【第六話】雨の日の出会い
とうとう書き溜めていたものも無くなりました;;
【シーン:少女】どうぞ
森林公園までの道のりの途中に、商店街がある。
それほど大規模なところではないが、活気のある通りだ。
黒髪の少女はそこで少し歩みを遅くして、見慣れた街並みを眺める。今日も八百屋のおばちゃんは元気よく声を張り上げているし、魚屋のおじちゃんも威勢のいい声で道行く客に声をかけていた。
雨の日でも変わらない風景。
途中の裏路地にはえさを求めて猫がたむろし、学校帰りの小学生は明るい黄色の合羽をまとって少女のわきを走りぬけていく。
ふと目の端で手招きする人をとらえ、少女はそちらに顔を向ける。そこにあった、通いなれたパン屋のガラス窓の向こうで女の人が少女に向かって「いらっしゃい」と伝えていた。
カラン、と明るいベルの音と共にパン屋に足を踏み入れると、そこは外の雨の匂いから一変して焼きたての幸せなパンの匂いであふれかえっていた。
「そろそろかなって思ってたの」
笑顔でパン屋の女主人は少女に言う。雨の日になると毎日のようにこの店の前を通る少女は、この店の常連となっていた。通りに面したガラス窓から見える、こんがりと焼き上げられたパンに誘われるように入ったのが、この店と気さくな女主人との出会いだった。
「はい、これ」
そう言ってカウンターの向こうから差し出された袋の一つにはラスク、もう一つにはパンの耳が入っていた。猫の餌としてパンの耳を買ったこともあり、それから少女のためにいくつか取っておいてくれるようになっていた。
「いつも、ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げ財布を取り出そうとすると「お代はいいのよ」と止められる。
「いつも買ってくれてるお礼。それにそのラスク、新作なの」
よかったら感想ちょうだい、その言葉と手元のラスクを見比べるように少女は女主人の顔を見て「今頂いても良いですか?」と尋ねる。袋の中のラスクは、今も周りに並んでいるこの店のパンと同じように幸せそうな香りを放っているように思えた。
「ええ、ぜひ」
「いただきます」
袋から一枚を取り出しかじるとラスクはサクッと音を軽い音を立て、口の中には上にかかったシュガーの、ほんのりとした甘さが広がる。思わず、顔がほころぶ。
「おいしい」
つぶやくように言って、手に残ったかけらを口に含む。女主人はにこにこと幸せそうにラスクを食べる少女を見つめていた。ごくん、とラスクを飲み込んだ少女は改めて女主人に向き直り「おいしいです」と、伝えた。
「良かった。涼ちゃんがおいしそうに食べてくれるから、私も作った甲斐があるわ」
黒髪の少女――もとい、涼ちゃんと呼ばれた少女は嬉しそうな女主人の顔を見て、見つけた、と思った。
「ごちそうさまでした」と、またぺこりと頭を下げ、もと来た扉を押し開ける。カラン、という明るいベルの音と「また来てね」と言う女主人の気さくな声のハーモニーに耳を傾けながら
「雨の日の新しい『世界』、見つけた」
と、ラスクとパンの耳の袋を大切そうに握り締めながらつぶやいた。
雨は小降りになり始め、空にはうっすらと虹がかかっていた。
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