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10.雑談雑議、オンザステーション


 私立城岡高等学校。偏差値ぼちぼち、生徒数それなり、進学先まあまあ。特徴は全国クラスの吹奏楽部。最寄り駅より徒歩15分、専用駐輪場・通学バス有り。

 まあ詰まる所、一点を除けば日本各地にいくらでもある中堅校というわけであり、そしてその一点に関わりの無い俺にとっては普通の高校となんら変わり無い。

 それじゃなんで俺がわざわざそんなところを受けたのかといえば、そりゃまあ近いからだ。エアコンもあるし。動機なんてそんなもんで十分だろ。

 んでもって俺はそんなやる気の無い学生であるから当然部活動などにも所属しておらず、授業が終われば定時で直帰のお気楽生活である。


 というわけで今日も今日とて春の陽気の下チャリを転がし駅への道をひた走る。

 因みに徹は部活で那佐はバス通学、亮二は悪友同士集まって麻雀や格ゲーを持ち込み下校時間ギリギリまでポンチーあそれロン、メンタンピンドラ3。シッショー! なわけで、一緒に仲良く楽しい下校とはいかない。決してハブにされて一人寂しく帰らざるを得ない訳ではないのだ。……誰に言い訳してんだ、俺?


 駐輪場の所定の位置に止めて鍵を掛け、前カゴから鞄を引き抜く。まだ買ってから一年なのだが既に一部が大きく凹み、鞄の容積に僅かに足りないため時折このように軽く嵌まる。

 ぱらぱらと後に続いて駐輪場に入ってくる輩を横目で見つつ、鞄を肩にかけてその隣を抜けていく。と、


「お?」


「やあ」


 ポニーテールを風に(なび)かせる北瀬とすれ違った。

 向かう先は同じだろうということで駐輪場の外、出口の脇でしばらく待っていると、左手に鞄を下げた北瀬がふらりと出て来た。


「お前、部活は?」


「昨日は練習試合だったから今日は休息日だ。というかそっちこそ部活は無いのか?」


 二人並んで駅まで歩く。と言っても1分と掛からず到着する距離だが。


「勉強に専念する為に部活は遠慮させて貰っています」


「今日の数学の授業中、気持ち良さそうに寝ていたのは誰だったかね」


 いやはや、見られてたか。肩をすくめて軽く笑うと、全く、と北瀬は呆れたように話す。


「うちは無能な教師も結構な数いるが、天藤の話は聞いて損はないぞ。あの人の授業はしっかりしている」


「無能というと、小菅とか?」


「あいつは教科書の内容を馬鹿正直にやってるだけだな。一人で辞書を引きながらやってるほうがまだ頭に入る、時間ばかり掛かる役に立たない授業だ」


 なんか随分辛辣な事をずばずば言うな。何か教育に関して思うところでもあるんだろうか。


「とりあえず、北瀬はこのまま帰るのか……ってああ、定期を忘れたんだっけ」


「ん、途中で降りて今日中に取りに行こうと思っている。君は真っ直ぐ帰るのか?」


 俺はそれにぱたぱたと片手を振り、否定を表す。


「いんや。俺も今日はバイトだから、同じ駅で降りることになるな」


「バイトか……どこでしているんだ?」


「そうだな、口で言っても分かりにくいかもしれんが……」


 と、そんな雑談をしながら北瀬は購入した切符、俺は定期を使って改札を抜けて構内で電車を待つ。




「輸入雑貨ねえ……何だか高級そうな感じもするが」


「そんなこともないぞ。女の子向けの小物やアクセサリとか、中には外国産のアホグッズもある」


「アホグッズ? 鼻眼鏡とか馬マスクとかそんな感じか?」


「そうそう。音に反応して立ち上がろうと足を震わせる生まれたてのバンビとか、吸い込むと叫び声がブルース・リーになるガスとか」


「……それは単なるヘリウムガスじゃないか?」


 他様々な海外産パーティーグッズについて熱弁を奮っていると、構内にアナウンスが流れて電車が到着した。


「しかし、それは輸入雑貨という分類に入れて問題無いのか?」


「いやー、でもうちの店ってホント何でも有りな品揃えだし。火星の土地権利書とかあってもおかしくない位のカオスっぷりだからな」


 空気の抜けるような音を立てて開いた扉をくぐり一歩足を車内に踏み入れた所で、目の前右側の席になにか茶色い物を発見。


 派手な私服に身を包んだそれはこちらに向かって満面の笑みを浮かべながら片手をひらひらと振り、そして


「やっほーマサっち、昨日は世話になったわね。……あら、隣の子は誰? もしかして3人目? 若いわねぇ」


 そんな台詞を吐いた。


「んーと、言いたいことは色々ありますが。取りあえず黙りやがれこのニート」


「分かり切った事実を言ったところで何のダメージにもならないわよ?」


 こいつ……自覚しておいて何の引け目も感じてねぇ!?

 とまあアホなやり取りをしていると、隣から声が掛けられた。


「宮内、この女性は? あと3人目とはどういう意味だ」


「取りあえずそこには何の意味も無いと言っておこう。んで、この人は」


 バイト先の同僚、と言おうとしたところで頼子さんが言葉を被せ、


「マサっちの愛人1号、赤岳頼子よん。マサっち、昨日は世話になったわね」


 何故二度言うか。しかもそのタイミングで。

 そして北瀬、何故そんな目で俺を見る。そして一歩引いたのはどういう訳だ。


「……さて」


「北瀬、そいつの言うことを真に受けるな。全部でたらめだぞ」


「まあ、確かに私とマサっちの関係は愛人じゃなくてセフ」


「はいOK分かった黙れ!」


 その先は冗談でも言ってはならん!


「宮内、君が一度に何人の女性に手を出しているのか知らないが、私に近付いたのがそういう目的からだったのなら今後の付き合い方を少し考えさせてもらおう……」


「いや、別に俺は彼女とかそういうのは、 」


「私の時もそうだったわよねぇ。優しい言葉で近付いて来て、少し気を許した所で急に……あの夜のマサっち、激しかった」


 そんな事を言いながら頼子さんはほう、とアンニュイなため息を吐く……っておい!


「勝手に過去と思い出を捏造するんじゃねえ! ええぃ頬に手を置くな、瞳を潤ませるなっ!」


「取りあえず宮内、思春期の性の暴走は男子なら誰にでもあることかもしれない。だが、少しはそれを抑える努力をしてみてはどうだ? 今の君は盛りのついた猿と同じだぞ」


「ああああああ、もうそんなんじゃなくってだなぁ!」


 このまま流れに身を任せていると収拾が付かなくなりそうだ、一気にけりをつける!


「こちら赤岳頼子、バイト先のただの同僚で脳みそピンクの駄目人間! そちら北瀬絢音、高校のクラスメイト! はい今後とも宜しく!」




「いや、想像は付いていたがな。君に複数の女を囲う甲斐性と度胸があるとは思えん」


「だっておwwwwwマサっち涙目プギャーwwwww」




「ちっくしょーー!!」




『閉まるドアにご注意下さい。ドア、閉まりまーす』



ぷしゅー、がたん。


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