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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第一章 幼年期編
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観光?

「そうだな…完成まで四日、五日はかかるな」

「え、そんなにかるんですか?」

「おいおい、これでもそこらの奴らよりはかなり早い方だぜ? それにカレン嬢ちゃんのは実際やってみないと五日以上かかるかもしれねぇ」


 剣を打つのに二、三日位かと思ってたけどそんなにかかるものなのか。

 後ろに立っているゴルドール達を見ても驚いていないからこれが普通なのだろう。

 ゲームだと素材とお金を渡したら長くてもちょっとしたムービーを見たら出来てるんだけどなぁ。


「泊まってる宿は眠れる戦乙女だったか? できたら知らせに行くからその間ゆっくり観光でもしていきな」



~~~


 

 ハルトの工房を出た後、ゴルドール達は宿に戻るといって帰ってしまった。

 こんな可愛い美少女二人を初めての街に投げ出すとは何たることか!! と別れ際に訴えてみたが、お前ら二人ならちゃんと宿に帰れるだろうし、ここらのごろつきじゃ相手にもならんだろうからな、とのことだった。

 信頼されてるんだかどうだか。

 私は後ろできょろきょろしているセリシアの手をとって歩き出した。


 歩きながら話し合った結果、二人で屋台を回りながら船を見に行ってみようということになった。

 とりあえず中心の一番通りに出てから、入ってきた門とは逆の方向へ向かって歩く。

 早速香ってきた屋台の匂いをたどりながら、ふらふらと食べ歩いていく。

 両手に1本ずつ肉の串焼きやいか焼きみたいなものを持ってかじりながら進んでいく。

 セリシアはいか焼きぽい奴じゃなく、魚の切り身をナンのような生地で巻いたものをニコニコしながら頬張っていた。

 私の視線に気がつき、魚巻き? を私の方につきだして、食べていいよ! と笑顔を向けるセリシア。

 天使か。いや女神、いやそれより神々しい何か、言葉では言い表せない光を放っておられる…

 セリシアの笑顔に魅せられて固まっていると、半開きになっていた口にずぼっと魚巻きが突っ込まれた。

 うんセリシア、なかなか魚も美味しいね! ただ次やるときは優しくね? と言うと、うん! と元気よく返事を返された。

 わかってるのかなぁ、まぁかわいいからいいか。

 かわいいは正義。断固異論は認めない。


 二人のおなかがいい感じに満たされ、匂いにつられなくなってきたころ、唐突に道が開けた場所に出た。


「カレン様、カレン様! あれなに!? すごい大きい!!」

「たぶんあれがマリアが言っていた船だと思う。もう少し近くに行ってみようか」


 人ごみの頭越しにマストらしき物がちらちら見える。

 それを指差しながら私の手をグイグイとセリシアが引っ張って早く行こうと急かしてくる。

 ニコニコと笑顔ですごいすごいとはしゃぐセリシアを見てほっこりしながら人ごみを二人で掻き分けて行った。


 船着場に着いた私達は、この街に着いたときのように口を半開きにして固まってしまった。

 そこにはすごく大きな河と大きな船が船体をゆったりと揺らしていた。

 そしてそこからおろされた荷物を運ぶ多くの人たち。


「すごいな、こんな大きな船で運ぶのか」


 隣ではセリシアが今だに口を半開きにして固まっていた。


「お? 譲ちゃん達、船を見るのは初めてかい?」

 

 後ろから声をかけられて振り返ると、そこには少し白髪の混じった短髪のおじさんが立っていた。

 

「はい、すごく大きな船ですね。物資を運んでくるとは聞いていましたがこれほど大きな船で運んでくるとは思いませんでした」

「あ? こりゃちげぇよ。普段はもっと小せぇ船で運ぶんだ。これはどっかの商人だか貴族だかがドワーフに注文したのに一緒に載せてもらったんだろうぜ」


 ん? どういうことだ?


「普段からこんなに大きな船で、しかも帆も付けてる船をどうやって上流まで運ぶんだよ。普段はもう少し小型の船を分解して上流に運んで、その後組みなおして下ってくるんだ。大体河を下るのに風なんか受けなくてもいいだろうが」

 

 あ、確かに。

 

「で、上流にはドワーフが住んでるからそいつらにどっかの金持ちが特注したんだろうよ。あいつらが造る船は無骨だが質はかなりいいから長持ちするんだよ。そのぶんクソみたいに金を取ってくがな」


 ドワーフって金属加工とかしかできないイメージだったけどこっちだと器用な何でも職人みたいな感じなのかな。


「ひとつ賢くなったな譲ちゃん。はっはっはっ!!」


 そういって知らないおじさんは私の頭と未だ船を見続けているセリシアの頭をぐりぐりとなでて人ごみにまぎれて見えなくなってしまった。


 しばらく船を遠目から眺めていたのだが、もっと近くで見ようと船着場をうろうろしてたら水夫の人達に邪魔だと言われたのでその場を後にした。


「そろそろお昼だし、宿に帰ろうか」


 そう言って名残惜しそうにしているセリシアの手を引いて元来た道を帰ろうとしたとき、視界の端に気になるものが映った。


 ~冒険者ギルド~


 なんてそのまんまの名前なんだ。

 私は少し汚れたその看板を見て進路を変更した。

 頭の中では宿に帰るという選択肢はすでに跡形もなく消えていた。




 まるで西部劇に出てくるような両開きのドアを押し開け堂々と入店する。

 集まる視線、静まる店内、腕に押し付けられる震えたセリシアの胸。

 二人の板張りの上を歩く足音だけが響く。

 入ってきた黒髪の美女は、正面のカウンターにあるガタついた椅子に腰掛け、店員に静かにこう告げた。


「すいません、初めての利用なんですが、ギルド登録ってできますかね?」


 

~~~



「いやぁ笑わせてもらったわ。まさかあそこまで堂々と入ってきてあのセリフって、もう完全に狙ってるとしか思えなかったわよ」


 さっきのセリフを言った瞬間、店内が爆笑に包まれた。

 

「やめてください恥ずかしい!」


 私は赤い顔を隠すように大きなジョッキをぐっとあおった。

 もちろん中身はノンアルコールオレンジジュースだ。


「黒髪ってだけでも珍しいのにセリシアちゃんも一緒だからなおさら…ねぇ? 皆いったいこいつら何者だって思うわよ」


 店内はすでに普段どおりの喧騒に包まれている。

 まぁはじめてきたわけだから普段とか知らないけども、たぶん今の感じが普段どおり。きっと。

 今はカウンターの端でセリシアとジュースを飲みながら受付譲のカウターさんと話している。


「でもごめんなさいね。ギルド登録できるのは特別な許可がない限り成人した人じゃないとできないのよ」


 一時の感情に流されて行動した結果がこれだよ!

 冒険者ギルドって響きに抗えなかったんです。

 だってゲームとか漫画だとここは登録するところでしょ!

 

「いえ、また成人してから来ます…」


 しょんぼりしている私をかわいそうに見るカウターさん。

 同情するなら登録してくれ! 同情するなら登録してくれ! と、どこかで聞いたことがあるようなセリフが頭の中に浮かんでくる。

 ただの照れ隠しなんだけども。

 だっていきなり笑われて登録もできずにジュースを飲んで帰るとかどうなの。


「もしよかったら裏にある修練場でも見ていく? ギルドに登録してなくても手続きしたらだれでも使えるから」


 修練場!! 是非とも見てみたい!!

 今まで村でゴルドールやアーレ達に教わり、相手はセリシア時々マリアとしかやってこなかったからどんなものなのかすごく見てみたい。

 横で聞いていたセリシアも興味があるようで、暇そうにしていた尻尾がすっと立っている。

 カウターさんにお願いしてすぐに手続き用の書類を出してもらい、注意事項等を読んで最後にサインをする。

 注意事項は、利用者同士のトラブルにはギルドは関与しないとか前世でもよくあるお決まりのものだった。

 二人とも書き終わり、カウターさんに渡すと、その年で読み書きもできるなんて、と驚いていた。


 カウンターの左側にある階段の横、カウンターと階段に挟まれるようにして小さな扉があり、そこが修練場へのドアだった。

 なんでも先先代のギルドマスターが、ギルドの裏の土地が空いたときすぐに買い取り、そこを修練場にしたらしい。

 後付けでドアと通路をつけたため、少しサイズが小さなものになってしまったとか。

 確かに天井が低いし幅も狭い、途中元々ある梁が天井を横切っていてカウターさんは微妙に屈んで避けていた。

 狭いが短い通路を抜けると少し錆びた鉄製の扉があった。


「木剣とかは端の方にあるのを適当に使っていいわよ。後は他の人たちの邪魔はしちゃダメよ?」


 カウターさんはそう言ってバチンとウィンクをして、扉をゆっくりと押し開けた。



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