表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
始まり
2/39

プロローグ

 私の名前は小野寺おのでら 蓮華れんか

 二十五歳、某コンビニフリーターである。


 唐突だが、私はあまりひどくきつい言い方が出来ない性質だ。

 いや、一人の時にFPSで敵に理不尽なヘッドショットをもらった時などは、知りうる出来る限り汚い言葉(noo○やらFu○k!!などかわいいものだが)で相手を罵ったりはするが、基本人に対してはきつく言えないのだ。


 だが、私の両親。

 周りのクラスメートなどは違った。


 私の中の私たる部分。


 その一部は彼らとは違った。

 それは見た目ではなく心の違いだったのだが、彼らからしたらそれが違っているのは気持ち悪い、病気レベルのものだったらしい。


 そう、あれは高校3年の春のころだった。


 ほとんどの生徒が進路を決め。未来に不安や希望などを膨らませながら、離れていくであろう友達と思い出を作りながらすごしていた。


 私の進路は不純かもしれないが、片思いの人の行く地元の大学だった。

 そこそこのレベルで、少し勉強が必要ではあったが、その人とともに送るキャンパスライフなるものを妄想しながらする勉強は苦にならなかった。

 あんなところにも行って見たい。

 一緒にバイトをして旅行に行ったりするのも楽しそうだ。

 グダグダ大学の寮で一日過ごすのも悪くない。

 きっと、あの娘と一緒にいるだけで私は満足できる。


 そう、あの”娘”と。


 だが私の恋は、一般的にかなわない類のモノ、所謂同性愛というものだった。


 放課後、教室には私一人。

 夕日に染まる教室で片思いの娘を待っていた。

 家が同じ方角だからといつも一緒に帰っていた。

 帰宅部の私は彼女の部活が終わるのを漫画を読んだりスマートフォンをいじりながら待つ。

 その日は新作のFPSゲームの情報が出ているサイトを見ていた。

 次の時代設定は近未来かぁ。私的には現代か少し前くらいがいいのに、など文句を思いつつも、好きな武器がでているのを確認して買うことに決めた。

 帰ったらネットで予約しておこう。

 そう思いながらサイトのページを送っていると、ガラガラと教室のドアが開いた。


「ごめんごめん~!なかなか顧問の話が終わらなくてさ~」

「全然大丈夫!無問題だから!てかもう部活でなくてもいいんじゃないの?」


 彼女はまぁねぇそうなんだけどねぇ、と言いながら


「ついついね。授業終わったら足がむいちゃうんだよねぇ」


 勉強しないととは思ってるんですよ!本当ですよ!と冗談ぽくいう彼女に適当に返事をしながら席を立つ。

 彼女に近づくと、いつも付けている香水の香りがふわりと香ってくる。

 変態的かなと思いつつも、部活終わりの彼女の匂いが私は好きだった。


「……ねぇ、ちょっと話があるの」


すれ違う瞬間、彼女が私の腕をつかんできた。

ドキリ、と心臓が跳ね上がった気がした。


「え、どうしたの? 進路のこととか?」


 彼女のいつもと違う空気に緊張する。

 いつもは冗談を言って周りを笑わせることがおおい彼女が、今は珍しく真面目な顔をしてこっちと見つめている。

 そんなに見つめられると顔赤くなる、とかまつ毛長くて綺麗だなぁ、など思いながら見つめ返す。


「……今までずっと思ってたんだ。急かもしれないけど、私、あんたのことがさ……」


 え、え?あ~……え?


 なに、この流れ……

 え、嘘でしょ?

 軽くパニックになりながら、彼女の言葉の先を想像してしまう。

 この先って絶対好きって言葉しか出てこないでしょう。

 でも、そんなことは絶対にありえない。

 頭では期待するなと思いつつも、どうしてもその言葉を期待してしまう。


「結構前からなんだよ? 気づいてた? 私があんたを……」


 期待するな。

 これは違う。

 期待するな。


 だけどもし、もしそうだったら……


 ゴクリとつばを飲む。

 どうしても、期待してしまう。


 彼女は”違う”。


 私とちがって彼女は”普通”なのだ。

 期待するな。

 絶対に違う。

 きっと違う。


「……好きだってこと……」



 一瞬、時間が、止まった気がした。



 何回も、頭の中を彼女の言葉がこだまする。


     

  ――好き――



 彼女が。

 私を?

 本当に?

 

 頬がつうと熱くなる。

 気がついたら私は涙を流していた。


 嬉しかった……


 絶対に彼女から聞くことはないだろうと、そして、私からも言うことも無いだろうと思っていた言葉が、聞けた。


「……私も……ずっと好きだった。嬉しい……」


 恥ずかしさと、泣いている顔とを見られたくなくて彼女を見れない。


 でも、嬉しい。

 本当に……


「……え、まさか……本気?」


 え……


 本気?

 え?

 一瞬、彼女の言葉を理解できなかった。

 涙を拭いて顔を上げると、彼女と仲のいいクラスメートが教室に入ってくるのが見えた。


「マジかよ。私そっち系はさすがに無いわ……」

「まさかとは思ってたけどちょっと引くわ」

「ごめん。私も無いわぁ」


 ……何?


 彼女たちは一体何を言ってるの?


「え……ねぇ……え?どういう、こと?」

「知らないかもしれないけど、あんたがそっち系じゃないかって噂があったからカマかけたんだけど、まさかマジとは思わないじゃん」

「さすがにそれは無いと思ってたけど…マジかよ。ゴメンちょっと距離置くわ」

「私も」

「着替えの時とか一緒に着替えてたと思ったら……気持ち悪!!」


 一瞬にして、頭が真っ白になった。


 ……カマを、かけた?


 彼女の言葉は嘘だったのだ。

 彼女たちからしたらほんの冗談だったのだろう。

 だが――


「ごめん。明日から一人で帰るから」


 彼女の言葉を聞いた後、気がついたら自宅のベッドの上だった。




 次の日、私は学校を休んだ。

 そして、そのまま不登校になった。

 ほかの人の目が怖かった。

 とにかくあの視線を思い出すだけで吐いてしまった。

 朝お母さんと目を合わせただけで吐いてしまい、病院に行かず部屋に篭った。


 数日たち、両親が理由を聞いてくるようになった。

 両親ならと思い、ありのままを話した。

 が、返ってきたのは――


 病院に行こう――

 異常があるのかもしれない――

 おかしい――


 という言葉だった。


 胸がえぐられる気がした。

 また吐いてしまった。

 そして、怒りがこみ上げてきた。


 ――私のあの気持ちが異常? 好きになるのが女の子なだけで異常なの?――

 ――少し違うだけじゃない! ただそれだけじゃない!!――


 勢いに任せてドアと蹴り開け、パジャマのまま家を飛び出した。

 外はどしゃ降りの雨だった。


 


 寒い。


 だけど動く気もおきない。


 相当走って歩いて、結構なとこまできた。

 知らない公園のベンチでびしょ濡れのまま座ったまま、何もせずに呆ける。

 もう寒いかどうかもわからなくなっていた。

 とにかく下を向いたまま、雨の音だけ聞き続ける。


「お嬢さん、風邪引くよ?」


 雨が不意に止んだ。


 それが姉さんとの出会いだった。


 姉さんといっても血はつながってない。

 私は一人っ子だった。

 だが、彼女は姉さんと呼ばれるのが好きみたいだった。

 姉さんは一人暮らしで、他県からこっちの大学に通うため、安くてそこそこ綺麗なアパートに住んでいた。


 私は姉さんからいろいろなことを教わった。

 料理や勉強など、いろいろ。


 私は自分のことを、人と違うソレを打ち明けた。

 なぜ大丈夫な気がしたのか、よくわからない。

 ただ姉さんはそれをおかしなこととは言わなかった。


 姉さんは男とも女とも出来るらしかった。


 姉さんと暮らし始めてから4年は幸せだった。

 両親からは何もこなかった。

 捜索依頼などもでていないのだろう。

 姉さんは家に帰れとも私を追い出そうともしなかった。

 姉さんが家にいない間、私は家の掃除をし、昼からコンビニへバイトに出掛ける。

 渡す居候代(彼女は要らないと言ったが私の説得で少しだけならと受け取ってくれるようになった)以外はほぼ貯金をしているため、そこそこの額になった。

 まだ人と目を合わせたりするのが苦手ではあったが、なんとかやっていけた。

 ずっとお世話になるのも悪いからそろそろ一人で暮らそうと思い始めていた。


 ある日、家に帰ると姉さんから話があるといわれた。

 姉さんは結婚するらしかった。


 ごめんなさい。


 泣きながら謝る彼女を私は許した。

 そもそも愛していたわけではなかったから。

 ただの家主。

 恩はあるがそれだけだ。

 ちょうどいいのでそれからすぐ一人で暮らし始めた。




 いつものコンビニいつものお客。

 バイトに行って家に帰り、ゲームをして寝る。

 灰色な暮らし。


 だが、それも唐突に終わりが来た。


「ねぇ蓮華じゃない?ひさしぶりぃ~」


 その声を聞いた瞬間血の気が引いた。


 あのときの、クラスメイト。


「ねぇまだあんた女同士が好きなの?」


 昔のままのノリで聞いてくる。

 私は周りのお客様に聞かれたと思った。

 視線が集まる。

 いや、そういう気がしただけかもしれない。

 もうずいぶん昔のことなのに、鮮明にあのころの光景が頭の中にフラッシュバックする。


「あの、勤務中だから」

「え? なになに? あっ蓮華じゃん! へぇここでバイトしてんだぁ」

「どしたの? 知り合い?」

「うん。昔のクラスメイトでぇ」


 恋人と友達なのか、数人の男性もこっちにくる。


「あの、ほかのお客さまの迷惑に」

「このこさぁ私のことマジで好きだったんだって!」

「マジで!? 女なのに? へぇ~」


 ――やめて――


 そんな目で見ないで。

 足が震える。

 吐き気がする。

 ほっといてほしい。

 もう返ってほしい。

 怖い。

 周りからの視線が怖い。


「ねぇ? 聞いてんの?」

「俺らが男のよさ教えちゃおうか?」


 いやな笑いが聞こえる。


「おい、さすがに無視されっといらってくんだけど」


 私の腕を男がつかんだ。


「い、いや!! やめて!!」


 私は手を振りほどき、裏口から外に飛び出した。


 おい、まてよ! と、私を呼ぶ声がする。

 背中に視線を感じる。


 逃げたい。


 あのときみたいにどっか遠くへ。

 そのとき、危ないという声が聞こえた。

 私は道路に飛び出していた。


 トラックが迫ってくる。


 よけられない。

 でも


 ――これで、楽になれる――


 あぁ、どこからおかしくなったのだろう。

 あの時逃げたからだろうか。

 頭の中で、懐かしい記憶と黒い記憶がめまぐるしく交差する。


 ――もし、もしもう一度やり直せるなら……――


 私の意識は、そこで途切れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ