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第5話 このままだと餓死します


「うぉー!やっと外だー!!」


いつの間にか先頭に立っていた吾武が元気いっぱいに叫ぶ。


1時間程遺跡を探索した俺達は、最後に階段を上りようやく地上へと出てこられた。


遺跡は簡単な作りだったし構造も事前に把握していたので特に迷うことは無かったのだが、各小部屋をチェックしたり、どんな防衛策を打つかを考えていたりした関係でそれなりの時間がかかってしまった。


「なんだか久しぶりにお日様を見る気がしますねー。」


階段を登った先は見渡す限りの平原で、天気は快晴。

太陽の位置的に昼の少し前くらいだろうか。


薄暗い宮殿に24時間軟禁された後に、さらに薄暗い遺跡の中を小一時間歩いていたこともあって、この景色にはグッとくるものがあった。


ダンジョンの位置は初期設定で決めた通りの場所のようだ。

数km先には端が確認できないほど巨大な森が見えており、反対側に目をやると遠くに山々があるのが分かる。

中々に景観が良い。

それと気温が丁度良いのも助かる。

俺達は今は学校指定の制服(羽根田先生はスーツ)を着ているが、あまりに寒いようだったら防寒装備にDPを消費する羽目になったからな。



遺跡の入口はぽっかりとくり抜かれた穴の様になっていて、この平原の中でなんだか不自然に浮いていた。

ここも何かしらで隠さないとな。

人通りがある様には見えないが、万が一見つかってしまったら困る。

今は何の防衛策も取っていないし、俺達だってギフトとやらが使いこなせる訳でもない。

魔王が管理するダンジョンという存在は、人類にとって脅威そのものだろう。

成長し切る前に潰しておこうと考えてもなんらおかしくはないのだ。


「んーっ!...とりあえず、優先順位でも決めるかー。」


背の低い草に覆われた平原に寝転がり、身体を伸ばしながらそんな提案をしてみた。


「そうだね。まず何からしよっか?」

「えーと、やるべき事はいくらでもありそうですが...紙とペンが欲しいところですね。」

「それも買ってくりゃよかったなー。どうせならここで話し合いてぇし。」

「明るいし気持ちいいですもんね。」


そんな風に皆で原っぱに寝転がりながら話していると、礼護が声を挙げる。


「...俺が買いに行ってくるか?寄り道せずに戻れば片道10分くらいだろう。」

「いやそれは礼護に悪いな。」

「いや。俺は頭脳労働は苦手だ。肉体労働...って言うほどでも無いが、そういうのは優先的にはやらせてくれ。」

「あ、だったら先生も一緒に行きます!なんなら先生は頭脳労働も肉体労働も苦手なので!」

「ピヨコせんせーは可愛いからむしろポンコツでいて欲しいー。」


うだうだしてても仕方ない、という事で、お言葉に甘えて2人に任せる事にした。

俺達は2人を待つ間に今後の行動の優先順位を話し合う事にする。


紙とペンが届くまでの間にいくつかの候補くらいは出しておきたいところだ。



――――――――――



俺、佐俣、有栖川、吾武の4人で話し合いをして15分ほど経った頃、礼護と羽根田先生が戻ってきた。


「ただいまですー。」

「あ。先生、礼護。おつかいありがとうございます。...なんか早かったですね?」


往復で20分はかかるの思ったのだが。

と、疑問に思っていると、羽根田先生の顔が紅潮していく。


「いや、その...。郷田くんが、先生を...えっと...。」

「...ッ!?抱いたのか!?15分で!?」

「そんなわけあるか。身体が鈍ると思ってトレーニングがてら走ってきたんだ。先生を持った状態で。」

「は?」

「あぅ...。」


先生を持つ、という言葉は初めて聞いた。

2人の身長差は大人と子供(年齢的には逆だが)くらいあるので、担ぎあげるのはわけないとは思うけれど...。


「わ。先生顔真っ赤ですよ?」

「あ、有栖川さんまでやめてください!」

「レゴ助ってたまに奇行に走るよなー。...ん?それは?」


先生はノートとペンを小脇に抱えていたが、礼護は片手に別のものを抱えている。


「適当にパンと飲み物を買ってきた。体内時計的にはどうか分からんが、ちょうど昼くらいだろうからな。...余計だったか?」

「いやナイスだ。ありがとな。」


そういえば少し小腹が空いてきた。

邪神の居たあの空間では食事や睡眠の欲求は無かったが、あれはあの空間だけの特殊な状態だったのだろう。

勝手に身体を弄られたりしてなくて良かった。


「あ、そうだ。ノートとペンをお渡ししておきますね。」

「すみません、ありがとうございます。...ん?なんか書いてある?」

「えと。ダンジョンメニューを見て先生なりに気付いたことなんかをメモして来ました。ちょっとだけですけど。」


ノートを開くとそこには...


・2DP/時

・パンの詰め合わせ=50DP、水2L=10DP、紙コップ10DP

・ショップでの相場は1DP=10円くらい?

・残りDP 2852DP

・【ダンジョンステータス】と唱えれば、どこに居てもダンジョンの状態を確認できる。


と書かれていた。


「これって...」

「ですです。DPが増えていたんです。」

「ダンジョン領域内の魔力を吸収する、ってやつですかね。自動回復で1日48DPかー。...結構キツいな。」


最低限の飲食をするだけでざっと倍はかかる。

これは、優先順位を間違えると"詰む"かも知れない。


「とりあえず礼護達が来るまでに出てきた"優先的にやるべき事"を書いてくから、他に思い付いた事があったら言ってくれ。飲み食いしながらで良いから。」


俺は左手でパンを貪りながら右手でノートに書き連ねていく。

お行儀は死ぬほど悪いが、地面に寝転びながらこれをするのは中々気分がよかった。



ノートに書いたTo-Doリストはこんな感じだ。


住環境

・寝所の確保

・食料、飲水の調達

・衣服の調達


防衛策

・遺跡入口の隠蔽

・罠の設置

・遺跡の迷路化

・魔物の召喚


俺がノートに書いた内容を有栖川と羽根田先生が覗き込む。

ちなみに礼護は腕立て中。

佐俣と吾武は礼護をからかって遊んでいる。


「...あ。御厨くん。」

「ん?」

「衛生面も優先かも。」

「あぁ、風呂とかか?」

「それも大事だけど...。お、お手洗いとか。」

「...今、か?」

「あ、いや、今はまだ大丈夫!」

「先生もまだ平気ですが...時間の問題ですよね...。」


確かにめちゃくちゃ大事だ。

男だけならその辺の草むらでして来い、と言えるがそうもいかない。


しかし俺の察しが悪いせいで有栖川を赤面させてしまったな。

正直助かった(?)


「あとはこのリストの中だと、食料と飲水の確保は思ったより急務になりそうですね。このままだと飢え死にしちゃいます...。」

「ですね。もしくはDPを確保する手段をどうにかするか。」


現状、普通に生きているだけでDPの収支はマイナスになる。

DPが尽きる前にどうにかしないとマズイ。


「一先ずこのリストを元に手分けして取りかかりましょうか。DPを使わずに出来そうな事はなるべく人力でやりましょう。」

「割り振りは御厨くんに任せても良い?学級委員だったし。」

「あー別に...ってちょっと待って。もしかして俺がダンジョン主になったり同盟の盟主になったのってそれが理由??」

「あれ?気付いてなかったの?」

「学級委員なんてほぼ運ゲーで決まったやつじゃん!」

「そ、そんな事は無いですよー。先生もみんなも御厨君の事は信頼してますから。」

「ほら先生もこう言ってるでしょ?」


なんか丸め込もうとしてる気がするが...。

言ってても仕方がないのでとりあえずやるか。


「おーい3人ともー!遊んでないでこっち来い。仕事割り振るぞー!」

「「はーい!」」

「む。俺は別に遊んではいないが...。」


俺は礼護達を呼びながらTo-Doリストを睨みつけ、頭を回転させる。


ノリの軽さとは程遠い、責任の重さを感じながら。


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