表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタクにも違いがある!  作者: しばらく芝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

【第三話】「それ、言えばいいのに」

高校二年の陰キャアニメオタク・篠原悠真しのはら ゆうまは、今日も一人で昼食をとっていた。

静かにアニメを眺めていたその時――

隣の席の陽キャアイドルオタク・星野莉音ほしの りおが話しかけてきた。


「ねぇ!あなたもオタクでしょ!?私もオタクなんだよっ!」


最初は全く噛み合わない“オタク会話”。

アニメとアイドル、陰と陽、視点も温度もまるで違う。

でも、どこか通じ合う“好き”の気持ちが、少しずつお互いの心を動かしていく――。


恋か友情か、はたまた推し活か。

これは「違い」を通して「同じ」を見つける二人の青春ラブコメ。

月曜日の朝。

いつも通り教室に入った悠真は、思わず足を止めた。


「……あれ?」


星野莉音が、席で友達と話していた。

けれど、何かが違う。

どこか“いつもの彼女”と雰囲気が違うのだ。


髪。

そう、髪が――肩より上で、軽く跳ねていた。


「おはよ、悠真くん!」


ぱっと笑った瞬間、

短くなった前髪が揺れた。


(……っ)


言葉が出なかった。

頭では“髪を切った”ってわかってる。

でも、それだけじゃない。

彼女の笑顔まで、少し柔らかく見えた。


「なに? どうしたの?」

「……いや」

「え、まさか気づかないパターン?!」

「いや、気づいたけど」

「けど?」

「……似合ってるとか、そういうの、言うタイプじゃない」

「えぇ~!なんでよ!」


莉音が頬を膨らませる。

周りの女子がクスクス笑っていた。


「ほんと悠真くんって、そういうとこ不器用~」

「不器用っていうか、そういう文化じゃない」

「文化!?」

「陰キャはコメント控えめなんだよ」

「なんだその生態系!」


莉音は笑いながらも、どこか嬉しそうだった。

そんな彼女の表情を見て、悠真は内心焦っていた。


(……やっぱ言っときゃよかったかな)


だって、本当は。

最初に見た瞬間、

「かわいい」って思ってしまったのだ。


でもそれを言葉にする勇気が、

まだどこにもなかった。



放課後。

二人はいつものように帰り道を歩いていた。


「で、なんで髪切ったんだ?」

「んー……気分?」

「適当だな」

「ライブ終わって、スッキリしたかったの。

 “新しい私”になりたくて!」


莉音が笑いながら、

切りそろえた髪を指先でくるくると回す。


その仕草が妙に目を引いて、悠真は視線を逸らした。


「……なんか、アイドルみたいだな」

「え? なに今の!」

「いや、別に!」

「言った!今“かわいい”って言おうとしたでしょ!」

「違う!」

「言ったぁ~~!」


莉音が全力で茶化す。

悠真の耳が真っ赤になる。


(……ホント、心臓に悪い)


けれどその赤面を見て、莉音は満足げに笑った。


「ありがとね」

「……何が」

「言葉にしなくても、ちゃんと伝わった」


その笑顔に、悠真はもう反論できなかった。



(“言わなくても伝わる”って……

そんなのズルいだろ)


教室の窓の外、春風が吹き抜ける。

季節が少しずつ変わるように、

二人の距離もゆっくり、確かに変わり始めていた。


昼休み。

いつものように莉音と話していた悠真は、

不意に感じた視線に気づいた。


ちら、ちら……。

なんか……多い。


「……なぁ、なんか見られてね?」

「え? あ~、たぶん私の髪のせいだよ」

「髪?」

「切ったから、ちょっと目立ってるだけ!」


莉音が軽く笑う。

けど、その直後――


「なぁなぁ星野~、お前、その髪さ~」

「可愛くなったなー!」

「お、彼氏できた?」


──地獄のワードが飛んできた。


「え、ちがうちがうちがう!!!」

莉音が即座に否定。

でもその隣で、悠真は思考がフリーズした。


(……え、俺見られてない?なんか関係ある雰囲気じゃない?)


そして追い打ち。


「もしかして、横の黒崎(悠真)と付き合ってんの?」

「えっ」

「いやいやいやいや!!!」


莉音と悠真の声がハモった。

教室がドッと笑いに包まれる。


「うわ~息ぴったり~!」

「カップル漫才かよ~!」

「陽キャ同士お似合いじゃん!」


「陽キャじゃねぇよ!!!」悠真が即ツッコミ。

「私は陽キャだけど!」莉音がノリよく返す。

「認めるな!!」


笑いがさらに広がる。

もう完全にネタにされていた。


(これが……社会の陽圧……!)


悠真は机に突っ伏して心の中で叫んだ。

しかし隣の莉音はというと――

ほんの少しだけ、頬を赤くしていた。



放課後。

二人で帰り道。

まだ昼の冷やかしを引きずっている悠真が、ため息をつく。


「……マジで疲れた」

「ふふ、面白かったね」

「面白くねぇよ」

「だってさ、否定するときの悠真くん、めっちゃ必死で」

「いや、当然だろ」

「でも、ちょっと嬉しかった」


「……は?」


莉音が、照れくさそうに笑う。

「“違う”って即答してくれたけど、

 なんか、“ちゃんと意識してるんだな”って思って」


悠真は口を開きかけて、言葉を飲み込む。


(……違うって言ったけど。

たぶん、違うって言い切れなかったのは、俺の方かもしれない)


「……お前、ほんと陽キャだよな」

「それ、褒め言葉にしとくね」


夕焼けの中、

二人の影が並んで歩く。

ほんの少し距離が近くなった気がした。



(“付き合ってる”って言葉、

冗談のはずなのに……

なんでこんなに頭に残るんだろ)



〜翌日〜


教室に入ってすぐ、悠真は違和感に気づいた。


「……星野は?」


隣の席が、ぽっかり空いている。

いつもは昼からテンションMAXで「お昼いこ~!」と誘ってくるのに。


「まーた風邪だってさ」

と、クラスメイトが言った。

「またかよ!昨日あんなに元気だったのになー」


風邪。

たったそれだけのことなのに、

前よりも教室が少し静かに感じた。


(……別に、いなくても平和だけど)


そう思いながらも、ノートを開いても集中できない。

授業中、いつも後ろから飛んでくる小声のツッコミもない。

放課後、帰りの声もない。


(……静かすぎる)


気づけば、校門を出る足が自然と彼女の家の方へ向かっていた。

(べ、別に心配とかじゃない。風邪の確認だ。ただの情報収集だ)

と自分に言い訳しながら。



星野家の前に立つと、門の前に自転車が止まっていた。

呼び鈴を押す勇気はなく、数分立ち尽くす。

そのとき、二階の窓が少し開いて、かすかな声がした。


「……ん? 悠真くん?」


顔を出したのは、マスク姿の莉音。

頬が少し赤く、髪も寝ぐせ気味。


「あ、いや、通りかかっただけで」

「通りかかって我が家の前立ち止まる人いる?」

「……調査」

「なに調査!?(笑)」


莉音が小さく笑って、咳をする。

悠真は慌てて口を開く。


「……大丈夫か?」

「んー、ちょっと熱あるけど大丈夫。

 ていうか、なんでそんな真顔で心配してんの」

「別に。俺は“風邪の観察者”だから」

「観察者ってなに(笑)」


莉音がまた笑って、声が少し掠れる。

その笑い方が、いつもの元気よりも柔らかくて――

悠真は、胸の奥がじんわりと熱くなった。


(……ああ、やっぱり、

いないと変だわ)


「……あんま喋んなよ。治りかけで悪化すんぞ」

「うん……優しいね、悠真くん」

「優しくねぇよ」

「優しいよ」


ほんの数秒の沈黙。

風にカーテンが揺れる。

その隙間から差し込む光が、

莉音の髪を少しだけ金色に照らした。


「……ありがと。来てくれて」

「だから、通りかかっただけだって」

「はいはい、ツンデレ観察者くん」


悠真はため息をついて、

「……早く治せよ」

とだけ言い残して帰ろうとした。


でも背を向ける瞬間、

後ろから小さな声がした。


「ねぇ、悠真くん」

「ん?」

「また一緒に帰ろうね」


振り返ると、

窓の向こうで、莉音が微笑んでいた。



帰り道。

少し冷たい風の中、悠真は空を見上げた。


(“また一緒に帰ろう”か……

そんな言葉で、

なんでこんなにあったかいんだろ)


手をポケットに突っ込みながら、

思わず笑ってしまう。


(風邪、早く治せよ。……バカ陽キャ)



翌朝。

いつも通りの教室。

でも、席の隣がぽっかり空いている光景に――

悠真は思わず苦笑した。


(……昨日まで風邪だったし、今日も休みか)


そう思いながらノートを開く。

……と、その時。


「おはよー!」


その明るい声に、クラス中が振り返った。

ドアのところに立っていたのは、

マスク姿の星野莉音。


「星野! もう大丈夫なのか?」

「うん! 昨日いっぱい寝たら元気になった!」

「また寝すぎて寝坊しかけたけど!」


みんなが笑い、空気が一気に明るくなる。

その中心で、莉音が手を振っていた。

――けど、悠真は、なぜか素直に手を振り返せなかった。


(……なんでだ? 昨日、あんなに気になってたのに)


教室の笑い声に混じって、

自分の鼓動だけがやけに大きく響く。



昼休み。

莉音が、いつものように悠真の机の前に立つ。


「ねぇねぇ、昨日うち目的で来たんでしょ?」

「は? 来てねぇし通りかかっただけ」

「お母さんが言ってたよ、“黒髪の男の子が門の前でウロウロしてた”って」

「……か、観察者だ」

「うわ出た、まだ言う(笑)」


莉音がケラケラ笑う。

その笑顔を見た瞬間、

昨日の“声の掠れた彼女”が頭をよぎる。


(……よかった。ちゃんと戻ってきた)


だけど口から出たのは、全然違う言葉だった。


「……もう、無理すんなよ」

「ん?」

「寝不足とか、無茶とか、そういうの」

「うん、心配してくれたの?」

「ち、違ぇし!」

「またツンデレ観察者くんだ~!」


するとそれを聞いたクラスメイトが面白がり「観察者くん」呼びがクラスに伝染し、

なぜかみんなが真似するようになった。

「黒崎観察者~!」

「お前らやめろぉ!」


莉音は笑い転げながら言った。

「ありがとね、悠真くん」

「だから別に心配じゃねぇって!」

「……でも、ちゃんと嬉しかったよ」


その一言に、悠真は少しだけ目をそらした。


(……まじでズルい。そういう言い方)



放課後。

二人で帰る道。

風が少し冷たくなってきた秋の夕暮れ。


「ねぇ悠真くん」

「ん?」

「風邪うつってない?大丈夫?」

「俺、健康優良陰キャだから」

「なにそれ(笑)」


莉音が小さく笑って、

少し前を歩く。


その背中を見ながら、悠真は思った。


(“おかえり”って言えばいいのに)

(でもそれを言ったら、たぶん……

なんか、戻れなくなる気がする)


だから代わりに、

いつもの調子で言った。


「……明日、またバカみたいな話聞かせろよ」

「了解、観察者くん」


ふたりの笑い声が、

夕焼けに溶けて消えていく。



“言えばいいのに”

その一言を、まだ心の中に隠したまま。


【第三話・完】

ありがとー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ