遠回りの途中 ②
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
定時制高校に編入学してから初めての夏。
一学期の期末テストが実施された。
全日制高校でしっかりと積み重ねていた学習の貯金があったおかげで、期末テストでも好成績を収めることができた。
定時制高校という限られた世界の中では上位の成績だったが、それでも浩一の心から「全日制のレールから外れ、世間から取り残されているのではないか」という焦燥感や劣等感が消えることはなかった。
その拭えない不安を振り払うように、浩一はわずか2週間という短い夏休みの期間中、予備校の夏期講習に通うことにした。
実際に予備校の授業を受けてみると、定時制高校のカリキュラムではまだ扱っていない高度な内容が次々と飛び交っていた。
ついていくには必死だったが、夏期講習のテキストや資料を食い入るように繰り返し復習するうちに、かつて全日制で感じていた「通常の大学受験に向けた学習の感覚」を肌で取り戻すことができた。それは大きな収穫だった。
しかし同時に、冷徹な現実も突きつけられていた。
(やはり、この定時制高校から大学進学を目指すというのは、想像以上に厳しい道かもしれない……)
昨年の夏、アルバイト先で一緒だった大学生の吉田さんは、「大学がすべてじゃない。選択肢のひとつだからさ」と言ってくれた。頭では分かっていても、心の奥底で焦る気持ちを抑えきれなかった。
教室の自席で、そんな将来への不安と葛藤に沈み込んでいると、いつの間にか登校してきた行地がひょいと顔を覗かせた。
「おい、川野! 川野ってば、聞いてるんか?」
「あっ……ごめんごめん、何?」
「またすごい怖い顔してたけど、いったいどうしたんや? お前、時々もの凄い独特の冷たい空気を醸し出すよな。見ているこっちがゾクッとするくらい怖い顔してたで」
「行地に『怖い』なんて言われる筋合いはないやろ」
「いやいや、前に『俺たち同じ匂いがする』って言ったけど、撤回するわ。お前のほうがよっぽど怖いわ!」
「そんなことないって。普段は『おとなしそう』とか『真面目そう』って言われるんやから」
「それはな、お前が普通に穏やかなときの話やろ? さっきまでの顔は、とてもじゃないけど気軽に近寄りがたかったわ。まあ、俺やからこうして声かけたけどさ」
「そうなんや……。自分では全然意識してへんかったけど、気を付けるわ」
「まぁ、そんなに気を付けんでええけどさ。でも、考えようによったら、その目つきや雰囲気は一つの『武器』になるかもしれんで?」
「武器って……なんやねんそれ」
行地のからかうような、けれどどこか核心を突いたような笑い声に、浩一はハッと我に返った。
けれど、胸の奥に澱のように沈んだ将来への不安と焦燥は、まだ綺麗に拭い去れずにいたのだった。
ご覧いただきありがとうございました!
短い夏休みを惜しみ、予備校のテキストにしがみついて大学受験の現実と向き合う浩一。
周りからは順風満帆に見えても、本人の胸の内には常に「このままでいいのか」という切実な焦りが渦巻いています。
そんな思いに囚われて険しくなった顔を、何の気負いもなく「怖い顔やな」と笑い飛ばしてくれる行地の存在。
重い悩みを抱えながらも、学校に戻れば気心の知れた仲間がいる——その温かいギャップが、定時制に通う主人公の日常をより鮮やかに浮かび上がらせます。
不安を抱えながらも遠回りの道を歩み続ける主人公。




