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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第一章 幼年期編
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毬栗

 鉄の扉の先にはサッカーができるくらいのかなり大きな修練場があった。天井は無し。土がむき出しの地面で周りは高い石の壁で囲まれている。

 すでにそこそこの利用者がいるようで、四組ほど木剣や木槍を使って打ち合っていた。組ごとにその周りには何人か仲間らしき人たちが囲んでいる。なんかどっかの民間のスポーツ施設のような感じがするな。

 修練場に入ってきた私たちに何人かちら、と視線を向けたがすぐに打ち合っている仲間の方へ視線を戻した。

 さて、とりあえず邪魔にならないように少し見学としようか。

 私とセリシアは一番入り口側にいた、両手剣と槍で打ち合っている組を少し離れた位置から座って眺めることにした。

 んん、なるほどな。槍で突くと見せかけて横なぎに… おぉ、両手剣の方も体重移動が上手いのか切り返しが速い、おっ、上手く近くまで潜り込んだぞ! と、二人で小さな声で盛り上がる。セリシアもあそこはもっと無属性を使ってとかあの動きはすごい、見習いたい等打ち合いに夢中になっていた。

 他の人がやっていたら自分もやりたくなるのが人の常。ちょうど奥にいた団体が帰るみたいなので、入れ替わりに二人で打ち合いをしようと静かに移動する。そこら辺の壁に色々な獲物が置いてあり、邪魔にならないように壁伝いに気に入った獲物を探しながら移動する。ちょうどよく使っているサイズの木剣があったが、片刃だった。まぁもともと両刃と片刃は気にしてなかったし、前世とはいえ元は日本人、やはり片刃の剣は刀を連想させてかっこよく見える。セリシアはいつものように大きめの両手剣を選んでいた。

 お互い向かい合い構える。今回は特にだれが立ち会うわけでもないので適当に初めて軽く打ち合っていく。今回はプロテクターや防具など着込んでないのでできるだけ当てないように、決めるときは寸止めでやっていく。他の人たちは冒険者や兵士なのか皆自前の装備を着ていた。

 いいなぁ、スケイルメイルとかすごくかっこいい、いつか私も欲しい。

 

 二人で打ち合っていると白熱していき、いつの間にか一時間近く打ち合っていたみたいだ。一時間とか時計があるわkじゃないから、まぁ、体感それくらい打ち合っていた。

 さすがに疲れてきたので、セリシアに休憩しようと言って手を止め、二人でさっきまでの感想を言い合いながら端の方に移動しようと振り返ると、いつの間にか周りに人が集まっていた。セリシアは緊張からか尻尾がすっと下を向いてしまった。

 まったく私の女神よる崇高なセリシアの尻尾を下げさせるとは何事か。


「あの、すいません私達お邪魔でしたでしょうか?」


 威勢のいいことを言いたいが問題が起きても困るから一応下手に出て反応を見てやる。本当は怖いとかじゃないぞ。

 

 嘘ですビビッてます。だって皆すごいがたいよくて女性の方も見せてる腹筋ばきばきなんですもん。


「いや、こんなちびっこが達者に険を扱っているのに驚いてな。馬鹿にしてるわけじゃないぞ? 純粋にすげぇなと思っただけだぜ」

 

 ちびっこと言われムッとしたのが分かったようで、少し訂正しながらひげもじゃの男がそう言った。

 すごいと言われても、私達の年齢の子がどれくらいできるのかっていうのが分からないから何とも言えず、ありがとうございます、と当たり障りのない返事を返した。セリシアは私のうしろに隠れている。


「どこで習ったんだい? 師は? まさか独学じゃないでしょう?」

 

 腹筋バキバキお姉さんが聞いてきた。装備は鉄の胸当てと膝や脛などを鉄で補強したズボンをはいている。腹筋だけなぜか丸見えだ。

 そういえば前世のゲームでは女キャラの装備は足を丸出し、もしくはパンもろで守る気がない装備が急に流行りだしてたな。

 私的にははやらした人グッジョブなわけだが。


「えぇとどうなるのかな。剣の師はお父様とメイドで、魔法の師はお母様ですかね」

「お父様お母様はわかるけどメイドってどういうこと、ていうかあんた魔法まで使えるの? 驚いたわぁ」

 

 ふむ、この年で両方使えるのは珍しいのか。

 まぁあの父と母と時々メイドの英才教育だしな。というか他に村ですることもなかったしね。

 ただほかの場所では大きくなるまでやたらとつかわない方がいいかもしれない。無駄に目立ってもいいことないからね。というかこんな風に質問されたりしたらめんどくさいし。


「まったくあんたに師事した両親ってのは相当教育熱心だったんだね。それともよほど名のある血が流れてるのか。獣人の子の方はどうだい? よければ聞かせてくれるかい?」

「この子と私は姉妹なんで。同じ両親に師事してもらいました」


 あ、一体どういうことだって顔してる。そりゃそうか、髪の色も種族も全く違うからね。普通に姉妹って言っても伝わんないか。


「えぇと話せば長くなるんですが…」


 そう言って理由を話し始めようとしたとき私の声を遮るように声がした。


「おいおいなんで女のガキがいるんだよ! ここは冒険者の修練場だ、ガキの遊び場じゃねぇ!」


 なんだなんだ? と声のする方を見ると毬栗頭の私より少し背が高いガキがいた。

 そうガキだ。見た目からしてもほとんど私と同じくらいか少し上くらいの年齢だろう。

 私はそのガキンチョが言ったことが本当なのか目でひげもじゃのおっさんに問いかけてみると、笑いながら肩を竦めた。

 

「カウターさんに正式な手続きをしてここに案内されたんですが、女の子が入るのはいけないのですか?」


 そう反論すると、毬栗坊主は(今度から毬栗と呼ぼう)上手く言い返せないのかもごもご何か言っている。


「それに女性でしたらそこにもいらっしゃいますし、年齢的なことでしたらいがぐ… あなたも変わらない年齢のように見えますが」

「う、うっせぇ! だめなもんはだめなんだよ! いから出てけ!」

 

 でたでた自分の考えだけでわがまま言うやつ。大体ちゃんとした理由があるわけじゃないから最後には切れるんだよなぁ。いきなり切れだしたからセリシアもビビっちゃってるし。

 さてこの毬栗をどうしようかと思っていると


「大体どうせ遊びでやってるだけだろう! 俺は本気で訓練してんだ! 目障りなんだよ!」


 ほほぉ私たちがやってるのが遊びだとな?

 あれだけこっちもまじめに練習してきたんだ。それを遊びって言われるのはさすがにいらっと来るな。


「私も彼女も今までできるだけ修練を積んできたつもりです。それを遊びなどと言われるのは聞き捨てなりませんね」

「ふん。そんな女の子とやってる剣術なんてたかが知れてるね。どうせへなちょこなんだろ?」

「確かに私は剣術だけでいうと彼女に劣っていますが、あなたよりは強いと思いますよ?」

「なに? 俺より上だとでも言いたいのかよ。そんなひょろい体で何ができんだよ」

「何ができるのか試してみるかガキンチョ」

「あぁ!? いいぜ! やってやろうじゃねぇか! ただ俺が勝ったらここから出て行けよ!」

「じゃあこっちが勝ったらもう文句言うんじゃねぇぞガキンチョ」

「だまれガキンチョ!」

「よし決まりだ! 立会人は俺がやるぜ! おいエルダ、ほかの連中に言って真ん中開けてもらえ!」


 やっちまった。

 勢いに任せて決闘みたいになってしまった。いや、みたいじゃなくてまじもんか。

 ひげもじゃさんは腹筋お姉さん、エルダというらしいが、その人に修練場の真ん中を開けるようにとか中の奴らにも伝えてこいとか言ってるし。

 

「カレン様…」

「大丈夫大丈夫。バシッと勝ってくるよ」


 もう引き下がれない感じだし、ここはいっちょバシッと勝ってセリシアにいいところ見せようかね。


 修練場の真ん中で毬栗と並んで向かい合う。周りをぐるりと観客が囲み、軽く野次を飛ばしながら見ている。

 

「えぇでは決闘のルールを説明する」

 

 ルールは、獲物は好きなものでよい、勝敗は相手に剣を突き付け降参と言わせるまで。魔法は無属性なら使用可能、他の何かを出したりする魔法は全部NGだ。そして、勝った方は相手の要求を呑むこと。


「では両者構え」


 お互いの獲物を好きなように構える。

 私はさっき使っていた片刃の木剣を正眼に構え、毬栗は右手に片手剣と左手にバックラーを構えた。

 盾持ちか、マリアとの打ち合いでの経験が役に立ちそうだな。


「では………はじめっ!!」


 開始の合図があり、わっと観客が沸く。

 とりあえず相手の出方を見てみようとどこから責められてもいいように集中する。

 だが毬栗は来ない。盾で弾いてからのカウンターを狙っているのかもしれない。

 こっちから打ち込むのは悪手かもしれないが待ってても来そうにないしな。試しに一回打ち込んでみるか。

 魔法で強化もせずに軽く上段から打ち込んでみる。

 すると私の打ち込みに合わせてぐっと盾が出てきて、剣が当たる瞬間に横に流された。そして間髪入れずに盾を押し出すように私の方に突っ込んでくる。

 すぐさま体制を立て直してバックステップし、そこからくる打ち込みを避ける。

 ある程度動きの予測はついていたがやっぱり盾持ちはめんどくさいな。

 マリアはこの受け流してから接近するまでの動作がかなり速く、気が付いたら盾ごとタックルされて体制を崩され終わる。しかも決めに行った打ち込みだけ捌いてくる。フェイントにも軽い打ち込みにも引っかからないというのは経験でわかるのだろうか。

 その点毬栗は私が剣を少し動かすだけで盾がぴくぴく動いている。過剰に反応しすぎじゃないか。

 ふむ。

 私が少し考える間動きを止めていると、怖気づいたのか? と毬栗が挑発してくる。


「さっきのが全力だろう? やっぱりへなちょこ剣だったな」


 すごいにやにやしながら挑発してくる。

 大人げないが全力でいかせてもらおう。


「すこし本気を出そう。後悔するなよ」


 集中する。

 無属性魔法を軽く全身にかける。

 向こうも雰囲気が変わったのが分かったのか、盾を構えなおしている。

 私はじわりじわりと近づき、あと二、三歩で届く間合いまで来たところでいったん足を止めた。

 相手の警戒度が上がり私のどんな動きでも見逃すまいと目をぎらつかせながらこちらを観察している。

 少し間をおいて、私は上体だけをゆっくりゆっくり前に倒していく。

 ゆっくり、ゆっくり。

 そのまま上体が倒れるのに引っ張られるようにしながら後ろの足を前に持ってくる。

 できるだけ方は動かさずに、心をぶらせずに、動きの起こりを分かりにくく。

 そしてすっと剣を上にあげて左斜め上から振り下ろす。

 相手から見たら気が付いた時には間合いに入っていてすでに切りかかる段階になっている。という状態に見えているはずだ。たぶん。

 毬栗ははっとしてすぐさま盾を上にずらして受け流そうとする。

 ここだ。

 私はそのまま剣を立てた状態で、盾にかすらせながらしゃがみこんだ。相手は盾を斜め上、私から見た左斜め上、つまり相手の剣の持ち手の方へ寄せているので剣での反応も盾での反応も間に合わないはず。

 が、予想以上に反応が速く盾を戻すのと同時にそのまま盾のふちで殴り掛かってきた。

 私はとっさに無属性を強化して切り上げつつある剣の柄頭で思いっきり弾きかえした。

 その一撃は相手の盾を半分砕きながら左手が伸びきるほどの威力だった。私の剣の柄もばきりと盾にひびが入る。

 そして完璧にがら空きになった相手の脇腹に剣をあて、止めた。


「………くそ、降参、だ」

「勝負あり! 勝者は黒髪の坊主!」


 瞬間修練場がわっと沸く。

 っておいおっさんも私を坊主って思ってるのかよ。今度からスカートも履いてみるべきか。

 少しもやもやを残しつつも、駆け寄って抱きついてきたセリシアの事ですべてどこかへ消え去ったが。

 周りからひゅーと野次が飛ぶ。私はセリシアを左腕でだいたままぐっと右手を突き上げた。

 完全勝利!

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