願い事
ブログの拍手としてあげていた小説です。
短いです。
寝る前に、次の日起きる時間の数だけ、枕を叩くの。
小さな頃、何かの本で読んだおまじない。
そして、手を合わせて願うんだ。
明日も、あなたと笑えますようにって。
「赤城、おはよう」
自分を呼ぶ聞きなれた声に、赤城優菜は急いで振り返った。
「お、おはよう。加藤くん」
「あ、そういえば、昨日ありがとうな」
「え?」
「試合見に来てくれただろ?」
「うん。…でも、よくわかったね。私が見てたって」
「俺、視力だけはいいんだよ」
そう笑いながら、加藤慶太は優菜の隣を歩く。それだけで、優菜の心臓は音を立てた。
「だ、だけって、そんなことないでしょう?一年なのに、サッカー部で試合出てたし」
「違うよ。あれは、経験を積ませようと監督が出してくれただけ。他にも一年で出てた奴いただろ?」
「え…あ、そうだっけ?」
「まあ、ほとんどが俺たちと違うクラスだから、赤城がわからないのも無理ないけどな。でも、高校入ってもうすぐ一年経つんだから、そろそろ覚えようぜ」
「加藤くんはちゃんと覚えてるの?」
「…男子はな」
「私だって、女子はちゃんと覚えてるよ。でも、男子と関わることってあんまりないし…」
「それならまたサッカー、見に来いよ」
「え?」
「ほかのクラスの奴らもいるからさ」
「うん。応援に行くね!」
「約束な」
そう言って慶太は小指をすっと横に出す。そのしぐさに優菜は笑った。
「今時、指切りってあんまりしないよね?」
「いいじゃん。わかりやすくて。それに…」
「ん?それに、何?」
首を傾げる優菜に慶太は照れたように笑いながら言った。
「赤城に絶対来てほしいからきっちり約束しておかないと」
「…え?」
「赤城が来たら、いつも以上に頑張れるし!」
慶太の言葉に優菜は顔を赤くする。深い意味はないのだと頭では理解しているのに、体温は勝手に上がっていった。
「そ、そういう発言すると誤解されるよ」
「誤解って誰に?」
「誰にって…周りに」
優菜の言葉に、慶太は周りを見回す。
2人の周りには、学校に向かう生徒たちが数名いた。けれど、そのどれもが、友だちと談笑をしている。
「俺たちの会話なんて誰も聞いてないと思うけど?」
「で、でも、噂って変なところから広がるでしょう?誰かが聞いてて、変な噂流されたりしたら大変だよ!」
「大変って、誰が?」
「誰がって…加藤くんが!」
「別に、俺はいいけど?」
慶太の頬がかすかに赤く染まっている。自分自身が誤解してしまいそうだった。
胸がまた音を立てる。どんどん大きくなるその音が慶太に聞こえてしまいそうで、優菜は歩くペースを速めた。
けれど、2人の間に距離はできない。早歩きの優菜に比べ、慶太はただ少し、歩幅を広げただけだった。
「なんで離れようとするんだよ?」
「別に、離れようなんて…」
「してるよね?だって、赤城、息切れそうじゃん」
「…」
「そんなに俺の隣、歩きたくない?」
「そ、そんなことない!!」
優菜は思わず叫んだ。周りがこちらを見ていたが、それでも気にしなかった。
そんな優菜の反応に、慶太は一瞬目を丸くさせ、すぐに微笑んだ。
「そっか」
「そうだよ。隣を歩きたくないなんて、絶対にないからね」
「ありがとう」
「…ありがとうってなんか違う気がするけど」
「いいんだよ。嬉しいから」
「また、そういう発言する…」
すねたような表情。その顔に、慶太はさらに笑みを深めた。
「だって、本心だし」
「だから、誤解されたらどうするの?」
「だから、誰に?」
「……加藤くんの好きな人…とか?」
「誤解されてもいいよ。ってか、誤解じゃないし」
「…え?」
「好きな人」
そう言って、慶太は、優菜を指さした。
自分に向けられた指をじっと見つめる。歩く足も止まり、ただ、その指先を見つめていた。
「…赤城?」
不安そうに呼ばれた名前に、はっとして、顔を上げる。そこには心配そうに自分を見つめる慶太がいた。
「え…あの…」
「俺じゃダメ?それとも、誤解されたくない好きな人がいる?」
揺れる瞳が優菜を見つめた。グラウンドで走り回っている時の強気な目が嘘のようである。
心臓の音がうるさかった。体温は上がる。
優菜は目を閉じ、震える手をゆっくりと上げた。
「…好きな人」
その言葉と同時に、抱きしめられた。「やった!」と喜ぶ声が耳元で聞こえる。
はしゃぐ背中に、優菜もゆっくりと手を回した。
そして聞こえる声に、優菜の優しく微笑んだ
「好きだよ」
毎日、毎日、同じ願い事。もう、癖になっている。
あなたが笑えば私も幸せ。毎日、「も」って言えることそれが嬉しい。
でも、それだけじゃ、やっぱり足らないから。
今日は、枕を6回叩いた後に、あなたの言葉を思い出すわ。
明日も同じ言葉が聞けるように。
短い小説ですが、どうでしたでしょうか?
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
感想や評価をいただけたら、嬉しいです!!!




