
「アヤメさん、これに名前を書いてもらっても良いかな?」
アヤメの手をとってペンを渡す。
「あ、はははい!!」
すごい動揺してペンを受け取る。
まさかこの子、私の事意識してるのか?
まぁ今男って事にしてるし、自分で言うのもなんだが私の顔いいからな。
「こ、これでいいですか」
アヤメが確認してくれと言ってくる。
少し恥ずかしそうにして目をあわせようとしない。
少しきつそうな目を下に向け、白い頬が少し赤くなっている。
可愛いなおい。
前髪は眉あたりで切りそろえられており、後ろは耳の高さからツインテールにして、動くたびに腰まである長い髪がさらさらと揺れている。
つまり、気の強そうな目の黒髪パッツンツインテールの女の子が恥ずかしそうに頬を染めているのだ。
胸がきゅんきゅん!! と締め付けられるようだ。
これで落ちない男はいないだろう。
落ちなかったらきっとそいつはゲ○かなにかだ。
私女だけどね。
「じゃあ改めてよろしくね、アヤメさん」
そう言って自分の中で最高のイケメンスマイルを向けてみる。
おぉおぉ顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。
これは楽しくなりそうだ。
わたくし何かに目覚めてしまいそうですわ。
こうして、初めての依頼は三人で受けることになった。
カウターさんからいってらっしゃいと手を振られながら私たちはギルドを後にした。
Merry Gate 作者名にも使ってます。オンゲでもどこでも何か名前を使うときはこれなので、見かけたらそれは私かもしれませんw




