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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第一章 幼年期編
22/39

いってきます

 じりじりと距離が詰まってくる。

 あの盾を何とかしないと……

 後二、三歩で間合いに入る。

 何を考えても上手くいきそうにない、そんな気分になってくる。

 諦める、負ける、という言葉が私の頭の中を埋めていく。

 あぁくそ、せめてセリシアの前では負けたくなかったのになぁ。

 はぁとため息をついたとき、


――カ……ンさ……!! 負け……で!!――

  

 観客の中から声が聞こえる。

 可愛い聞きなれた声。


――カレンさまっ!! がんばってっ!!――


 セリシアの声。

 人見知りのセリシアがこんな人が多い中で、声を張り上げて応援してくれてる。

 あのセリシアが私のために大声で……なの私は……


「何弱気になってんだ、私は」


 たまたま前の作戦が上手くいったからってうじうじ考えてしまった。

 いっぱしの戦略家きどりか、私は。

 前世はどうだった、考えて動いてたか?

 コントローラーを握って戦争ごっこしてたとき、そんな難しいこと考えてたか?

 もともと頭がいいわけじゃないんだ。

 

 とにかく気持ちで押されるな、気合入れろ私!


「ぅおおおあぁ!!」

 

 足止めてても勝てないだろ、前に出ないと勝てないだろ!

 全身で集中して、テンション上げて!

 

「いくぞぉぉぉ!」

 

 前に前進! 突っ込め!

 

 魔力を身体強化にぶっこめるだけぶっこんで、今度はこっちから突っ込んだ。

 急激な強化に体が軋む、景色が一瞬にして流れていく。

 私の動きについてこれていないのか、盾はまだ反応していない。

 だが、動かなくても盾を前に出されていては攻撃がしにくい。

 盾が、邪魔だ!

 吹っとばす!!

 

「うぉらぁ!!」

 

 右肩から全力で盾にぶつかっていく。

 ばきっという音と共に盾を上にかちあげる。

 全身全霊のタックルだ。ライトは受け流せずに体制を崩している。

 ここだ、とすぐさま左手で剣を振る。


「くそっ!」

 

 驚いたようにライトが反応する。

 切り上げた剣はがちりとライトの剣に阻まれ、


「あっ!?」


 無理な体勢からの攻撃はいなされ、剣を弾き飛ばされた。

 一瞬さっきの弱気に、負けるという言葉に手が止まる。

 

――がんばって!!――


 まだだ、まだ負けてない!


「あぁぁぁあっ!!」

 

 無手となった左手でライトの手首を取り、剣を止める。

 私は、負けない!!

 そのまま体をぎゅっと回し、背中を相手に向ける。  

 

 腰は相手の腰より低く、足は内股で力をこめて!

 

 私の動きにライトが焦って逃げようとするが、もう遅い。

 

 腰でかち上げるように一気に足を伸ばして、相手の腕を引く!

 

 重さが背中に掛かり、ライトの足が地面から浮くのがわかる。


「ぃよいっしょおおお!!」

 

 背中の重みが、跳ねるように消えた。



~~~



 早朝、まだ街の通りは静かだ。

 私達は門の外で馬車に荷物を積んでいた。

 といっても私は左腕しか使えないので軽いものしか持てないのだが。

 私の荷物をセリシアが積んでいく、もうしわけねぇ……


「カレン、お客さんだぞ」


 手を止めて門の方を見ながらゴルドールがいう。

 私は着替えが入ったカバンを持ったまま振り返った。


「よぉ、腕大丈夫か」


 振り返った先にはライトがいた。


「折れたわけじゃないから大丈夫、今は一応用心のため吊ってるだけだから。なんか骨をはめてすぐはまた外れやすいんだってさ」


 と、布で首から吊ってある右腕をぽんぽんと叩いた。

 折れているわけじゃないから痛みはない。

 でもまさか自分のタックルに耐えられず、自分の肩が外れるとは。

 あのタックルした時の音は骨が外れた時の音だった。

 

「そうか、大丈夫ならいいんだ……俺さ、明後日には別の町に移るんだ」

「そうなんだ。じゃあもう会えなくなるな」

「あぁ、だけど、もし……もしまた会えたらさ、また相手してもらってもいいか?」


 そう言って私をじっと見つめてくる。

 また決闘か、でもこれが彼なりの友達への接し方なのかもしれない。

 すこしとんがってるからなぁ、頭毬栗だしな。


「いいよ、そのときはまたやり合おう」

 

 ふっとライトが笑い、右手を前に出す。


「約束な、次こそは俺が勝つからな。忘れんなよ?」

「そっちこそ忘れんなよな」


 右手を出そうとして吊ってあるのを思い出し、左手でライトの手の甲を握る。

 あっという顔をした後、お互い声を上げて笑った。


「さっき何お話されてたんですか? も、もしかして、愛の告白ですか!?」


 何か変に考えているマリアに違うよと返すが、ではお二人はどういう関係で? とニヤニヤして質問を重ねてくる。

 かたりと音がして、御者台を見ればゴルドールが前を見たまま体を傾け、こちらの話をよく聞こうとしている。

 あんたらは恋ばな大好きな中学生か。

 ついでに白い天使は、私の肩に頭を預けて静かに寝息を立てている。かわいい。


「関係も何も、あいつはあれだよ」


 私は小さくなっていく城壁を見ながら、


「ライバルってやつだよ」


 と答えた。




~~~



 あれから数年たち、私とセリシアは成人、十五歳になった。

 

「なんかあっという間ね」


 着替えている私の隣でセリシアの髪を梳きながらアーレがつぶやいた。


「そうですね、思い返せば短いように感じます」

 

 私の答えにセリシアも頷く。


「昔はこーんなに小さかったのにねぇ。はい、できたわよ」


 セリシアの肩に手を置いてアーレが微笑む。

 ありがとうお母様、とアーレに鏡越しにセリシアが笑顔を返す。

 着替え終えた私はその微笑ましい光景を見つめる。

 と、部屋にノックの音が響いた。


「お二人とも、そろそろ時間ですよ」


 部屋を出て、呼びにきたマリアと共に玄関へ向かう。

 玄関ではゴルドールとセーラが待っていた。


「カレンよくにあってるぞ、まるでどこかの騎士のようだ。セリシアはお姫様かな?」

「お二人とも、どうかお気をつけて」


 セーラが私とセリシアに、革でできたしっかりしたショルダーバッグを掛けてくれた。

 昨日頼んだタマゴサンド等が入っているバッグだ。

 セーラの料理は美味しいのだ。

 

「二人とも、つらくなったらいつでも帰ってきなさい。後、危険な依頼はあんまり受けるんじゃないぞ。後治安の悪い安い宿は避けること。あ、後お金は計画的に……」

「ゴルドー、心配しすぎよ。二人とも、頑張ってらっしゃい」


 私達の頭にぽんと手を置く。

 小さな手だが、暖かい。


「色々準備してくれて、ありがとうございます。では、行ってきます」


 私達は皆に見送られながら家を出た。

 

 村の入り口で待っていた馬車に声を掛けて荷台に乗り込む。

 少し前に村に来た小さいキャラバンに、護衛という形でグルーブまで乗せてもらうようになっていた。

 村から離れ、がたごとと揺られながら小さなキャラバンは進んでいく。

 セリシアは、私の肩に頭をあずけて夢の中だ。

 私はふと、初めてグルーブに行った帰りを思い出いだした。

 懐かしいなぁ。

 あれから村に帰ってからはほんとにあっという間だった。


 村に帰ってからの猛特訓、魔物との戦い方、わなの仕掛け方等色々な事を教わった。

 何も言わなくてもゴルドール達は私が冒険者になりたいというのをわかっていたようだった。

 私が冒険者になると皆にちゃんと伝えた日、私も一緒に行く、と言ってくれたセリシア。

 成人の儀――と言っても村でお祭りをするだけなのだが――がすんだ夜、ゴルドール達は皮の鎧や旅で使うであろう道具など一式用意してくれていた。

 ゴルドールは寂しくなるとしょげていたが、アーレは頑張るのよ、と応援してくれた。

 

「お父様、お母様、マリア、セーラ、ありがとう」

 

 ふと感謝の言葉が漏れた。

 前世の記憶を使って色々試したりしたが、そんな普通と違った私と距離をとったりせずに、家族として愛してくれていた。

 

 家族……

 

 ふと、前世での両親の顔が浮かぶ。

 私は前世で親からの愛を感じていただろうか。

 たぶん、当たり前よように受け取って、ありがとうと感謝して、伝えていただろうか。

 あの最後の言葉は、私の事を思って親なりに考えてだした言葉だったんじゃないだろうか。

 

 胸の中がもやもやする。

 

 あの言葉に傷ついたのは確かだが、私はちゃんと向き合って話しをしていただろうか。

 今はもう会うこともできないが、もし……もし会えたら、ごめんなさいと言って、もう一度話しをしたい。

 今まで言ってなかった、ありがとうも言いたい。

 なんて、今更遅いけど。

 

「カレン様? 大丈夫?」


 いつの間にか起きていたセリシアが、私の顔を心配そうに見ている。

 

「そんなに大丈夫じゃない顔してた?」

「なんか、泣きそうな顔、してた」


 泣きそうな顔か……

 まだ心配そうにしているセリシアに、にっと笑って見せる。


「大丈夫。ちょっと昔の事思い出してたの」

「昔の事?」

「うん、ちゃんと伝えておけばよかったってね。でももう大丈夫、安心して」


 セリシアは何の事だかわからず首を傾げている。

 私はここ数年でさらに綺麗になったセリシアの白く長い髪をそっとなでた。

 前世では伝えられなかったけど、今度はちゃんと……

 もしかしたら、前世での後悔を繰り返さないためにも転生したのかな。

 目を細めて気持ちよさそうになでられるセリシアを見ながら、今度は後悔しないように生きてみよう、そう思った。

 

 雲ひとつない晴れた空の下、そよ風が吹く平原、旅に出るにはもってこいの気持ちのいい朝だ。

 小さなキャラバンは、私達を乗せてがたごとと街へ向かって行く。


 これで幼年期が終わり、次章から成人してからの新しい章になります。幼年期だけで二十話……ほんとはもう少し少ない話数にしようと考えていたんですが、上手くまとめるのはなかなか難しいですね……

 稚拙な文ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです。ではまた次の章でお会いしましょう。

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