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Cool Night Smoking  作者: LUTE
2/9

1.5BOX MENTHOL

「毎度おなじみ、諸田真の一発芸でござ〜い!」

別になんでもないのだが、通学途中に雑談に間が空くと俺はこんなことを言う。

目の前には女子高生二人、格好の的だ。

「あ? マジ? やっちゃう?」

おちょくる様に友人も乗ってくる。

「じゃーいっぺんに二人いっちゃいましょう!」

「よし、俺は白と縞に賭ける。いや、むしろ希望。」

「いや、片方は黒だ。もう一つは……白だ。てかキボンヌ」

「負けたらなんかおごる!」

「よしキタ! ふおぁぁぁぁ…!」

なんとなく雰囲気作りの掛け声を俺は発する、キモイかもしれない。ようはノリだ。

女子二人の、スカートあたりを指差し、シュッと上に動かす。

すると、今まで風があったわけではないのに、急に、女子高生たちのスカート周辺にだけ風が発生し、

「うおおっすげえ!」

すっげぇこと、それすなわちスカートがめくれること。

「ッてか、白とティーバックかよ! 何だその差!」

思わず声を出した瞬間、二人が振り向いてきた。結構美少女。よく確認する暇は無いが片方はメガネ、白の方だ。

一目散に俺たちは逃げ出した。

下らないながら、こんな芸をできるんだから、俺は超能力者か何かの部類なんだろう。ただ、ほんとに大したことはできないので、お楽しみくらいのものにしか利用できない。実際俺も普段はこんなことが出来るのを忘れているくらいだ。意味不明な能力(?)については特に気にせず、単位取得にあせりながら平穏な学生生活を送っている。

「いや〜、俺は片方は大人なのつけてると思って黒にしたんだけどな〜……まさかティーバックとは。色がよくわからんかった。痛みわけだな」

「ワロスワロス!」

リアクションがなんとなくそっちの世界だ……。

雑談を再開し、家路を行く。

「寄ってくか?」

「ん、あぁ寄ってくかぁ」

通学路には何軒かコンビニがあるのだが、なんとなくいつも寄る1軒がある。ちょっと買い食いしていくとちょうどよいタイミングで食い終わる、とか、なんとなくの理由ならいくらでもあるが、やっぱり一番の目的はこの時間帯の、レジの人間離れした美女さんだ。

店に入ると、ちょっとした食べるスペースみたいなとこにいつものジーさんたちがたむろしている。立ち聞きするとなかなか面白いのだが、この話はまた今度にしよう。

「やっぱりアイス!」

二人で冷凍庫を覗き込み、日々微妙に変動する品ぞろいの中から好みの一品を選び出す。立ち読みもしないし、品物を一通り眺めてみるようなこともしないタチなので、レジに直行する。

割り込むように店に入ってきた女連れの兄ちゃんが美女さんと二言三言交わして何を買うでもなく出て行った。この店に変な客が来るは見慣れていた、というかそんな変な店といった感じが美女さんをいっそうミステリアスな魅力にあふれさせている感じがしていた。

わーい、今日もカウンタ越しに美女さんに接近だぁ。……と思うと、まるで申し合わせたかのように奥から出てきた男性店員と入れ変わった。

「え゛」

思わず声が漏れたが、店員は気にする様子も無く、アイスを買うクレイジーな(?)学生に対してもロボットのようにマニュアル通りの接客をこなした。部活もせずに不完全燃焼な俺の、ささやかな楽しみが……

俺の心の嘆き 八十五円

店員Aへの怒り 二十五円

この野郎、店員Aの分際で……バツが悪くなってそらした視線の先。

レジスターから吐き出されるレシート。

俺は確かに見た。

印刷された、

『オレノナゲキ 八十五円

Aヘノイカリ 二十五円』

意味わからない商品名と、額面。

さすがの俺も、こんなのを目の当たりにするのは初めてだ。自分でやっといて(あくまでおそらくだが)思いっきり噴き出した。うわ〜、俺、すごいぢゃん。なんて思っていると、普段どおり低額なレシートにそうするように、店員は無関心に破り捨てた。

え、あんた今の見たろ、と思ったが、まあ大したことじゃ無いので、すぐに一歩引いて友人の会計を見守った。

それから、美女さんにかまって欲しいばかりに買ったアイスを食いながら、ちょっと心に寒さを感じながら家路に着くのだった。


次の日、なんだか近所で連続猟奇殺人なるものが起きているらしく、(実際は結構前から始まったものらしくいが今日の朝たまたまニュースで目にした)よくよく注意してみると警察やら怪しい人らやら、多分ホウジュツシとかいう世界のひとなんだろうけど、が町でちらちら視界に入り、なかなか物々しい空気に包まれていたらしい。

そして、その日が、俺を非日常へいざなった日だった。朝からずっと頭に響くように耳鳴りがしてた気がするが、それだけでなくただ本当になんとなくだが、空気が張り詰めたような? 感じがしたあの日。

いつものあいつはなぜか連絡無しに欠席。俺は一人で帰宅することとなる。

体調不良とまでいかないもどかしい症状に悩まされた俺は、きっとコレはアレだ、美女さんが足りないんだ! という結論に至り、あの店に寄る。

ただ、レジにいたのは店員A。美女さんいない!


……帰ろうかな。

回れ右し、2秒間停止。おもむろに頭上に手をかざす。足を前に出してプラプラしてみる。

う〜ん、俺ってばクレイジー……じゃなくて、自動ドアが開かない。ただそれだけだ。

ちっ……そっちがその気なら!!   いいよ、一品買ってくよ。。。

今日は確かに少し腹が減っている。アイスではなく、もっとしっかりとしてて簡単なもの。レジで「あんまん一つ」粒あんだったらぶっ殺してやる。(誰を?)

表示はよく見れば粒あん

 

ついてねぇなあ。

豆はいらねえ プライスレス


……来るか?

吐き出されるレシート。

来るか来るか?

『マメヌキデ 0円』

「キタ―――――――!(爆笑)」

二回目ともなりゃさすがに店員も気づくだろ、大爆笑……って、あら?

破り捨てた。ただ、前回とは何かが違う……? 固い顔ながら感心したような複雑な物言いでこう言った。

「迷惑だな、機械干渉型か?」

……はぁ? 迷惑といわれましても、ん? 俺のせいって気付いてる!?

「いいえ、A型です。さそり座の。RHはプラス」

とりあえずはぐらかす、さっさと逃げた方が得策だったかもしれないが、自己顕示欲ってのが少しあったのかもしれない。

「ふざけているのか?」

ん〜、旗色悪し。というか、口数が少なすぎて何を言っているのか意味が見えてこないぞ、この人。

「いや、ふざけてないっすよ、少なくとも小学校5年? の時点ではそうでした。今は機械なんとかかも知れませんがね」

……そういえば機械干渉型……とかいってたな。何の話? 俺のスーパーな能力の原因を知ってるってことかな、そんな人いたんだ。

「ちょっと来い」

腕をつかまれた。半ば引きずられた。奥の倉庫へご案内。

うわぁぁやばいって! 犯される!? っていうか、数日前に目にしたニュースのアナウンサーの声と映像がフラッシュバックして、本気で身の危険を感じた俺は人生至上初の、全身全霊をこめたパンチ!!

異常なほどの手の痺れ? っていうか、興奮状態だったせいかパンチを繰り出してから、大量のお菓子やらカップ麺やらが俺に向かってぶっ飛んで来て右手に例の痺れを感じるまでが切り取られたように思い出せない。どうやら店員Aは俺のスーパーアルティメットパンチで吹っ飛んだ挙句棚に衝突、反作用で棚の商品がぶっ飛んできたようだ。

って理解してるうちに立ち上がってコメカミから流れをつくる血を手で拭いながら一言

「今の……ということは……いや、しかし……」

日本語になってない。

……イッチャッタ?

「だっ大丈夫ですか!?」

ぶっ飛ばしといてこの一言。実際まじで怯えてた。

「いや、心配無い」

「ええぇ……あ、あの。血っ血……あ、す、すいませんでした……」

何で謝ってんだ? 俺……。どっちが悪いともいえないような状況じゃないか?

「それよりも…自分を知らないのか?」

質問の意味を図りかねた。自問自答してるのか? やっぱり頭はまずかったかなぁ、っていうか、俺ってあんなパンチ打てたのかよ? 思わず、痺れた右腕をさする。

「本当に何も知らないんだな」

「えっお、俺ですか?」

お兄さんは、棚から落ちてきたのであろう小さなホコリの塊を手のひらに載せて、

ぽふっ

一瞬だけ塊が紅く染まった?  ……燃えた!?

急に連れ込まれて、パンチかました相手に、いきなり手品を見せられて、俺はもう何がなんだか。

「なんですか? 今の……?」

別にタネ明かしを求めている訳ではない。何のつもりでいきなり一発芸?って聞きたかったのだ。

「お前も出来るだろ?」

仕込んでねぇのに出来るわきゃねぇだろ!! って一瞬思ったけど、そうだ、俺ってば超能力者だったっけ。

物は試し。やってみた。

……

ぽふっ

まぁ、そんなこったろうと思ったけどさ。

……て、すげぇなおい、俺いきなり出来たよ。

「……なんで分かったんですか?」

「俺は法術士だ」

「へぇ〜、ホウジュツシさんには何でもわかるんですねぇ……   え?」

この兄さんは、法術士? で、なんか火が出て、俺もなんか火が出て、……俺も、法術士?

「俺も法術士!?」

「そうだ、おそらくだが、特異なタイプだが、自覚が無いことから自然発動型、先ほどの空気圧を下げることによる拳の高速化からして、物理干渉を起こせるのだろう」

「それ……って何、すごいんですか?」

「正直、自然発動はかなり珍しい」

「……はぁ」

なんのこっちゃ。


前触れも無く(あるはずないのだが)裏口のドアが開き、捜し求めていた美女さんが姿を現した!

「あら、その子は誰?」

「あぁ、ユーニか。さっき見つけた」

美女さん、もといユーニ……ユーニさんの登場に心持いやな顔をしたのは気のせいだろうか?

「力を御することはできていないが、自然発動型だ、まだ若い」

「あら、使えるじゃない」

使える、て、物ですか?

「どうする?」

「あなたが磨きなさいよ」

「なぜ、俺がそんなこと……」

二人して必要最低限の会話、外野の俺はなんか取り残された感じ。なんとなく状況はまずい方に行っている気がする、嫌な感じが拭えない。

「あなたが拾ってきたんでしょ? ならあなたがお守りをするべきじゃなくて?」

「その必要は……」

「あら、彼女の言うことが聞けないの?」

どうやら恋人関係のようだが、何かずれている気が……

「いつ、お前が彼女になっ……!?」

急に言葉が止まり、不自然に思うと、ユーニさんがヒールで脚を踏みつけていた。

兄さんの黒い靴に、何かが染み出している気がしたが、きっと気のせいだ、そうに違いない、そう信じたい。

「あんまり口答えしてると……コロスヨ?」

素人でも分かるあまりにも壮絶な、殺気をみなぎらせていて、思わず

「ひっ!」

小さな悲鳴が漏れてしまっていた。聞かれた!!?

こ……コロサレル?

が、こっちに向き直ったユーニさんの表情は恐ろしいほど柔和なものだった。美しい……でも、こ……怖いよぉぉ……

「ねぇ、僕は、こっちの世界に興味があって?」

これは、脅迫か何かか? っていうか、俺はユーニさんに

「興味津々です!!」

いろんな勢いで即答だった。そうでないと俺は死んでいた気さえした。



……とにかく、そんなこんなで俺は法術士の世界に足を踏み入れる事になったのだ。

「そうだ」

帰り際、兄さん、更に奥の部屋へ。

「これを読んでおけ」

見た感じ小説版バトルロワイヤル2冊分な量を貸していただいた。うえぇ。

「でも、俺まだほんとにやるかどうかは……」


「残念だが、ユーニにああ言った時点で……」

言いかけて俯き、目頭を押さえた。


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