『嘘』売ります
――『嘘』売ります。ただいまセール中。
そんな奇妙な看板を掲げた露天商に私が出会ったのは、四月の一日の事だった。
そんな眺めていても疑問の尽きないものに興味を引かれた私は、思い切ってその露天商に声をかけた。
「あのー、すみません」
「いらっしゃい。いろんな嘘がそろっているよ。お前さんはどんな嘘が欲しいんだい?」
「嘘を売るってどういう事ですか? もしかしてお金をあなたに払うと、嘘をつかれて私が騙されるとかそういうことですか?」
「騙すなんてそんな酷い、そのまんまの意味さ。私は嘘を売っているんだよ」
私の中で疑問は大きくなった。まったく意味が分からない。
頭を傾げる私に、露天商は説明してくれた。
「『嘘から出た真』って言葉があるだろ? 意味は当然知っているね」
「嘘や出鱈目で言ったことが、本当の事になってしまう事ですよね」
「そうさね。ただの嘘や出鱈目でも、その中には本当の事が隠されているのかもしれない。
私はね、そんな嘘を売っているんだよ。当たりもあれば、外れもある、そんな嘘っていうものをね」
「つまり、占いやおみくじや宝くじみたいなものだと」
「まあ、そういうことだね。今はセール中だから、かなりお安くしてるよ」
如何わしい事がこの上ない商売だが、聞けば嘘は十個で十円と大した出費でもないし、何より興味が出たので物は試しと、とりあえず十円分で私はお婆さんから嘘を買うことにした。
「どんな嘘がありますか?」
「そんなの沢山あるに決まっているさ。なにせ嘘八百って言われるくらいだからね。何でもそろっているよ」
「何か、おススメってありますか」
「そうだねー。この『宝くじに大当たりする』って嘘がそこそこ人気だね。他にも『散歩をしていたら百円玉を見つける』や『恋人ができる』とかが売れ筋だよ。あ、そうそう『嫌いな上司の全員が自殺する』とか『会社や学校が火事になる』なんて怖い嘘を買うお客さんもいるね」
「えーと、だったら……」
そして私は露天商から嘘を十個、ゆっくり考えながら一つ一つ選んでいった。
一年後。
私は、再びあの嘘を売る露天商に出会った。
「丁度一年ぶりくらいかね、お客さん」
「どうもお久しぶりです」
露天商は私の事を覚えてくれていて、私より先に気づいた露天商が声をかけてくれた。
「あの時、私から買った嘘はどうだった?」
「店主、バーナム効果って言葉を聞いたことがありますか?」
「さーねー。占いとかでよく聞かされるのはで知っているんだけどさっぱりさね」
「簡単に言えば、人は都合のいいことは信じてしまうって事ですよ」
あの日、露天商から買った願いの内、現実的な嘘ならちょっとだけ叶った。
それは道端で小銭を見つけたりだったり、平社員から一つ上に昇進したりだったりと、言ってしまえば誰にでもあり得ることばかりだった。
それも全部当たる訳ではなかったし、『宇宙人に攫われる』なんて非現実的でありえない嘘なら尚更だった。
「ふーむ、バーナム効果ねえ。所で私からもお客さんに質問だけど、事実は小説よりも奇なりって言葉を信じているかい?」
「いえ、特には」
実際、そんな奇跡みたいな事例が現実にあるのは知ってはいるけど、この目で見ないことにはどうにも信じられない。
この露天商は私に何を言いたいのだろうか。
「作り話でもあり得ないことがありえるのがこの世だってことだよ――ほれ」
露天商がそう言って放ったのは今日の新聞。どうやら先ほど刷られたばかりの号外のようだ。
その記事の見出しにはデカデカとこう書かれていた。
【地球滅亡か!?】ほぼ確実。五千年後に十個の小惑星が地球と衝突。太陽は超新星爆発。
地球滅亡――それは私がこの露天商から面白半分で買った嘘の一つだった。五千年先など及びもつかない遠い未来の話だが、それでも自分が何か取り返しのつかない大変なことをしてしまった気分だ。
驚きに振るえる私に、さらに露天商は言った。
「時間はかかったけど、他も大当たりだよお客さん。どの嘘から本当になったのか知りたいかい?」




