お酒
昼食を食べ終えて、早速出かける準備をする。
と言っても荷物を少し整理するくらいだけど。
食器はまとめて厨房に戻さなきゃいけないらしい。
マリアとゴルドールが食器を持って、私が部屋の鍵を閉める。
階段でマリアがこけそうになり、セリシアが支えなければえらい事になっていた。
ドジっ娘属性に食器など割れ物を持たせてはいけないな。
カウンターの横にある返却口に食器を置いて、エルノラに出かける旨を伝えて宿から出た。
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あいつは酒が好き、ということで私たちは南の三番通りの酒屋でお酒を買っていった。
この世界の酒はウィスキーのようなものが多く、ビールしか飲まなかった私にはちょっとつらい。
どっちみち今の年齢では飲めないのだが。
ゴルドールを先頭に、どんどん通りを抜けて行く。
奥に進むにつれて薄暗く湿っぽくなっていく。
ちらほらといるこの通りの住人らしき人たちの目つきも怪しくなってきた。
よそ者に対して出て行けと言わんばかりに睨みつけてくる。
怖すぎる。
できるだけ下を向いて、目を合わせないようにゴルドールに着いて行った。
もう少しだと言うゴルドール。
しばらく歩いていくと、一軒の小さな、といっても周りの家よりは少し大きめだが、工房のようなものが見えてきた。
煙突からは黙々と煙が出ている。
「あそこだ、懐かしいなぁ」
にこやかに歩を進めるゴルドール。
その工房らしき建物は、全体的に薄汚れていて、窓が割れているところもある。
大丈夫なのだろうか。
そんな私の心配をよそにゴルドールはその工房のドアをノックした。
しばらくしてドアが開き、中から男が出てくる。
「……あぁ? なんだゴルドールじゃねぇか! いきなりどうしたよ!」
「久しぶりだなハルトよ! 元気してたか、今日は酒を買ってきたぞ」
ゴルドールが持ち上げたそれを見て、ハルトと呼ばれた男はニヤリと笑いありがとよ、と礼を言った。
い、いやいやいや怖すぎでしょうこの人!
ゴルドールはにこやかに会話しているが、私とセリシアは固まっていた。
ハルトは大きめの眼帯を着けていて、右目と顔の右側のほとんどが隠れている。
見える左目の目つきは鋭く、笑っても全く笑っている風には見えない。
唯一笑っているとわかるのは、ニヤリとする口元だけだ。
だがその笑った口元も怖さを助長させている一つになっている。
髪は灰色で肩まで伸びていてぼさぼさ、全く手入れされてないのがわかる。
垂れた前髪をばさっとかき上げる動きにセリシアがびくっと肩を震わせる。
スプラッター映画でこの人が出てきても違和感が無いレベルだ。
これなら鉢巻した頑固職人おやじのほうが数倍ましだ。
もうこれ別の人に頼んだほうがいいんじゃないかな? いやいいよね? そうしようよ?
「……で、久しぶりに来たのはただ酒を飲みに来たわけじゃなさそうだな」
「あぁ、実はちょっと作ってほしいものがあってな」
ほぉ……と言って腕を組み、こちらを鋭い目つきで睨んでくる。
いや、本人的には睨んでないのかもしれないけど。
セリシアの尻尾がプルプル震えている。
「それはこの坊主と猫のお嬢さんに関係あるものか?」
「坊主……? っクックク……あ、あぁそうだ。あぁ紹介がまだだったな。この子達は私の子供だ。ほら、お前達」
あ?
坊主?
誰がよ!
中性的だけど坊主って始めて言われたぞ!
「お初にお目にかかります。アリールのゴルドール・アウドの娘、カーレント・アウドと言うものです」
私に続いてセリシアも自己紹介する。
相変わらず尻尾はプルプルしているが。
「……ん? あ? 坊主じゃねぇのか? あぁ、いやすまなかった、きりっとした面してっからてっきり男だと……しかし猫のお嬢ちゃんもこいつの子なのか? 嫁さんはエルフだって聞いたが」
「カレンは俺に似てなかなかの美男子面だからな。セリシアはちょっとあってな。いやぁあのときのカレンには驚かされたよ。あ、後妻のアーレはハーフエルフだよ」
美男子面って……
美少女ではないのに少し引っ掛かるが、自分でもそう思っている部分もあるので黙っておく。
とりあえず外で話すのもなんだから、というハルトに促されびびりながらも建物の中に入った。
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「そうか……猫のお嬢ちゃん、辛かっただろうなぁ、ううっ……」
私とセリシアはさっきとは違う意味で固まっていた。
ゴルドールがセリシアがうちに来た時の事を語ろうとしたところ、マリアが語りならお任せを! と言って語り役を買って出たのだ。
ハルトもマリアの語りの上手さを知っているのか、是非という事でマリアが語りだしたのだが……
「うっぐぅ……よがったなぁ、こんな暖がい家族ができてよぉ……カレンお嬢ちゃんも、ようやった! この年でそこまで言えるたぁたいしたもんだ!」
強いお酒が入っているとはいえまさかここまで感動して涙するとは思わなかった。
顔を涙でぐしゃぐしゃにして私達二人の肩をバンバンたたきながらよがったよがったと泣いている。
「すごいだろう? しかも二人とも魔法も剣も上手くてな! 頭もいいし読み書きだってできるんだぞぅ」
ゴルドールはそれを見ながら赤い顔をして娘自慢を始めている。
「そうそう、この前は二人だけで魔物を仕留めたんですよ! 二人だけで魔物をしとめたんですよ!」
マリアはこの前の吟遊詩人はどこへ行ったのか、酔っ払い二人と一緒にこの前は凄かったと魔物とやりあったときの事を語りだした。
私とセリシアは三人の酔っ払いに絡まれながら、ただただ昼間から始まったこの宴が終わるのを待ったのだった……
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「そうか、なるほどな。確かに自衛のために女子供でも武器を持っていたほうがいいわな」
まだ少し顔が赤いが、ハルトはだいぶ酔いの醒めた顔でうんうんと頷く。
「そうだろ? 最近は魔物の活動も活発になってきているし、ずっと村にいるわけじゃな……うっ」
昼間からの宴が終わって、冷たい夜風が三人の酔いを醒まし、やっと目的の武器を作る話をし始めた。
説明しているゴルドールは、便所と少し埃っぽい客間を往復しながらだが。
ついでにマリアは一人酔いを醒ますために外で風に当たっている。
死にそうな声で風に当たってきます、とぼそっと言って出て行ったが大丈夫だろうか。
「で、どんな武器を作って欲しいんだ?」
便所に駆け込むゴルドールを目で見送った後、私達の方へ向き直りハルトが問いかけてくる。
私は自分の欲しい武器を伝える。
鉄の筒、を作って欲しいと。
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どういうものかなど細かい事は明日、という事になった。
まぁこれだけ飲んで騒いだらまともに金槌など振れないだろうな。
ふらつくゴルドールを私とセリシアで支えながら宿に帰った。
マリアはお嬢様達にこのようなことをさせてしまい申し訳ありませんなど言っていたが、吐きそうになったのか一度口を閉じた後ふらふらと後ろをついてくるだけになった。
グロッキーな二人を連れて三階に上がるのはつらかったが、幸いまだエルノラが起きていたので何とかなった。
後がつらいから今度からお酒をあんまり飲まさないよう注意しよう……
二人をベッドに寝かした後、私とセリシアも倒れこむように同じベッドに横になった。
明日は大丈夫だろうか、心配だ……
短めですが、区切りがいいので一旦ここまでで。
べ、別に忙しくてなかなか進まないから短めってわけじゃないんだかr(ry