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百合な彼女の転生後(仮)  作者: バルメ・メリーゲート
第一章 幼年期編
15/39

街へ

「カレン様。カレン様! 朝だよ! もう起きないと!」


 体をゆすられて目が覚める。

 まだ頭がぼぉっとする。

 ベッドの横でセリシアが早く早くとせかしてくる。


「おはようセリシア。今日は早いね、どうしたの?」

「早いね、じゃなくて! 早く準備しないと出発の時間に遅れちゃう!」


 ん? 出発?

 こんな朝早くから?




 あ


 私は思い出してすぐベッドから跳ね起きた。

 そうだ、今日は隣の街に行くのだった!

 

「えぇっとまず服を着替えて、いやその前に顔を洗って、いやいややっぱり服を」

「カ、カレン様落ち着いて! あっ! それ私のズボン!」


 なんかお尻がすーすーすると思ったらセリシアのだったか。

 セリシアのズボンやスカートは尻尾が出る場所に穴があけてあるのだ。

 普通の人がはいたら猥褻なんたらで捕まるな。

 なんて事考えてないで準備しないと。


「カレン様!! 落ち着いて! そ、それ私の……」


 ん? なんだ?

 私は着替え終わって顔を洗って拭いていた所だけど、服じゃないよな?

 セリシアは私が手に持っているものを指差している。


「わ、私の、パンツ!!」


 握り締めたそれを見る。

 なんでタオルと一緒に置いてあったんだ。

 マリアが間違えたのか、いや、それはそれでいい仕事した。


「もう! なんで笑顔なの!」


 顔を真っ赤にしながらパンツを私から取り上げるセリシア。

 怒ったまま部屋に戻り荷物を持ってさっさと一階に下りていってしまった。

 めったに怒らないセリシアが顔真っ赤にして怒っているのはなんだか新鮮だった。


 あ~これは怒らせちゃったかな。

 私はどう謝ろうか考えながら急いで荷物を詰めていった。

 私の顔はにやけていた。



~~~



 隣の街には馬車で行くという。

 はてうちに馬車なんてあったかと思い聞いてみると、村にある貸し馬車を借りたらしい。


 貸し馬車はこの世界ではよくあるものらしく、前払い制で希望の期日まで借りられる。

 だが馬などはかなり高価なため、金額も庶民では払えない額で、期日を過ぎたり馬を殺してしまったりするとさらに高額な金額を払わなければならない。

 この村ではそんなお金を持っているのはうちくらいなので、ほとんどうち専属の貸し馬車になっている。

 でもそんなに遠出しないしゴルドールが一人で出るときは自分の馬があるし儲からないのでは? と聞いてみると、


「馬車の馬は畑仕事に貸し出したりしてるから、馬車を貸す事がなくても収入はあるんだよ」


 とのこと。

 なるほどね。


 ごとごとと揺られながら街道を進んでいく。

 コンクリートで整備などされていないのでゆれるゆれる。

 御者台にはゴルドールとマリアが座っている。

 荷台に私とセリシアだ。

 私達は持ってきたカバンをいす代わりに座っている。

 行儀が悪いとセーラから怒られそうだが、こうでもしないとお尻が痛くてしょうがないのだ。


 この馬車は木製で、長方形のかごのような荷台に幌がついているタイプで、商人キャラバンが使っていたのと比べると一回り小さい。

 まぁ隣町に行くだけだからこのサイズで十分なのだろう。

 

 がたごとがたごと


 村の外はちらほら畑が見え、村から離れていくと林や森が見えたりしたが、それ以外に特に何も無い。

 私とセリシアは村から出た当初ははしゃいでいたが、だんだんと変わらない景色に飽きてきて、いまはただぼぉと幌にある窓のような四角い穴から外を眺めていた。

 セリシアはパンツの事など村の外の景色に比べれば些細な事のようでもう気にしていない、というか既に忘れてるんじゃないかという感じだった。

 正直ほっとした。

 嫌われなくてよかった……


 しばらくそうしていると、ふいに馬車が街道から反れ、脇に止まった。


「そろそろお昼にしますよ~」


 見れば太陽が高く上がっている。

 もうそんな時間か。


 馬にエサをやり、四人で馬車の中で昼食にする。

 セーラがお弁当を作ってくれていた。

 ハンバーガーのようなそれにかぶりつく。

 美味しい。

 冷めていてもパンにしみ込んだ肉汁と野菜がすばらしいハーモニーを……ここまでにしておこう。

 なかなか美味しいお弁当だった。


 少し休んで出発する。

 がたごとがたごと街道を進んでいく。

 グルーブまでは馬車で3日かかるらしいから、後二日は同じような景色を見続けるのか。

 正直すでに心が折れそう。 

 最初はRPGなどで初めて最初の村を出たような興奮があったが、ゲームのように次の街にすぐつくわけじゃない。

 暇なので何か無いかと思っていると、前から歌声が聞こえてきた。


「深い森を越えて~険しい山を越えて~」


 綺麗な歌声。

 自然と聞き入ってしまう。

 

「仲間と共に~加護を共に~」


 冒険者の歌なのかな。

 まるで心を震わせるような、陽気なようで寂しさも感じさせる不思議な歌だった。


「上手いですね。吟遊詩人でも稼げるんじゃないんですか?」

「一時はやってましたよ吟遊詩人。いやぁあの時は大変でした。お金も無く、かといって冒険者としてはもう無理だったから収入も無く、あのバーのマスターにはお世話になったなぁ」


 元冒険者ってのは知ってたけどもう無理だったってことは何かあってやめたのだろうか。


「なんで冒険者を辞めたんですか?」

「まぁ話せばなが~く谷よりふか~いお涙頂戴のお話なんですけど聞きたいですか?」


 お涙頂戴と言ってる割には凄く話したいって顔なのはなぜだろうか。


「あれはですねぇ私が冒険者としてそこそこ安定してきた時でしてね?」

 

 返事も待たずに話し始めたよ。

 まぁやる事もないからいいけど、気になるし。

 私達はマリアの語りに耳を傾けた。



~~~



 夜、馬車を止めて外で火を起こし持ってきた干し肉をあぶる。

 パンと簡単な芋スープを飲みながら、私とセリシアは声を出さずに聞き入る。

 何に聞き入ってるかって? 

 マリアの冒険丹に決まってる。


 マリアの語りは素晴らしく上手かった。

 溜めや盛り上げ方など抜群に上手く、私とセリシアははらはらどきどきしながら御伽噺を読んでもらう子供のように、まぁ子供なのだが、目をキラキラさせて聞き入っていた。


「さて今日はここまでです! もう寝る時間ですよ~」

「そうだな、明日も早いから早く寝なさい」

「えぇ~! もっと聞きたいです!」

「私も! 私も!」


 駄々をこねる私達を見てマリアとゴルドールははじめきょとんとしたが、少しして二人共笑い始めた。


「ははっ! お前達がこんなに駄々をこねるのを見たのは初めてだ!」


 確かにいままでこうやって駄々をこねた事は無いかもしれない。

 怒られる事はあってもアレがほしいとかやだやだとか言った事無いしな。

 セリシアを家族にしたときは無茶言ったけど。

 

「大丈夫ですよ、明日続きをお話しますから」


 絶対ね! と二人してマリアと約束をして馬車に乗り込む。

 馬車の中には寝袋が置いてあった。

 もそもそと寝袋に入って横になる。

 セリシアが横にぴったりくっついてきた。

 いつもセリシアは寝るときは私のほうに尻尾を掛けるというか、乗せて寝ているから近いほうが安心するのだろうか。

 

「セリシア様、明日が楽しみですね」


 笑顔で語り変えてくるセリシア。

 そうだね、楽しみだ。と返事をして、二人明日の続きを楽しみにしながら目を閉じた。



~~~



 朝、目が覚めるとすでに馬車は動いていた。


「あ、カレン様おはよう。はいどうぞ」


 私はセリシアから湿らせたタオルを受け取り顔を拭く。

 なんか最近セリシア朝が早いなぁ。

 にこにこしながら私が顔を拭くのを待つセリシア。

 なんだ? まさかこの前のパンツこと思い出したのかな。

 にこにこしてるけど実は怒ってるのかな……

 もしそうなら早めに謝ったほうがいいかな、そうだ、そうしよう。


「セリシア、あの時はゴメン! 寝ぼけてたとはいえ君に恥ずかしい思いをさせて」


 セリシアはぽかんとした顔をしている。

 あれ? 違った?


「あの時……? っ! もう! 早く忘れて!」

 

 わたわたと赤くした顔を隠すセリシア。

 私の読みは外れたらしい。

 

「あらあら、朝からお盛んですねぇ」


 マリアのよくわからない煽りが聞こえる。

 何がお盛んだ、私とセリシアは健全な付き合いをしているんだ。


「そ、それより続き聞きましょう続き!」


 マリアから朝食を貰って、それをかじりながら続きを聞いた。

 


~~~



 村から出て三日目。

 

 マリアから歌を教わったり、私がしりとりを教えたりして時間をつぶしながら進んでいく。

 

「あ! 見てカレン様! あれ!」


 セリシアが前を指差して叫ぶ。


 そこには見た事もないような大きな門が開かれていた。

 そしてそれに続くように高い壁が延びていた。


「うわぁ、あれってもしかして」

「そうだ、あれがグルーブだよ」


 まるでゲームで見た街のようだ。

 私は年甲斐も無く、といっても体は年相応なのだけども、新しく見る街に興奮していたのだった。


 


 そういえば、マリアがどうして冒険者を辞めたのか聞いてないよね?

 話したくなかったのかな。

 まぁマリアの事だからまた次にでも教えてくれるだろう。


 私はそれを一旦頭の隅に置いておく事にした。

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