マジカルト!~ガラスの心~
キラキラと窓から差し込む陽射しの下で
「綺麗だねぇ。」
瑠斗〈ルト〉は手に持った箱を見上げていた。箱の中には蒼く光るガラスの薔薇。日光に当たりキラキラと輝いている。
「ねぇ瑠斗。それ、何?」
癒樹〈ユキ〉は首を傾げた。瑠斗はその問いに
「さぁ?」
と首を傾げる。
「さぁ?って、じゃあどうしたのソレ?」
「もらった。」
「もらった?」
「うん。」
「誰に?」
「あの人。」
瑠斗はそう言うと、校庭の真ん中辺り、大きな樹の根本を指差す。そこには、黒いスーツにシルクハット、長いステッキと、いかにも『私、怪しいです。』的なおじさんが立っていた。癒樹はそれを見るなり
「瑠斗、それ返してきなさい。」
そう言った。
「なんでぇ?」
「なんででも。だってあの人怪しいもの。」
「そうかな?」
瑠斗は首を傾げる。
「そうよ。だいたい、シルクハットにステッキって怪しいことこの上ないじゃない。」
癒樹はそこまでを一気に言うと瑠斗を見た。瑠斗は首を傾げ何かを考えているようだった。そうして暫く時間が経った頃、瑠斗が口を開いた。
「でもね、癒樹ちゃん。あのおじさん言ったんだ『これは君の心だから大切にするんだよ』ってだから返
せないよ。」
瑠斗はそう言って笑い、視線をガラスの箱に戻す。キラキラと輝いて癒樹にはそのガラスの薔薇がとても儚く見えた。
「ねぇ。もしそれが本当に瑠斗の心だとしてもし壊しちゃったりしたら瑠斗はどうなるの?」
「?」
瑠斗は首を傾げる。
「だからね。もしその花を壊しちゃったりしたらどうなるの?」
「壊れないよ。」
瑠斗はニカッと笑っていった。
「でも…。」
「心は壊れないものだよ。」
瑠斗はもう一度ニッ笑って
「心は傷付くことはあっても、壊れることはない。たとえ壊れても直せばいい。付いた傷は消えないけどね。もし心の花が壊れる事があるのならそれはその人の心が弱いって事だよ。」
瑠斗はそう言うと持っていた箱を床に投げつけた。
「ちょっと瑠斗!」
癒樹は慌てて箱に歩み寄る。そんな癒樹をよそに瑠斗は涼しい顔をしている。そしてガラスの薔薇は無傷だった。
「何で?」
「信じてるから。」
「信じて…る?」
「そう。僕は僕自身を信じてる。だから心が壊れることはない。もしも僕が僕を信じてなかったらその時
は…。」
「その時は?」
「壊れるんじゃないかな?」
「壊れる…瑠斗の心が…。」
「まぁ僕の場合は有り得ないな。」
「そうなの?」
「そうそう。ようは気持ちの持ちようって事だよ。」
瑠斗は笑って言う。自分自身を信じていくことが大切なのだと。