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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第二章 駆け出し冒険者編
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 太陽が沈んでいく。

 大きな門は音を立てて閉じられていく。

 風は冷たくなり、空には満天の星空が顔を出し始める。

 あたりはもう、夜になろうとしていた。

 

 って、そんな詩人みたいな事を考えてる場合じゃなかった。


「一、二ぃの、三ぅ!」

 

 ギギギと木製の車輪が回りぬかるみから馬車が這い出すように進む。

 

「よし出たぞ! 皆乗れ、門が閉まる!」


 言われたとおり荷台に飛び乗り後ろへ手を伸ばす。

 ぐっとセリシアの手を握り一気に引き上げるが、勢いと馬車の揺れのせいで二人共倒れてしまった。

 とっさに下になりセリシアを抱くようにして倒れこむ。

 

「大丈夫セリシア?」

「カレン様が下になってくれたから、大丈夫」


 そう言って笑顔で微笑む。

 可愛い、可愛い!


「あぁもう可愛いなぁセリシアは!」


 ぎゅっと抱きしめなおしてうりうりと頬ずりをする。

 きゃーと言いながら笑いながら身をよじるセリシア。


「お二人さん、いちゃいちゃするのはいいけどよ。そろそろ街に入るぜ」


 私達を見てげんなりしつつキャラバンのリーダーのおじさんが言う。

 はーいと返事をして、セリシアとのいちゃいちゃを止めてバッグを持ち降りる準備をする。

 昨日の雨のせいで馬車がぬかるみにはまったときはまた野宿しなければならないかと思った。 

 馬車が止まり荷物を降ろすのを手伝ってから、報酬として少しの銅貨をもらい手を振ってキャラバンと分かれた。

 荷物を担ぎなおして、人がごった返した中央のとおりを進んでいく。

 

「懐かしいね。あのころと変わらないなぁ」


 数年ぶりに来たグルーブは前と変わらず活気に満ちていた。


「カレン様、お風呂入りたい」

「わたし……おっと、僕もそう思ってた」

 

 女の子だからやっぱり汗臭いのはいやだ。

 ここまでに水浴びとかもできなかったからなぁ。

 私とセリシアはまず宿へ向かうことにした。

 どの宿にするかは決まっている。

 もちろん『眠れる戦乙女の宿』だ。



~~~



「こんばんはー」


 ドアについている鈴がちりんと鳴る。

 眠れる戦乙女は前と同じ場所にあった。

 もしかしたら無くなっているかとも思ったが、ちゃんと前と同じ場所に佇んでいた。


「はいいらっしゃいませ、何泊の予定でございましょうか」


 カウンターの奥から少し丸い女将さんが出てきた。

 エルノラさん少し太ったかな。

 こんなこと決して口には出せないが。


「お久しぶりですエルノラさん」

「お久しぶりです」


 エルノラさんはきょとんとした顔で固まった後、すぐに笑顔になって歓迎してくれた。


「最初見たとき分からなかったわ、二人共綺麗になってまぁ」

 

 二階の置くの部屋に通され、その入り口で三人で立ち話。

 

「私はそうでもですが、セリシアはどんどん綺麗に可愛くなっていくので気が気じゃないですよ」

「そんな、カレン様も可愛いしかっこいいよ」

「二人共うらやましいわぁ。おばさんにも若さを分けてよ」

「エルノラさんも変わらずお綺麗ですよ」

「まぁこのこったら。にしても……」


 エルノラさんが私をぼ服装を見て首をかしげる。


「カーレントお嬢さんは何でまた男みたいな格好してんだい」


 エルノラさんの言ったとおり、私は髪を後ろで纏め、ポニーテールにして服装も男物の飾り気のない服を着ている。

 セリシアもズボンだが、ショートパンツに太ももまである皮のグリーブを履いている。

 ショートパンツとグリーヴの間から見える少し焼けた健康的な太ももがなんともイイ! 

 上は鉄を縫いつけた皮の胸当てと籠手をつけているが、着ている服は少し袖がゆったりしたもので、袖口などに控えめについているフリルが可愛い女性用の服装をしている。

 服を決めるときアーレとマリアと三人でこれが可愛いこれも可愛いと悩んで選んだのが懐かしく感じる。

 その時の事を思い出しながらセリシアを見ていると、私の視線に気がついたのか少し頬を染めながらはにかんだ笑顔を向けてくる。

 

「ちょっと聞いてんかい?」

 

 おっとエルノラさんに説明するところだった。

 

「ええっとですね、二人で旅に出ると決まったときに女の子二人は危ないということで、私が男の格好をしてれば大丈夫じゃないかということになりまして……」

「なるほどねぇ。まぁセリシアお嬢さんは男の格好はできないものねぇ」


 エルノラさん、気にしているから胸を見比べないでくれないか。

 セリシアの胸には胸当ての上からでも分かるくらいふっくらとした胸があるのが分かるサイズなのだが、私の胸は胸当てを強く締めてもあまり苦しく感じないという結構な差ができている。  

 背も小さくて猫耳で健康的な小麦色の肌と対照的な白い綺麗な長髪、そして慎ましやかに主張する胸と恥らう笑顔。

 そんな美少女なセリシアとは違って、私は背も高くなり、特訓の成果である筋肉質な体と中性的な顔立ち。

 そして主張することもできない胸と目元の火傷跡。

 ただ持っている武器は私が腰に下げている六十センチほどの片刃剣で、セリシアのは細いが長い両手剣、バスタードソードを背負っているというおかしな事になっている。


「エルノラさん、よければお風呂を使わせてもらってもいいですか?」

「いいよ、旦那に言ってくるから準備ができたら呼びにくるよ」


 エルノラさんはそう言って下の階に降りていった。

 私たちは部屋に荷物を置いて、武器や防具をはずしていく。

 しばらくして部屋にお湯の準備ができたとエルノラさんが呼びにきてくれた。



 いつものように二人で浴場に入り、お互い背中を流していく。

 セリシアの綺麗な背中を流していると、すこし遠慮がちに問いかけてきた。


「カレン様は……ほんとに男装するの気にしてないの?」 

「なんでそう思うの?」

「だって、可愛い服着たりアクセサリーつけたりするの、好きでしょ?」

 

 まぁね、と返しながら背中の泡を流してやる。

 

「でもね、私が男装してればセリシアが怖い思いしなくてもすむかもしれないし。それなら喜んで私は男装するよそれに」


 振り向いたセリシアににっと笑いながら言う。


「なかなかの美青年でしょ」

「うん、カレン様が一番かっこいい」


 天使のような笑みを向けてくれるセリシア。

 私の男装でこの笑顔が守れるならもう性転換しちゃおうかな。

 なんて馬鹿なことを考えたり、冗談を言いながら浴場から出て、夜二人でベッドに入り――一応二つベッドはあるのだが――ぐっすりと眠った。



~~~

   

 

 翌朝、朝食を食べてから寝巻きから着替えて二人であるところに向かった。

 この街に来た理由、冒険者ギルドだ。



 ギルドの酒場のドアがギギギと音を立てて開かれる。

 入ってきたのは二人、黒髪の男と白い髪の女。

 見慣れない顔に酒場の視線が二人に集まる。


「おい、あれ……」


 周りで囁かれる言葉を気にせずに、こつこつと足音を響かせながらカウンターへ向かい丸いがたついた椅子に腰掛ける。

 そして男はカウンターの女性に言った。


「冒険者として登録したいんですが……カウターさん覚えてますか?」


 カウターと呼ばれた女性は一瞬固まったあと声を上げた。


「あんた、カレンちゃんかい?」


 

 二人で登録書を書ながらカウターさんの話を聞いた。

 あれからすぐライト一家は別の街に行ってこっちでは見ていないこと。

 ハックルはまだいるけどエルダはライトのように別の場所に移ったこと。

 最近新しく登録した子がいるとか、修練場が綺麗になったことなど。


「修練場綺麗になったんですね。今度使わしてもらいます」

「いつでもどうぞ、後ここにもサインしてね」

 

 返された登録書にサインを書き足してカウターさんへ返す。


「はい、二人共確かに登録願いを受け取りました。命を大事にして、身の丈にあった依頼をこなして上のランクを目指してくださいねっと、カードは明日になるからまた明日取りに来てもらえる?」

「分かりました」

「これからどうするの? ここでやってくの?」


 カウターさんがいうこおでやっていくっていうのはここを拠点として生活しながら依頼をこなしていくのかってことだ。

 それもいいかもしれないが、私は首を振った。


「いえ、少ししたら次の街に行こうと思います。色々な場所を見て回りたいので」

「そう、もし困ったことがあったら周りの冒険者に手伝ってもらったりするんだよ」

「はい」


 色々見て回りたいのもあるが、それとセリシアの両親を探すのも同時に行おうと思っていた。

 セリシアはもう気にしていないし、年数がたっているからもしかしたらもう……と言っていたが、いいほうのもしかしたらがあるかもしれないしね。

 

 登録が終わり私達はハルトの工房へ足を向けた。

 


 暗い路地を進んでいく。

 ちょっとうろ覚えだったけど何とかついた。

 が、ハルトの工房はすでに無くなっていた。

 いや、建物はそのままなのだが、別の人が住んでいた。

 

「ハルト、街を出ちゃったのかな」

「残念ですね。お酒買ってきたのに」


 手に持ったお酒に目をやる。

 いなくなっちゃったんならしかたない。


「残念だけど、旅を続けていたらまた会えるよ」


 お酒どうしようかな、と考えながら一旦宿に戻ることにした。

 

 宿で二人でごろごろと時間をつぶす。

 もう大体知り合いのところは回ったからすることがない。

 ギルドカードがなければ依頼も受けられないし。

 なにか買うのにも特にまだ足りないものもないし。

 

「セリシア、修練場でも行く?」

「うん。でも先にご飯食べたい」


 そういってセリシアがドアの方に目をやると、コンコンとノックの音がした。

 もうそんな時間か。

 エルノラさんが運んできてくれた昼食を食べてギルドに向かった。


 

「なんだいあんたたち、また来たのかい」

「ええ、宿にいてもすることがなくて」


 呆れたというように肩をすくめながら修練場使用の手続きをしてくれた。


 修練場は確かに綺麗になっていた。

 前はただの空き地のようだったが、綺麗にならされ木剣などもちゃんと棚に置かれている。

 鎧を着せた人形や一部は弓を練習できるように柵で縦長に分けられた場所もあった。


「おぉ、これはなかなか」


 綺麗になったし、前より広くなったんじゃないだろうか。

 いつもどおり準備運動をして軽く打ち合っていく。

 軽く軽く。

 セリシアが私の剣を軽々と受けずに交わしていく。

 軽く、軽く。

 私はセリシアの剣を受けるので精一杯。

 軽く……ああああもうっ!


 結局その日は、ギルドが閉まるまで二人で打ち合い続けた。

 疲れた……

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