15.電脳遊戯、初級編
ファンタジー(苦笑)部分をばっさりやり、この作品は純粋な学園物となりました。見かけ上は。
作者の厨二ソウルが暴走しない限りはこのままの路線が続くかと思われます。
人付き合いがいいほうかと問われたなら、俺はまあそれなりには、と答えるだろう。自分の予定をキャンセルしてまで人に合わせることもないし、逆にたいした理由もなく面倒だからと断ることもない。
そんなわけで、バイトもない暇な放課後にいつもの野郎四人組で集まって駅前で遊ぼうと誘われたとき、俺は二つ返事で了承する以外の選択肢は思い付かなかった。
授業を終えた他の生徒たちの大半が部活に向かう中、ぱらぱらと自転車置場へと向かう帰宅部の連中に紛れてたらたらと歩いていると、一年の置場のところで自転車を引っ張り出しているちまい人影が見えた。
「純、お前もう帰るのか?」
背後から声をかけると、純は自転車をがたがたと揺らして隙間なく並べられた列から引きずり出そうとする手を止め、こちらへ振り返った。
「あ、先輩! はい、今日は部活も休みですし残ってやることもないので」
「そうか。ところでお前、んな出し方してるとドミノ倒しになりかねんぞ。出してやるからちょいとのけ」
「あ、え」
自転車を挟んで純と逆側に入り込むと、サドルとハンドルを持って持ち上げる。隣の自転車に引っ掛かって最初は強い抵抗があったが、ガコン、という音がした後はスムーズに引き抜けるようになり、そしてそのまま前輪を転がして列の外に出す。
「すみません先輩、助かりました」
「なに、こっちは慣れてるからな」
純は普段吹奏楽の練習で遅くまで残っているだろうし、こうやって密集した所から出すのには慣れていないのだろう。
「あの、ところで」
「なにかね」
「みなさんお揃いのようですが、これからどこか遊びにでもいくんですか?」
「ん? まあな」
背後をちらとみれば、無表情の那佐とにこにことした徹とにやにやとした亮二が並んでいた。亮二、取り敢えずあとで滅す。
「特に何をしようっていうわけでもないんだけど、今日はみんな暇だからさ。駅前でも適当にぶらぶらしようってことになって」
「良かったら純ちゃんも一緒に来ない? 大丈夫、恐くないから……お、おにいちゃんがいーところに連れてってあげグフォッ!!」
「……亮二、冗談にしてももう少しマシな誘い方しとけ」
無言で鳩尾に正拳突きを叩き込むこいつもこいつだが。しかしまあ、随分とパワフルに育ったものだ。うん。
……妹のようにはならなきゃいいが。
*****
ゲーセン、すなわちゲームセンターという単語を聞いて眉をひそめる人はそう少なくもないと思う。
ごちゃごちゃした空間に所狭しと並べられた匡体からは喧しい程に大音量のBGMやSEが垂れ流され、ぎらぎらと目を痛めそうな下品な発色で満たされた画面の前には、一体いつ働いているのか、そもそも職に付いているのかも分からない程にゲームにのめりこんだ、いわゆるゲーマーという人種が多数たむろっており、一種の無法地帯と化した空間の中でその廃人としての格を競いあっている……なんてイメージを持っている人はまあ、今はもう流石にいないだろうが。
それでも、何か不健康な匂いを感じてなんとなく敬遠している人は多いと思う。俺も子供の頃は友達とゲーセンに行かないよう親から強く言われていたものだ。
しかし、今のゲーセンは行ってみれば分かるだろうが、それほど暗いイメージのあるものではない。
店内を満たす大音量のBGMは今も変わらないが、女性向けのUFOキャッチャーやプリクラが増え、またCOM相手の一人黙々とやるようなゲームからネットワーク通信により全国の相手と戦えるクイズゲームやカードゲームなど、バリエーションが色々と増えて来ているのだ。
まあ、それでも未だにゲーマーと呼ばれる人種も存在しているが、一見さんお断りな雰囲気はほぼ一掃されたといっても過言ではあるまい。
というわけで現在、駅前にあるの大手チェーンのゲーセンに来ているわけだが。
「うおおおっ、喰らえ必殺、神速号令ッ!」
「…………」
「フハハハハ! どうだ那佐、手も足も出るまい! そうやって城の中に引きこもったところで落城の運命は……え、うましか?」
「……ぽちっとな」
「ちょっ、おま、擬装単色とかマジ有り得な……ギャー! 俺の騎馬隊が一瞬で消し炭にっ!」
「あーあ、全員城壁に貼付けたりするから……」
うむ、こりゃ落城コースだな。ただし亮二のだが。
バリンバリンと音を立てながら削られていく亮二の城ゲージを眺めつつうんうんと頷いていると、純が横から話しかけてきた。
「先輩、あの人形取ってください」
「空気を読まずいきなり可愛いげのない台詞を吐きやがるな貴様は」
こやつには俺が二人の戦いを観戦しとるのがわからんのか。
「いや、もう終わりじゃないですか」
「終わってない、終わってないよ純ちゃん!? あ、ちょ、ここで雄飛チャージとか……」
終わったな。
「もうちょっとで取れそうなんですけど、なんだかうまく行かないんですよ。それで先輩に見て欲しくって」
「あー、分かったよ。んで、どれのことだ?」
ちょこちょこと早足で歩く純の後ろに付いていくと、その先には小さなウサギのぬいぐるみの並べられたキャッチャーがあった。
「俺もあまり得意ってわけじゃないんだけどなぁ……ま、やってみるかね」
「はいっ、お願いします先輩」
硬貨を入れ、一つだけ向きのずれているウサギを狙う。確かに取れ易そうな配置に見えるが……。
ぴょろろろーという気の抜けた効果音と共にアームが下がり、ウサギを襷掛けに掴む。これは取れたかと思ったが、持ち上げる途中でするりと抜けてしまった。
「む、駄目か」
「毎回思うんですけど、UFOキャッチャーのアームって弱すぎる気がするんですよ。セコいです、クワガタのキャッチのほうがまだ気合が入ってますよ」
「ハートマン軍曹かお前は」
結構な金を既に注ぎ込んでいるのか、純の声にはやや刺が含まれている。つかお前今後ろに店員いたぞ、俺が苦笑いされたし。
「ま、少しは穴に近づいたし、もう何回かやれば取れるんじゃないか?」
「キャッチャーなんて名前を付けるならちゃんと掴めるようにして欲しいです……」
「それは同感だがな、っと」
純の苛立ちが機械に伝わったのか、アームはウサギの腰を捕らえ、ふらふらと危なげに揺れながらもなんとか持ち上げた。
ぱすん、と軽い音を立てて落ちてきたウサギを取り出すと、隣にいるやつにほれ、といいながら手渡す。
「……なんか嬉しいような悔しいような、複雑な気分です」
地道にずらして来たのが最後には普通に持ち上げられたのが気に入らないらしく、言葉通りの表情をしながらぼそりと呟かれた。
「ほう、ならば一つそいつに希少価値を付けてやろうじゃないか」
「? なんですか?」
「そいつは、俺からお前への初めてのプレゼントだ。精々大事にするがいい」
そういうと純は、はっと何かに気付いたような顔をすると、ワンテンポ遅れて慌てだした。
「あ、あああの、先輩っ!?」
「ん? どうかしたか?」
「いえ、そ、そのっ! ありがとうございますっ!」
ぎゅっとウサギを両手で抱き……というよりは締め潰しつつ、純は大袈裟に頭を下げた。
「先祖代々家宝にしますっ!」
「いや、歴史を捏造するな」
一々大袈裟すぎるっつの。