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5.力、家族につき


「宛野さんちの隣? ああ、北瀬さん。あんたと同年代の娘がいたわね。絢音ちゃんだったかしら、小学校一緒だったでしょ?」




 母に聞いてみた所衝撃の事実が発覚。全く記憶に残っていないが、同じ小学校だったらしい。

 直ぐさま小学校の卒業アルバムを引っ張り出して確認してみた所、確かに『北瀬絢音』の文字の上に彼女の面影のある顔写真が載っていた。


 子供の頃からあのような話し方だったという事だが、それなら少しは印象に残っていても良さそうなものである。六年間一度も同じクラスにならなかったのだろうか。


「……ま、取りあえず風呂にでも入ろう」


 名前も分かったことだし、小学校の事については明日話のネタにでもすればいい。

 寝間着代わりのジャージを引っ張りだし、風呂場に向かう。



 ……で、脱衣所のドアを空けたら下着姿の妹が髪を拭いていた。



 目が合った。捕食者の如き鋭い視線が突き刺さる。つか、仕方ないじゃん、音しなかったし。鍵閉めろよ。


 無言で体重計を手に取り――少し考えて脱衣籠に変えた。うん、まだ少しは理性的な考えが働くようだ。ならばまだ交渉の余地は、



「Aか。これからの成長に期待しよう」



「死ねぇっ! この変態がァ!」



 あっても潰すのが俺クオリティ。容赦無く頭部を強打されて地面に突っ伏す。

 そこへ更に降り注ぐストンピングの嵐。レフリー! レフリーはどこにいる!


「ははははは、強い子に育ってくれてお兄ちゃんは嬉しいよ。ああ、もっと、もっと痛みをくれっ!」


「こ、この異常性癖者め……!」


 ストンピングは止んだが、今度は首の後ろを踏み付けられて身動きが取れない。つーか軽く命が危なくないかこの状況?


「だが妹よ、これはお前のミスであって俺に非は無いのでは? 鍵だってちゃんと付いてるわけだし、というか兄妹で何を恥じるところがある」


「見られたことについては別にいいわ。ただ、自分の言動を振り返ってみなさい」


 ぐりぐりぐりぐり。うわー超怖い。親父、里沙の育て方間違ったんじゃないですか?



「なに、中学生ならまだ先があるさ。それに最近は貧乳の需要が増大いたいたたたたいっ! ちょっ、鳴った、今首の骨コキッて鳴った!?」


「そう、ボキリと鳴るのも遠くなさそうね」


 うわ、声に温度が感じられないんですけどっ!



「ひ、久し振りのスキンシップでお兄ちゃん嬉しいけどちょっとこれは過激過ぎないかナー、なんて思うんだけどそこんとこどうよ」


「言うべき事を言ったら止めてあげるわよ、別に兄さんに対して恨みや殺意が……うーん、考えてみたらやっぱり」


「調子乗ってマジ済みませんでした。この愚兄めは心より猛省致しますのでどうかその細く美しいお御足をお退け下さいませ」


「まあいいわ。次は無いと思いなさいよ」



 里沙は呆れたようにそう言って、首筋から足を退けた。だが、甘いな里沙。



「は。では詫びの印に私めの裸体を御照覧めされよ。ささっ、いざいざ!」



 まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!


 立ち上がった所ですかさずズボンのボタンを外し、勢いよく引き落とす!

 あ、一緒にパンツも膝までいっちまった。まあいいか。


「ぬわーっ! ズボンを脱ぐなっ! 近寄るな、なんだその手はっ!」


「ハムラビ法典宜しく、目には目を、裸体には裸体を。さあ、兄の肉体をとくと見るがいい!」


「んな夢に出そうなもの見たくもないっ! 鏡の前でポーズでも取ってろっ!」


 服を掴んでどたばたと下着姿で外に出ていく。家族しかいないとはいえそれはそれで思春期の娘の行動として問題があるとお兄ちゃんは思うよ?


「しっかし、いくつになっても可愛いなあ、里沙は」


 彼氏とかいたらそいつと本気で殴り合いとかしてしまいそうだ。里沙が欲しければ俺を越えてみせろ! とか言って。

 実際にやったら彼氏の前に里沙が俺の息の根を止めそうな気もするが。


 そんな妄想をしながらにやにやと笑みを浮かべて風呂場のノブを掴んだところで、



「――雅彦、ちょっと来なさい」


「……いえす、まむ」


 パンツ一丁で正座したまま説教されました。

 ええ、そうですね。俺ももう高校生だし、慎みを持つべきですよね。






*****






「どうだったよ、昨日のライブは」


「良かったぜ!」


「知性の程度がよく分かる返答をありがとう」



 次の日の朝、学校側の駅で偶然会った亮二と自転車に乗りながら会話を交わす。


 駅にはうちの高校の専用駐輪場などというものがあり、多くの生徒がそれを利用している。通学用のバスも出ているのだが、一通や交通制限等で使えるルートが限られているため、最短距離で来る事が出来る自転車と所用時間にあまり差が無いことと、駐輪場の利用代がバスの定期券と比べ大幅に安い事で利用者は半々といったところ。朝は中国の都市部かと突っ込みたくなるような光景が広がることになる。



「いや、もうマジ最高。たまんねーっス。泣けるよホント、マジ泣けた!」


「もういい、分かった、馬鹿が移るからもう黙れ」


 こいつどうやってうちの高校入ったんだろう。裏でなんか工作でもしたんじゃないだろうな。


「やっぱ生はいいよなー。音が身体に当たってくるっつーか、録音にはない迫力があるっつーか。

 あ、色々グッズ買ってきたから後で見せてやるよ。温泉饅頭は流石に無かったけど、欲しいやつがあったらいくつかやってもいいぜ」


「ペナントとか無いか?」


「だから観光じゃねえっつーの! つーかいらねえだろペナントなんか!」



「ほう、ならばそのバンドがもしグッズとしてペナントを出したとしても買わないんだな?」


「うっ! ……か、買うな、多分」


 そんな馬鹿な会話をしているうちに高校に到着。校門からは自転車を押して運ぶことになっているので、並んでカラカラと歩く。


「因みにマサの方はどうよ、昨日はなんかあったか?」


「あー、まあ色々とあったな。そうだ、お前北瀬って知ってるか?」


「北瀬? ああ、あの子か。結構可愛いよな。いや、ありゃ綺麗っつった方がいいのか。話したことはないけども、気になるよなー」


「なんだ、まだ手を出してないのか。亮二の事だからてっきり特攻して玉砕済みかと」


「俺は発情期の猿か。つか玉砕を前提にすんな。可愛い女の子が近くにいるからってすぐ飛び付きゃいいってもんでもねーだろ。

 そういうのは段階踏んでやるもんだ。タイミングを見計らってアプローチしなきゃ成功なんぞするわきゃねーだろ」


「おお、亮二の口から異性交遊についてのまともな意見が……」


「因みに俺の携帯には女の子のメルアドが108人まであるぞ」


「ついさっきの俺の感心を返しやがれ」


「いや、落とせるか分からない一人を相手に粘り強くやるよりは視野を広く持ってだな」


 何を言ったところで所詮亮二は亮二か。こいつも悪人じゃないんだが性格が三枚目だからな。



 所定の場所にとめて鍵をかけ、籠から鞄を取り出そうとした所で、




「あっ! 宮内先輩っ!」




 背後から、声をかけられた。



「ん?」


 部活をやってないので後輩に知り合いはいないはずだが、この場に宮内なんて名前が俺の他にいる可能性の方がよっぽど低いので多分俺のことだろう。何か聞き覚えのある声のような気もしたし、とりあえず振り返ってみる。



 そこには、一年生である事を示す青い腕章を付けたショートカットの女の子がいた。つか、特徴としてはショートカットよりもむしろ、


「おいおい、小学生がなんでこんなとこにいるんだ? 迷子? お母さんは一緒じゃないのか?」


「うわっ、一年振りなのにまたそれですかっ!」



――ところでこいつを見てくれ。こいつをどう思う?


――凄く……小さいです。



「うぅ、覚えていてくれたのは嬉しいですけど、扱いも変わらないんですねぇ……」


 吹けば飛んでしまいそうなその体は流石に一度見たら忘れられん。


「つか、ほんと小さいままだなお前。去年からどんだけ伸びた?」


「い、……2センチです」


「そうか、1センチか。……150センチにはまだまだ遠いな。」


「あと少しですっ! まだ成長期だから大丈夫なんですっ!」


 怒るとぷくっと頬を膨らませる癖もまだ残っているようだ。んなことしてるから子供に見えるんだというに。


「……おい、マサ。この子誰よ?」


 亮二が不可解な目でこちらを見ている。この子呼ばわりしている事と目付きからしてどうやら亮二のストライクゾーンには入っていない模様。


「……意外だ。ロリから熟女まで完璧にカバーしているかと思っていたが」


「いきなり何の話だおい」


「いや、こちらの話。こいつは渡井純。中学んときの後輩だ」


「ふーん。……で?」


 なんだこいつ。


「何だよその、で? ってのは」


「仲よさ気じゃん。なんかあんだろ、他にもさ?」


「部活の後輩だったっつーだけだ。他にやましい事は無い」


 何を勘繰っているのか知らんが、昔特に何かあったわけでも無い。普通の部活内での先輩後輩としての関係しか無かったぞ。


「えー? そうか? それにしちゃーよー、 」


「そういえば先輩、もうフルートはやってないんですか?」


「お前こそ、まだ法螺貝吹いてんのか?」


「法螺貝じゃなくてホルンですっ! なんでそんなもの吹くんですか、調和も何もあったものじゃないですよ!」


「あ、おい、ちょっと?」


「元は角笛だろ? 法螺貝と似たようなもんだろうが」


「なんでそうなりますかっ! 全然違いますって!」


「ははは、そう怒るな。ほら、飴ちゃんあげよう」


「子供扱いするなぁっ!」


「…………」


「あ、飴ないや。酢昆布でいいか?」


「いりませんよっ! ってしかもコレ酢昆布じゃなくてかりかり梅ですし!」


「腹に入れば一緒だろ」


「いやいやいや、全然違いますから! 共通点駄菓子ってだけですし!」


「というかお前朝からうるさいぞ。子供じゃあるまいし、周りの迷惑とか考えろよ恥ずかしい」


「うっわ、そんなときだけ扱い変えますか! 卑劣ですよ先輩!」


「で、どうした亮二。なんか用か?」


「てめぇ分かってやってたんか! どんだけ性根が腐ってやがる!?」


「はっはっは、ほうら、飴ちゃんあげよう」


「これはたこぶえだーー!!」


「先輩先輩! それで先輩はどうなんですか、もう吹奏楽やらないんですか!?」


「そこの亮二でも誘えばどうだ? ふえも準備してやる気十分だぞ」


「たこぶえで吹奏楽部に入れるかー!!」


「おい、そこの三人。ちょっと来なさい」


「「「ハイ」」」




 騒いでいたら生活指導の先生に怒られました。




「自重してくださいよ先輩」


「元はといえば亮二のせいだろ」


「いや、どう考えてもお前しかいないだろうが」


「君達」


「「「ハイ」」」



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