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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第一章 幼年期編
16/39

グルーブと宿

 馬車を降りて大きな門の脇で槍を持った兵士にゴルドールが何かを渡して見せる。

 二三言葉を交わしてゴルドールが戻ってくる。


「よし二人とも降りろ、街には歩いてはいるんだ」

 

 私とセリシアは荷台から降りて門を見上げながら街へと入った。



~~~

 

 

 街に入るとその光景に私とセリシアは足を止めた。

 

 道は敷石で舗装されていて広く、整った町並みはテレビや写真で見たことのあるヨーロッパの建物を思わせる造りだった。

 灰色の石造りの建物が多いのだが、壁にカラフルな看板や布が掛けられたりして、それがいいアクセントになり暗く感じない。

 その建物が並ぶ華やかな大きな通りを行きかう人々。

 皆笑顔で活気にあふれている。


「お父様、すごいですね……今日はお祭りでもあるのですか?」

「今日は何も無いよ。人の多さに驚いたかい? これがこの街の日常の風景だよ。なんたってここはこの国でも三番目に大きい街だからな」

  

 三番目でこれなら一番大きい街はどれほどなのだろうか。

 私とセリシアは口を開けたまま大通りを見ていた。

 

「はいはいお二人とも、邪魔になりますから宿に移動しますよ」


 マリアに促されはぐれないようについて行く。


「あれ、お父様は?」

「ゴルドール様は馬車を停めに行っています。あとから宿にいらっしゃるので大丈夫ですよ」


 そうだよな、こんな人通りが多いところ馬車じゃ通れないよな。

 それにしてもほんと人が多い。

 ふとしたらはぐれてしまいそうだ。

  

 と思ってるそばからセリシアがふらふらとはぐれそうになっていた。

 私はセリシアの手をつかんで引き寄せる。


「セリシア、気をつけないと迷子になるよ」

「ごめんなさい。でも凄くいいにおいがして……」


 セリシアが見つめる先には肉を串焼きにしている店があった。

 付けているタレの匂いなのか、すごくお腹かにくるいい匂いがする。

 人より敏感な獣人の鼻には刺激が強すぎるかもしれないな。

 私はまた後で行こうとセリシアをなだめてマリアの元に戻った。  


「ここは一番通りと言って、この街を西から東にまっすぐ抜けているんですよ」


 マリアが言うにはこの通りに大体のお店が集まっているようだ。

 それでこんなに賑わってるのか。


「で、私達の泊まる宿はこれから左、北側にに入って三本目の北の4番通りですね」

「この通りじゃないんですか?」

「ここでもいいのですが、結構な値段と人の出入りが激しいのでゆっくりできないのですよ」


 なるほどね、たしかにゆっくりはできないかも。

 私たちはマリアに案内されながら通りを抜けていった。


 一つ抜けるたびに人が少なくなっていく。

 一番通りから裏の通りに入ると、ちらほらと小さいお店が並び、さらに入ると住宅が主になっていた。

 一番通りに比べるとかなり静かな印象を受ける。


「この街は一番通りが一番賑わっているのですか?」

「一番通りの終わりには大きな川があり橋が架かっているのですが、その川沿いもかなり賑わっていますよ。上流から船で金属製品が運ばれてくるのですよ」


 マリアが言うにはこの街はセレナ川という大きな川沿いにあって、上流には鍛冶を主な産業にしている街があり、さらにその上流にはガイウス山脈という大きな山脈があり、そこで取れた鉱石を船で運び、加工してまた船で運びこの街で売られるそうだ。

 

「この街ではそれを取引する商人が集まるので、自然と人が増え街も大きくなりハイランド王国でも三番目の大きさになったんですよ」

 

 交易都市ってやつかな。

 後で色々お店や売り物を見に行ってみようか。

 

 それにしても、マリア結構物知りなんだな。

 吟遊詩人もできるし料理もできるし多才だし。 

 いままでただのドジっこメイドとしか見てなくてごめんよ。


「今回カレン様の鉄の筒を作ってくれる方はゴルドール様の旧友で上流にある鍛冶屋の街、ゼルメルで修行した職人さんなので、ばっちりいい物を作ってくれると思いますよ」


 それなら期待できそうだな。

 でもお金とか結構かかるんじゃないだろうか。

 なんか急に怖くなってきたぞ。


「マリア、それって結構な金額になるんじゃないですか? もしそうならもっと安く作る鍛冶屋に頼んでもいいのでは」

 

 マリアは私の言った事を聞いてわははと笑い、

 

「大丈夫ですよ、カレン様が仕留めた魔物がいたでしょう? あの魔物の頭が綺麗に残ってたんで、その牙とか魔石とかを報酬で渡すので、逆にお釣りがくるかもしれないくらいですよ」


 と言った。

 おいおい初耳だよ、牙とか売れるんだな。

 あ、前に毛皮とか売れる奴があるって言ってたか。

 私が使った魔法で体はミンチって聞いたから、あの魔物の毛皮は使えなかっただろうな。

 上手くいけばかなりのお金になったかもしれない。

 

 まぁあの時そんな余裕は無かったわけだけど。


「もう少しで着きますよ」


 マリアの案内で着いた宿は、小奇麗でおしゃれな感じの宿だった。

 

 三階建てで一階部分の壁はここにくるまでによく見た灰色の石作りなのだが、二階と三階の壁は木でできていて薄いオレンジ色に塗られていた。

 四角い窓枠などに使われている白い色がいい感じにマッチしている。

 入り口は少し高くなっており、小さな階段があるのだが、その階段についている細めの手すりの端はくるりと巻いていてかわいらしさを感じる。

 上の階と同じ色で塗られた入り口のドアの上にある看板には「眠れる戦乙女の宿」と書かれていた。


「こんにちはー」


 ドアを開け宿に入る。

 ドアに付けられている鈴がチリンチリンと鳴った。


「いらっしゃいませー。あれ、マリアじゃないか! 久しぶりだねぇ、元気にしてたかい?」

「元気にしてますよ、雇い主のゴルドール様にはよくしてもらってますからね。エルノラさんもお変わり無いようで。デルトさんは調理中ですか?」

「いんや、今食材を買いに行ってるよ。それにしても今日はどうしたんだい? 二人もかわいいお嬢さん達を連れてきて」


 エルノラと呼ばれた女性は私とセリシアを見て言った。

 

「はじめまして、私はアリールのゴルドール・アウドの娘、カーレント・アウドという者です」


 私は挨拶をし胸に手を当てて会釈した。

 セーラに習った基本的な挨拶の形だ。


「わ、私は、セリシア・アウド、です」


 少し詰まりながら、ぎこちなく会釈するセリシア。

 村ではそう思わなかったがけっこうあがり症なのかもしれない。

 まぁ村は人口が少ないから皆顔馴染みみたいなもんだったしな。

 

 セリシアが会釈し頭を下げる。

 その時エルノラの表情が一瞬変わったような気がした。

 ニコニコした笑顔ではなく、いぶかしむ様な目つき。

 

 だが、私があれ? と思っているときにはすでにニコニコした顔に戻っていた。

 気のせいかな。


「まぁまぁ礼儀正しい子達だこと。はじめまして、眠れる戦乙女の宿を営んでいるエルノラ・マースと申します。どうぞご贔屓に」


 さすが女将さん、礼の仕方が凄く綺麗だ。


「今日はゴルドール様とカレン様、セリシア様とここに泊まろうと思いまして」

「そうなのかい! ちょうど一番いい部屋が空いてるよ。三階だけどいいかい?」

「あぁいいですよ普通の部屋で、いい部屋って結構な値段だったでしょう?」

「何気にしてるんだい。久しぶりに泊まっていくんだ、普通の部屋の値段でいいよ」


 マリアが遠慮するのを笑い飛ばしながら案内するよとずんずん階段を上がっていく。

 女将さんなかなか豪快な人だな。

 セリシアと私は、諦めた顔のマリアと一緒に女将さんの後について階段を上がっていった。


 案内された部屋三階にある部屋だった。

 たぶん三階丸まる使っているのだろう、建物の大きさや奥行きから見てもそうとしか思えない広さだった。

 まぁ四人で泊まるから広くないとな、もしかしたら四人で一緒に泊まれるのはこの部屋しかなかったのかもしれない。

 エルノラから鍵を受け取って部屋に入る。


「昼食は食べた? まだなら作るけど、どうする?」

「まだ食べてないですね、もう少ししたらゴルドール様がいらっしゃるはずなので、その後いただこうと思うんですけど」

「そうかい。ならそのゴルドールさんが着いたら運んでくるよ」


 マリアの礼の言葉に笑顔で、ではごゆっくり、と返して下に下りていった。

 

 私たちは部屋の隅に荷物をまとめて置いて、五つ並べられているベッドに腰掛けた。

 セリシアは私の横にちょこんと座った。

 

「この後の予定は、ゴルドール様が着たら昼食を食べて鍛冶屋に行きます。その後は特に予定は無いので、街でも見て回りましょうか」


 鍛冶屋に行ってから自由行動か。

 それならぜひとも最初に見た屋台などを食べ歩きたい。

 セリシアにも後で行こうって言ったしね。


 その時部屋にコンコン、とノックの音が響いた。

 マリアがどうぞーと答えると、ゴルドールが部屋に入ってきた。


「遅くなってすまない、馬車を任せた御者が危なっかしくてな。それにしてもこの宿はちょっと可愛らしすぎやしないか? 少し入るのが恥ずかしかったぞ」

「ここは元々女性冒険者向けの宿でしたからね。最近は男女隔たり無く泊めているみたいですけど」


 それを聞いてなるほどな、とゴルドールは部屋を見渡した。

 同じように見渡してみると、確かにカーテンやベッドのシーツの柄などすこし乙女チックな色合いである。

 

「ここの主人とは知り合いですし、一番通り沿いよりは落ち着いて泊まれると思いまして」

「まぁ確かになぁ」


 納得して同じように隅に荷物を置く。

 ほどなくしてまたコンコン、とノックの音が聞こえた。


「昼食をお持ちいたしました」


 エルノラが料理を持ってきてくれたみたいだ。

 マリアがドアを開け、エルノラを招き入れる。

 部屋の真ん中にある大きめのテーブルに、パンと野菜のスープとローストビーフのような物が並べられていく。

 私たちはその料理に舌鼓を打ちつつ、これからいく鍛冶屋の話を聞いた。


 鍛冶屋は一番通りを挟んで反対側の南の十番通りにあるらしい。

 腕もよく陽気なのだが、気に入った人にしか武器を作らないのであまり繁盛して無いらしい。

 酒が好きなので、そこへ行く途中に酒屋でお酒を買っていくらしい。


 これはもしかして、俺が言ったものを取ってきたら認めてやるとか、そういうイベント的な事が起こるんじゃないだろうか。

 腕がよくて変わり者の鍛冶職人が出るゲームだとだいたいお決まりのパターンなんだが。

 でもゴルドールの旧友とマリアは言っていたし、大丈夫かな。

 もし無理難題を言われたら他の加治屋さんに頼むように言おう。

 

 会う前から強面のねじり鉢巻をした職人姿を想像して、私は一人心配になるのだった。

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