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ぜんまい仕掛けの傀儡王~厄災の魔王は民を愛する~【改訂前】  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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第2章 怖いよ【2】

 食事を終えて村に出ると、アルクスとラプトールは畑の様子を見に行った。活力を取り戻した民が丁寧に手入れをする畑は充分に潤い、着実に復活への道を辿っていた。

「王様!」

 明るい声がかけられる。ふたりのもとに子どもたちが駆け寄って来た。

「見て! 新しい芽が出たんだ!」

 子どもに手を引かれ、村の中央の畑を覗き込む。あまり状態のよくない苗のそばに、色の濃い新鮮な芽が顔を出していた。

「良い調子だ。しかし、この貧しい土地にしては農作物がよくできていたな」

「貧しい土地でも育つ農作物の苗をウォーカーが作ってくれたからね」

 畑のそばで休憩する農夫が言う。この数日で、民の血色もだいぶ良くなった。

「ほう。研究というものは素晴らしい」

「お褒めに預かり光栄だわ」

 穏やかに言いつつ、ウォーカーが歩み寄って来る。ウォーカーは王都の研究所に所属していたことがあり、その頃に生み出した苗だったのだろう。

「ウォーカーは昔から研究バカだったからな」

 続いて顔を出したホープが、悪戯っぽく言った。ウォーカーは目を細め、呆れた表情でホープを睨《ね》めつけた。

「ただの馬鹿のあんたに言われたくないわ」

「腹立つな」

 ホープの後ろでイヴとハンターがくすりと笑う。こういったやり取りはいつものことのようだ。

「王様」イヴが言う。「この村の病気の者はすべて治癒が完了しました」

「そうか。それは何よりだ。ルーメンは健康長寿の村になるだろうな」

 イヴはほとんどの病気を治癒することができる。この村では疫病すら意味を成さなくなり、どこの村よりも健康な民で溢れるようになるはずだ。この村の現状をしれば、外の村からも助けを求める者が来るようになるかもしれない。アルクスとしては、救われたいと願う者を見捨てるつもりはなかった。

「マークが来ただろう? 眩暈がすると言っていた」

「はい。来ましたが、特に病気ということではありませんでした。疲れているのかもしれません」

「そうか」

 イヴの治癒の魔法は、疲労には効果を発揮しない。あくまで病にのみ効力を持つ魔法なのだ。疲労を溜めた結果の病であるなら、疲労ごと回復することができるだろう。

 そこへ、明るい声がかけられる。眩暈のことなどすっかり忘れたような笑顔で歩み寄って来るのはマークだった。その隣に、見慣れない茶髪の青年の姿がある。

「兄のトマスです」

 マークに紹介された青年――トマスは、小さく辞儀をして見せた。

「どうも。村が一変していたので驚きましたよ」

 トマスはアルクスに微笑みかける。ルーメンの新しい王となったアルクスのことはマークから聞いているようだ。

「街はどんな状況だ?」

「ダフニス王の暗殺未遂があったらしい。隣国の軍が攻め込んだそうです」

 ソル・フォルマ王国は、聖騎士星団と呼ばれる騎士隊と、宮廷魔法使いで構成される魔法隊が壊滅している。小国への進軍の隙を狙われたのだ。その点において、ダフニス王は愚かであったと言わざるを得ない。

「その際に、国境付近の村や町が破壊されました。王宮も壊滅状態という噂です」

「その後のダフニス王は?」

「王宮の騎士隊と魔法隊を再結成するため、徴兵を始めています。腕に覚えのある者からない者まで、王都とその周辺の町や村から兵が集められています」

「なぜあんたは徴兵されなかったんだ?」

 怪訝な表情のホープに、トマスは薄い笑みを湛えたまま軽く肩をすくめる。

「徴兵の通達が来る前に逃げて来たんだ。ここなら指令も届かない」

 農村であるルーメンに徴兵の通達が来ても、まともな兵力にはならない。その指令は意味を成さなかったことだろう。この村に戻って来たのがトマスだけということは、この村から街に出た者がほとんどいないということだ。

「となると」アルクスは言う。「この国は隣国との戦争になるようだな」

「そうなるでしょう。戦火はこの村にも届くかもしれません」

「それはない。この私がいるのだからな」

 自信とともに言うアルクスに、従属たちは同意するように頷く。この村に降りかかる火の粉は、アルクスの前では村に届く前に塵と化すことだろう。

「この村を知れば」と、ウォーカー。「巻き込まれた民が逃げて来るかもしれないわ」

「ふむ。では、そのためにこの村の領地を広げるとしよう」

 ルーメンはさほど大きな村ではない。その代わり、暗い森に囲まれている。森を切り拓けば、村の領地を拡大することができるはずだ。

「動ける民を集めてくれ。森を切り拓いて家を建てる」

「森には魔獣がいる」ホープが言う。「力のない民には危険だ」

「そうか。だが、狩ってしまえば問題ないな」

 魔獣のほとんどは大した力を持たない。それも、魔王から見れば、なのだが。

「森を切り拓く者の他に、戦える民を同行させる。民の中から選抜するように」

 健康を取り戻した民の中には、戦力となり得る者もいるだろう。民にさらなる活力を与えることができる。アルクスはそう確信していた。

「ついでに、お前たちも戦闘の訓練に行くか。お前たちにも武器を用意してやる」

 ウォーカーは、アルクスの仮面を村の技工士と用意したと言っていた。この精度の高い仮面を作れたのなら、武器を作るくらいならさほど難しいことではないだろう。

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