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第7話 勘違い


俺達は再びコアルームに戻ってきた。

ここで皆の仕事の起点になるダンジョン編集を行う必要があるからだ。


どういう事かと言うと、例えば佐俣に任せた水路作りや羽根田先生に任せた湖作り...これらはギフトの力を使えば可能であると判断して仕事を振ったわけだが、ゼロから作れるわけではない。


水路も湖もDPを使用して地形の改変が必要になる。

そしてそれにかかるコストを確認する為には、まずダンジョンメニューを開かない事には始まらないのだ。


だったら確認してから仕事を割り振れよ、と思うかもしれないが、予め「この仕事は誰々の担当」と決めておきたかった。

割り振った仕事はどれも優先的に行う必要があり、今日取り掛かれないとしても数日のうちに着手する必要があったからだ。


これらの仕事は連鎖している。

礼護に振った畑作りには安定した水の供給が必要で、その為には佐俣に任せた水路が必要。

そして水路を作るためには羽根田先生に任せた湖が必要、といった具合だ。


ただこれらはあくまでパッと思い付いた案に過ぎない。


湖を作らなくとも近くの水源を探してそこから水を引いてくる事が出来れば水路のみで事足りるし、もっと言えば水路を作らなくとも羽根田先生の【天候操作】で畑の水やりなどは出来る。


とはいえ湖や水路が出来れば水浴びで衛生面の水準は上がるし、飲水の問題にも頭を悩ませずに済むだろう。

羽根田先生のリソースを畑作り以外に割くことが出来るというメリットもある。


まぁ何が言いたいかと言うと湖と水路が出来るのが"理想"という事。

その辺りをひっくるめて必要なDPと今使えるDPを見比べ、妥協点を探していく必要があるわけだ。


「つまり、優先的にやるべき事の中でも更に優先順位を付ける必要があるわけですよね?」

「...さすが先生。分かりやすい。」


コアルームに戻ってくるまでの道中で俺がダラダラと喋っていた考えを、羽根田先生がめちゃくちゃ簡潔にまとめてくれた。


「そんでみっくん。優先順位は決まってるのー?」

「ああ。一応な。」


間延びした喋り方で聞いてくる吾武にそう答える。


「まずはトイレ。上から入れた以上、下から出るのは止められない。」

「言い方ぁ〜。」

「あとは遺跡入口の隠蔽。礼護に任せたけど、DPで安く済むならちゃちゃっと済ませたい。」

「侵入者とか怖ぇもんな!」

「...うむ。そうしたら畑作りにすぐ移れるな。」

「残りは正直甲乙つけ難いけど、食料と飲水関連かな。湖やら水路やらがすぐには作れなさそうなら、とりあえずは小さくてもいいからため池を作っときたい。」


風呂代わりの水浴びと、最悪飲水として使用する為だ。


「って感じでとりあえずダンジョンメニューを見てこう。」

「分かった。私も気付いたことがあったら意見出すね。」

「うん。頼りにしてる。」


俺はやる気充分といった顔の有栖川に簡単に返事をした後、ダンジョンメニューを操作していく。




――――――――――




「これは良い意味で予想外だな。」


ダンジョンメニューからダンジョン編集を選択すると、階層やエリアの追加などの他に施設作成関連の項目が並んでいる。


そこで俺は1つ、勘違いがあった事に気が付いた。


【ショップ】と【ダンジョン編集】はまったくの別物である、という事だ。

ここを同一視していたせいで、DPの相場観を勘違いしていた。


どういう事かと言うと、ダンジョン編集で【小屋】を作ろうとすると必要なDPは100DPだったのだが、ショップの相場観で言うと100DPなんて1000円分くらいの物しか購入できない。


1000円で小屋が建つわけないだろ、という考えがあったため、水路作りや湖作りといった大規模工事は人力に頼る部分が大きいと思っていた。

第1階層の平原に2000DPくらい突っ込んで水路や湖に使用する大穴や溝を作る...というイメージでいたのだ。


しかし蓋を開けてみたら思いの外安い。

大穴や溝を作ってそこに佐俣や羽根田先生のギフトで水を入れていく、などという手間をかけずとも、200DP程支払えばどちらも実現してしまうのだ。


「よく考えてみたら、エリアの追加が500DPだもんな...。ペットボトルの水が10DPって事は、水50本分のコストで平原が買えるわけないよなー。」


ショップは異世界から物を引っ張ってくる分コストが割高になる、という事なのだろうか。

その辺の事情は分からないが、ダンジョン編集には思った以上にDPがかからないというのは非常に有難い事実だった。


「...水を買ったのは、無駄使いだったな。」


と反省の声を漏らしたのは礼護だ。

けれど...


「それは俺も同じ。ランタンに80DP払うなら、ダンジョン編集で明かりをつければ良かったわ。」


まぁこれは勉強代ということで勘弁してもらおう。

皆も俺や礼護を責めるなどということは無く、むしろ事態が好転したことを喜んでいた。


「よし!ともかくこれでだいぶ楽になるな。」


俺は気持ちを切り替えてダンジョン編集を行っていく。


まずは優先順位第1位のトイレ。

こちらはダンジョン編集から【小屋】を選んで設置する事にする。

邪神の居た部屋で行った初期設定と同じくプレビュー画面が現れ、そこから任意の場所に設置出来るようだ。


1つはコアルームから出てすぐの遺跡エリアの広間に設置した。

恐らくダンジョンに侵入してくる者や、人型の魔物向けなのだろう...オプションでトイレも追加出来たので小屋の隅に追加しておく。

小屋は木造で8畳ほどの広さが有り100DP、トイレは汲み取り式で10DPだ。

いずれはショップの方でウォシュレット付きの便座を購入したいが、そちらは2,000DPと高額な上、動力の問題があるので追追考えよう。


そしてこの小屋とトイレセットを地上部分にも設置する。

場所は、平原に空いた穴...遺跡エリアへの入口だ。


この小屋自体は平原の中にポツンと置かれてしまうので目立ってしまうのだが、【ボロ小屋】という80DPで設置できる施設にする事でギリギリセーフという事にした。


遺跡エリアへの入口にボロ小屋を載せてしまうことで、床板を剥がさないと入口が露出しない形にした。

後で床下の加工もしておかないとな。



続いて【湖】の設置を行うためメニューを見ていく。

こちらは水棲の魔物向けなのか、ダンジョン編集で作る事が出来た。

が、もっと丁度いいのがある。


【池】だ。

説明欄を見ると、飲水としても利用できるらしいし、大きさも小さくて使い勝手が良さそうなのでこちらを採用する。


平原エリアに設置する場合は50DPで済むのでお買い得だった。

池はいわゆる"無限湧き"らしいので規模は小さめに設定して、小屋のすぐ裏手に設置した。

これなら大規模な田んぼでも作らない限り水路はだし、ジョウロなどがあれば畑の世話には困らないと思う。


ここまでで合計250DPの支出。

残りのDPは2,604DPだ。


思いのほか低コストで最低限必要な設備が揃えられたなーなどと考えていたら、有栖川から声がかかる。


「あの、御厨くん。」

「ん?」

「贅沢なこと言うなーって思われちゃうかもなんだけど..」

「いいよ、言って?」

「じゃあ、えっとね。...飲水用と、水浴び用と、畑の水やり用はそれぞれ分けたいかなーって。」

「...ああ、確かに。」


飲水問題に頭を悩ませ過ぎて「飲水として利用可」という説明文で思考を放棄してしまった。

考えてみれば、人が体を洗ったり屋外で虫や動物が訪れたりする水を飲むのは抵抗がある。


「意見出してくれてありがと。そしたら遺跡エリアの広間にもう2つ作ろう。」

「うん。ありがとう!」


遺跡とはそもそも人工的建造物の成れの果てだ。

だからなのか池との相性も悪くなく、コストも100DPで済む。

2つ作っても200DPだ。


ちなみに【温泉】や【風呂】といった設備はダンジョン編集の中には無かった。

ダンジョンへの侵入者やダンジョンに巣食う魔物達にとって最低限必要な物しか作れないのかもしれない。


「あ、だったらさー。」


と俺達のやり取りを見ていた吾武が注文を出す。


「水浴び用の池には目隠しが欲しいなー。...あ、みっくんがわたし達の裸をどうしても見たいって言うなら話は別だけどぉ〜。」

「...わたし達?有栖川と羽根田先生の裸はもちろん見たいが、なぜ吾武がそこに含まれてるみたいな言い方をするんだ?」

「はいみっくんきらーい。」

「「御厨くん!?」」


水浴び用の池には目隠し用として小屋を作る事にした。

これはちょっとした工夫でいい感じに仕上がった。

まず小屋を作り、そこに池を作るのだ。

そうする事で、小屋の床板が池を避けた形で設置され、見た目だけで言えば室内温泉の様な形が出来上がった。


「...よし。とりあえずこれで最優先事項は達成出来たかな。...みんなごめんな?仕事を割り振ったけど、結構変更になりそうだ。」

「そんなん全然いいぜ。ってかだいぶ省略出来てむしろラッキーっしょ。」

「...だな。あと優先すべきなのは、食料問題か?」

「ああそうだな。それとDPを稼ぐ手段。この2つは引き続き優先的に取り掛からないと詰む。」


最優先で必要な施設を作った後は、最低限必要な日用品を購入した。

トイレットペーパー30DP。

タオル100DP。

石鹸50DP。

下着500DP。

歯磨きセット60DP。

諸々ひっくるめて残りのDPは1,668DP。

ここから食費も削られていくし、かなりカツカツだ。


今の時刻は恐らく15時頃。

もう少し動いていきたいところだな。


「じゃあ仕切り直してもう一度仕事を割り振るぞ。」


皆の顔を見回して、俺はそう宣言した。


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