4BOX ULTRA MENTHOL
夜、俺はどこかに立っていた、暗いから夜って思っているけど、もしかしたら夜じゃないのかもしれない。
ただ、そこには、人がいて、法術士って言う人がいて、戦っている。
いろんな戦いがある、中には八重刃さんもいた。
敵を刀で斬り殺す、殺している。
腕が斬り飛ばされ、血が吹き出る。生暖かいものが頬を打った。何か気になった。手でさわって確認したいけど、体が動かない、恐怖で動けない。
八重刃さんが敵の腹を横に切り裂く、大量の血が流れると共に、はらわたが地面に落ちる。後を追うようにして体が崩れた。殺した。人を殺した。
たくさんの法術士が八重刃さんを囲んで、法術を放つ。粉塵が舞い上がり、八重刃さんの姿が見えなくなる。
だんだんと晴れてくると、そこには、赤い血溜りがあって、まだ生々しい肉の塊があって、きっとそれは八重刃さんで、殺して、殺して、殺されて、殺されて、殺される。
今度は自分が、殺すのか、殺されるのか、死ぬのか? 死ぬ……死ぬ……死ぬ……
「うわあぁぁ!!」
叫び声を上げながら俺は目が覚めた。
夢に圧されて、気分が悪くなる。急いでトイレに駆け込んだ。
便器に、胃の中の物を吐き出す。
もう何もなくても、まだ吐き続ける。吐瀉物の上に、胃液が降りかかる。
ようやく吐き気がおさまり、吐いた物を流した。
きもちわりぃ。吐いた物も、吐く瞬間も、この思考も。
ベットの上に戻り、片膝を抱え込んでいろいろ考える。
初めて仕事をしたときから、ずっと変わらない思考のループ。
あの時は、必死で、何も気づけなかった。何に必死だったのかもわからない、生きることだったはず、だけど、もしかしたら、生きようと必死だったわけではなかったかもしれない。
人が、殺される姿を、生で見たんだ、俺は……。
それは、とても近いこと、自分が、いつか八重刃さんのように、人を殺すようになるのかもしれない、自分の手で、人を殺すんだ。自分が、誰かの手で、殺されるかもしれないんだ。
そういう世界に、足を踏み込んでしまった。
恐怖で堪らなかった、自分の命が危ういことに、誰かを殺すかもしれない可能性に。
あの初めての仕事から、俺はずっとこんな感じだ、五日間ぐらいは、食事もまともに喉を通らなかった。
そんな俺に気づいて、八重刃さんが励ましてくれた。それで楽になって、何とか食べれるようになったが、時々今みたいに吐いてしまう。
でも、ずいぶん回数が減った。それはいいことだったが、同時に、自分自身にあきれ返った。
人の生き死にに、慣れていく自分がそこにはいて、そんなことどうでもいいと思い始める自分がいて、記憶が薄れていくのがわかった。それが嫌だった。
それから俺は、今までの日常だった物を、放棄した。そんなものは、学校しかなかったけど。
いわゆる、学校を辞めちゃったわけ。先生に理由を聞かれたけど、適当にはぐらかした。
なんか、もうそれは、どうでもよくなってしまった、勉強とか、最初からやりたくなかったし、意味ないものに思えてしまったわけで。日常が、非日常に感じた。
片手に持っていた携帯の画面を覗く。
唯一のつながりは、携帯に入った友達のアドレス。時々メールしたり、会って遊んでくれたり。
よく友達には、ニートと呼ばれ、若干うらやましがられている。
遊ぶのは、そりゃすっげぇ楽しい。でも足りない奴がいる、いつも一緒にいたあいつと、連絡が取れない。
ずっと前から、メールしても返信来ないし、電話かけても通話不可。彼女とずっといちゃついているのかと思って、他の友達に聞いてみたら、学校にも来ていないって言う。
毎日一回送っているメールを、俺は送る。
『オ〜い、生きてるか? 返信ヨロ』
送信ボタンを押すと、携帯を閉じた。
いったいあいつは、なにしてんだろう。
することがなくなって、携帯をポケットにしまうと、入れ違いにライターを取り出す。
ジッポ、親父にもらった奴。死んではいないから形見じゃない。
もちろん俺は未成年だから煙草を吸わないいい子です。
ただ、ずっと子供のころから弄り続けていたから、扱いには長けている。まわしながら火をつけたり、弾き開いたり、指を鳴らしながらつけたりできる。
友達に見せるとけっこうウケがいい、でも、煙草を吸ってるんじゃないかと疑われるのが弱点だったりする。
火をつけると、ボーっとそれを眺める。
火を見るのが、好きだった。子供のころから、火に惹かれるものがあった。
姿をとどめることなく、刻一刻と形を変えるその姿と烈しさに、何かあこがれるものがあった。
昔、親父に内緒でこのジッポを拝借して、一人で火をつけて遊んでいた。
このとき、ばれて親父にこってりしぼられた、とか、草むらに引火して火事を起した、とか、珍しい事件は起きなかったからあしからず。
そして、その時気づいたことがあった、なんとなくだけど、火を揺らめかせることが出来ることに。
眺めながら、その炎を左に傾けたり、右に傾けてみたりする。
今は、それが平然と出来た、原因がわかったからだ、自分が法術士ってことに気づいたからだ。
渦巻かせるとか、少し難しい芸当も出来るようになった。
法術の使い方のコツを、いろいろ八重刃さんに教えてもらった。
法術、俺はこの力で、いつか人を……。
また思考が回帰して、鬱になった。
気晴らしに散歩シヨ。
空は真っ暗、街の明かりで星もよく見えない。まあ、自分に星を眺める趣味はないから放置。
時計を確認すると、深夜二時。ずいぶん変な時間に起きてしまった。
こんな時間、開いてるのはコンビニとか二四時間営業の場所か、俺一人じゃ絶対入れないような場所。
とりあえず、どうしようかなぁ。
ふらふらと歩き続ける、夜風が吹いててけっこう気持ちいい。
公園が目に入ったから、なんとなくよってみる。
ホームレスの人たちがいなかったから、俺一人しかいない、静かで平和。
ベンチがあったけど、俺はあえてのブランコ。
ボーっと座ってたけど、やっぱり暇だったから、こぎ始める、立ちこぎで。
深夜で一人でブランコこいでる俺ぐらいの年って、かなりクレイジーな人間だよな。
ナニやってんだか。
うおぉ、俺は風、風になるんだぁ!
全力でこぐ、そりゃもうイスをつなげる鎖と地面が水平になるくらい全力で。
うわ、ヤベ! こえぇえ!
あまりのもはしゃぎすぎて逆に怖くなってきた、慎重にスピードを落とす。
ちょうどいいスピードでほっと一息、でも疲れたから完全に停止するまで惰性に流す。
止まる直前になって跳躍、少し距離を稼いで着地。
ふぅ、やっぱ、暇っちゃ暇だぁ。
さすがにこの時間は友達寝てるだろうし、うぅ、そうだ、コンビニいこ。
近くにあるコンビニといえば、八重刃さんがいて、時々ユーニさんがいるあそこしかないな。
とりあえず向かった。こんな深夜だというのに、八重刃さんはまだ働いていた、一体いつ休んでいるというのだろう、気になる。
「こんちわ〜」
こんばんわというべきだろうね、今の時間は。
「こんな時間にどうした」
そりゃ不思議がるだろうね、今の時間なら。
夢見て吐いて目が覚めたとかいったら、八重刃さん心配するだろうしなぁ。
「あぁ、なんか深夜アニメ見てたら目が覚めちゃって」
適当な嘘をついておく。
どうやらユーニさんはいないらしい、当たり前だろう、普通の人なら寝ている時間だもん。
俺のほかに客がいないのかなぁ、と思ったら、いた。よく見かける、三人組のジーさん、通称ジーさんトリオ、そのまんまというのは気にするな。
何でこんな時間にいるんだろ? おかしいよ、じいさんだったらもう寝てるだろ。
まぁ、いいや、読んでない週刊誌立ち読みしよ。
ギャグ漫画を見ているあたりで、なんか騒がしくなってきた。
コンビニのパフェを食いながら、ジーさんトリオがなんか言っている。
「お前らな、今こうして食っていけんわ、俺が今まで田んぼ耕してきたからっぞ?」
「なにいっとるだぁ、お前一人じゃなくて、わしら三人で土いじくってたからだぁろ?」
「あぁ、耕した、死に物狂いで耕したぁ」
ぜんっぜん意味がわからないから、右の耳から左の耳へ通過、俺は立ち読みを続ける。
あぁ、意外と読んでないのが少なかった。暇になってしまった。
とりあえず何か新しいドリンクが無いか見て、ないようだったから何も持たずにレジへ行く。
「八重刃さん、唐揚げ棒一つ」
無言で保温する機械から一本取り出し、手早く袋に入れて渡してきた。
唐揚げ三個で百円という、非常に優しいお値段のこの一品。
知り合いだし、それに先輩だし、おごってくれたっていいと思うのに、八重刃さんはそこらへんがなんかいろいろ大変らしいので、しょうがない。
「じゃあ、俺帰って寝ますね」
「あぁ、おやすみ」
一言会話を交えて、俺は店を出てく。
唐揚げをかじりながら、ぶらぶらと町を徘徊。
こんなところ見られたら、深夜徘徊で警察に捕まっちゃうだろうなぁ。
補導の経験がないから、そうなるとどうなるのかは知らない。出来ればずっと知りたくない。
自分が一人暮らししてるアパートに帰るには、どうしたって街灯の少ない道を帰らなければならない。
暗いのが怖い、とか、そういうことは無い。でも、あまり通りたくない、犯罪に巻き込まれたくないし。
ああ、やっぱり暗いよ……。犬のウンチとか踏んだらマジショックなんですけど……。
暗い足元に目を凝らしながら、歩いていく。
すると、な〜んか空気に違和感、嫌な予感がしてきた。危険信号が鈍く鳴りはじめる。
うっわ〜、やだな〜。この感覚が嘘であることを俺は切に願います。
細い十字路のところで、二人の人間に出くわす。暗くてよくわからないけど、がたいがよさそうだから二人とも男。
まさか、そんなことないよな。
急に俺の方ギロッて向いて、襲ってきたりは、しないでくれよぉ。
内心びくびくしながら、俺は通り過ぎようとした。
視線が刺さった、本当にギロッて向いてきた!
やばいやばいやばい、そんなふうに目を向けてくるのは、通り魔だ!
何で二人組みなんだよ、強盗かよ! とにかくヤベェ!
死ぬかもしれない!
逃げろ!
足音が、こちらを向いた。俺は一目散に逃げ出す。
追ってこないでくれよ、俺の勘違いであってくれよ!
…………
追ってきちゃったよ!
足にはそれなりに自信があったけど、あいにく今はサンダル、踵がついてるけど走りにくいのは変わらない。
必死に俺は街を駆ける。家に帰りたかったけど、逃げた方向は正反対。
なんで……こんなに追って来るんだよ!
俺のほうが速いらしく、だんだんと離れてきているけど、もし体力があっちが上だったら、いずれ追いつかれる。執拗に俺を追いかけてくる。
急に、足音が消えた、諦めてくれたか?
走りながら、視線を後ろに向ける。
そこにあるのは、不思議な光り。何もないはずの場所に浮く、光の集まり。
なんでだよ! なんで、法術なんて!
それは明らかに法術で、俺に向けて放とうとしている。
とにかく、離れないと!
出来るだけ距離を稼げば、もしかしたら避けられるかもしれない、威力も減衰していくから、死なないかもしれない。
いや、待てよ、当たって、動けなくなったら、結局殺されるじゃん!
何か叫んだのが後ろから聞こえた。多分、法術を放つための引き金、喝を放つと言うものだ。
後ろを振り返る。そこにあるのは、人一人焼き尽くすには十分そうな業火!
逃げ切れない!
なんとか……なるか!!
ぎりぎりの状況下に置かれ、逆に冷静になっていく。
俺にだって、使えるんだ、法術が。火を消すことも出来るはずの、これが。
八重刃さんに教えてもらったことを振り返っていく。
忠実に再現。
俺の体の中の法力を感じ、それを一つの力として発現していく。大事なのは、イメージ。
圧力を、開放するイメージを、強く思う。開放というのが、大事らしい。
体の中に流れている法力が、一つの意思を持った、つもり。
実際、そんなすごいことじゃない、八重刃さんにそう教えてもらって、なんとなくでやっていること。
「空気よ!」
自然発動型って言うのは、喝さえ必要ないらしいんだけど、八重刃さんがコツとして、喝を放つほうが、一つの定まった力として、制御しやすいといっていた。
手を前に掲げる、炎の前にある空気の気圧を、一気に下げる!
自分の中で最大の力を発揮するように、全力で。
すると、火は、その空気の壁を通過しようとした瞬間、酸素量が足りず見る間に勢いを失った。
よかった、もしあれが、完全に法力だけによって発動していたものなら、意味がなかった。
男たちは、あっけに取られていたが、無事な俺を見ると、再び追ってこようとした。
地面には、ゴミとか、葉っぱとか、いろいろなものが焼け残っていた。今も火がついている。
しっかりと男たちに目を向けながら、じりじりと後ろに下がる。
まだだ、まだ、俺が操った空気のところじゃない。
足を、男たちが踏み込む。俺が疲れている姿を見て、余裕でゆっくりと歩いてきてる。
まだ、完全に入ってない、後……もう少し。
自分も巻き込まれるかもしれなかったが、それぐらいじゃないと、本当に危ない。所詮自分の力なんてたかが知れてる。
男たちが、法術の中に入り、急激な気圧の変化と酸素不足で、わずかに驚くのが見えた。
よし、いまだ!
俺は、再び力を発動する。いままでの、圧力というものを開放するイメージから、今度は自分の力から開放するイメージで、そこの空気の圧力を一気に増やす。
落ちていた新聞でくすんでいた火が、爆発的に膨れ上がり、炎となって道を埋め尽くす!
酸素がないところに急激に酸素を送ると、爆発のように火がでかくなるって、バックドラフトってやつ。
ぶっつけ本番ってか、その場の思いつきでやったけど、うまくいった!
どうせ人を殺すほどの威力ないし、すぐに消されるだろうから、その隙に俺は道を複雑に曲がって相手をまいた。
ずいぶん離れても走ることをやめないで、一気に家に到着、玄関でへたり込んだ。
「ふぅ〜、あぶなかった〜」
やっと一息つけた、マジで今のは危なかった。
なんで、俺が追われたんだろう?
理由があるのかもしれない、でも、あんな犯罪者の思考なんておれにゃ読み取れない。
とにかく、疲れたし、汗かいたし、冷たいシャワーでも浴びよ。
汗を流して火照った体を静める。
いいね、冷たいのは。何しろ光熱費が安くて済む!
シャワーを浴びながら、冷静になっていろいろ考えていく。
法術士に、襲われる……かぁ。そういえば、ちょっと前にも、連続殺人が起きてたな、法術士の手によって。
すると、俺の中で、繋がらなかったはずの出来事が一つになっていくのを感じた。
え……待てよ……そんなはずはない、思い違いだ。
確かに、連絡はないけど……まさか事件に巻き込まれて、死んだなんてこと……あるはずない。
法術士の手によって? いや、あいつはただの一般人、こっちとは関係ない人間だ。
どんどん、いやな想像が膨らんでいく。
どうしたら、わかるんだろう。確かめたいけど、連絡が来るまで待ってたらいつまでかかるかわからない、そんなことないだろうけど、死んでたら……連絡来ないし。
……そうだ、ユーニさんに聞いてみればわかるかもしれない! あの人情報屋してるらしいし!
うん、そうしよう、明日、ユーニさんに聞いてみよう。
決まったからには、すぐ寝よう。
俺は濡れた体を拭いて、さっさとベットにもぐりこんだ。疲れてたのか、夢は見ずにすんだ。
目覚まし時計の音と、それに隠れて聞こえるノックの音で目が覚めた。
ノックしてるのは、八重刃さんだろうな。いちいち起こしに来ている。
集合時間より早くに起しに来る、八重刃さんが悪いのだろうか? それとも八重刃さんに起してもらってる俺が悪い?
とにかく急がないと。
「あぁ! 今開けます、ちょっと待っててください!」
適当に服を着込んで、ドアまでかけて、鍵を開けた。
やはりそこに立っているのは八重刃さんだ。
「おはようございます! すぐ支度するんで中で待っててください」
「あぁ、邪魔する」
しなやかっていうか、なんかきれいに、部屋に上がりこんで、ピシッとした姿勢で座っている。こんなときでも八重刃さんはかっこいい。
「あ、コーヒー冷蔵庫にあるんですけど、飲みます?」
「いや、結構だ」
まあ、ただのパックのコーヒーは、飲まないだろうな。飲み物には結構こだわりがあるらしいし。
とにかく、えぇっと、歯磨いて、顔洗って、服ちゃんとして、朝飯食って、アー、こんなもんか?
騒がしく俺は支度をする、その間もただ黙って八重刃さんは正座している。スーツ着てるけど、まるで侍みたいに。
朝食に、フレンチトーストとか作りたかったけど、時間ないから、とりあえずマーガリン塗りたくって砂糖をぶちまけ、焼く!
出来たトーストとコーヒーを持って、テーブルに向かう。
一つしか部屋にテーブルがないから、八重刃さんの目の前で食べることになる。
「すいません、待たせてるくせして一人で朝飯なんて」
「かまわないさ」
ここで、俺はどっちを選ぶ! 黙ってとっとと朝食を済ませるか、なんかしゃべって暇にならないようにするか!
俺は後者を選択、だって話したいことあるし。
「そういえば、今日、ユーニさんにあって話したいことがあるんですけど……」
とりあえず、原因である法術士に襲われた件は話さない、心配かけたくないから。
「なんだ?」
「いや、友達のことを、聞きたくて、あの人なら知ってたりしますよね?」
「かもしれんな。しかし……金を請求される可能性も否定できない」
「……あぁ、確かに、それだったらどうしよう」
「まぁ、聞いてみればいいさ」
「はい」
さて、朝飯食べて、ユーニさんのところに早くいかないと。
最速タイムとは行かないけどそれなりの高記録で食べ終わり、いざ出発……と、その前に、トイレトイレ。
よし、気を取り直して出発。
「お待たせしました。いきましょう」
無言で立ち上がって、俺の先をいってくれた。
ついたのは、オルタネイトの所有するビルの一つ。
俺は、オルタネイトっていう、組織に組み込まれた歯車のひとつ、だからいずれは、汚い仕事とかも、やるんだろうな。
最近鬱になってばっか。
ユーニの部屋に行くと、ドアを開けた瞬間に八重刃さんの胸に飛び込んできた。
「誠志ちゃ〜ん。おそ〜い」
うん、かわいいんだよね、別に年食ってないし、どっちかといえば若いし、すっごいきれいな大人の女性って感じだから。
でも、本性は本当に怖い、八重刃さんも、金で彼氏になってるらしいし。
抱きつかれても、恥ずかしがったり抱き返したりとかは全くせず、ただ冷淡にユーニさんを見下ろしている八重刃さん。どっちかというと、より無愛想、機械的になってる感じがする。
俺しか見てないことをいいことにじゃれついてるけど、人前でこんなかわいいとこユーニさんは見せたりしない。
あぁ、ボケッと見てないで、早速聞いてみないと。
「あの、ユーニさん、聞きたいことがあるんですけど?」
「ん? なに?」
笑顔で聞き返してくる、ちょっと上機嫌っぽい。よくわかんないけど。
「えーっと、友達のことなんですけど」
「そう、ちょっと待ってて」
まだ名前とかなにも言ってないのに、ポケットから、手のひらサイズの、電子手帳みたいな端末を取り出して、なにやら操作している。
「あぁ、聞きたいことってこの子のことかしらねえ。一番不思議な境遇だし」
「え?」
ここで教えてもらうために、お金とかいるんだろうか。
「ん〜、そうねぇ、今日は特別にただにしてあげる、面白いから」
面白い? ていうか、今考え読まれてた!?
気のせいだろう、顔に出てたんだ、きっと。よく八重刃さんにも何考えてるかばれるし。
「多分この子でしょ?」
そういって、端末の画面を俺に見せる、写っているのは、あいつの写真。
「そうです」
「この子ね、死んでるわ」
…………え?
「しん……でる?」
「えぇ、この前の、連続猟奇殺人の、最後の被害者。完全に死体が消滅してしまったから、公表されてないけど」
「じゃあ、あいつじゃないかもしれないじゃないか」
「私の情報を、信用しないつもり? まぁ、その気持ちはわからなくもないけど」
「でもだって、あいつは何にも関係ないじゃないか。それに、法術士が起した事件なんでしょ? なんであいつが」
「そりゃ、無差別だったから、誰でもよかったの。運悪く標的になって、それで殺された」
殺された、あいつが? 殺されたんだ! 法術士に!
ふざけるなよ!? なんであいつが死ななきゃなんない!
ただ、普通に生活してただけじゃねえか、世の中に知られることのない、ただの一般人じゃねえか!
ぶつけようのない殺意が、どんどん沸いてきた。
これほどに人を殺したいと思うのは、きっと力があることがわかっているから。昔、ここまで殺意を抱いたことは無い、自分の中にある力を知ってるから、沸いて来るんだ。力は、引き金になるんだ。
止められない、ただ悔しくて、悲しくて、あいつを殺したやつに、復讐したい。
「誰がやったんだよ!?」
もう敬語とか、そんなこと考えている余裕はなかった。
「ソルエッジって言う組織、初めての仕事のときの相手よ」
あいつらか! あれが殺ったのか!
復讐の相手を聞いた瞬間、俺はドアを飛び出していた。後ろからの制止の声も聞かずに。
どうする? どうやって復讐すればいいんだ?
俺じゃ、力が足りない。でも、殺してやりたい、組織が敵? 関係ない、潰すんだ。
……俺が知ってる、力のある人……八重刃さんのほかに、もっといないか?
そうだ、あの人たちに頼んでみよう! いくら払ったっていい、依頼として、あの人たちに受けてもらおう。
一直線に、俺は空煙法術士事務所を目指していた……