第1話 邪神の悪戯
「君達には、ボクの世界で【魔王】をやってもらいたいんだ。」
自らを【邪神ヨグ】と名乗ったそいつは、何でもない事のようにそう言った。
薄暗い部屋。
そこはどこぞの宮殿の一室を思わせる作りで、俺達はただ棒立ちのまま並んでいる。
声は出せず、身動きも取れない。
唯一動かせるのは首と眼球だけ。
目に見える形で拘束されているわけでも無いのに、だ。
その異常な状況がこの神を自称する者への恐怖に直結していた。
豪奢な服を纏い、仮面で顔を隠したその姿は不気味そのもので、声からも年齢や性別は読み取れない。
「突然の事で驚いていると思う。君達は"ただそこに居た"というだけの理由でボクに拐かされた。元の世界に帰る術も無い。それについての謝罪はしないし、そもそも何の反省も無いから、まぁ運が悪かったと諦めてね。」
あまりにも理不尽なその言い分に、周りに立つ同級生達から殺気が迸る。
声を奪われていなければ暴言の嵐が吹き荒れていた事だろう。
首しか動かせないので視界に収まる範囲でしか把握出来ないが、どうやらここには俺達の学校の生徒と教員約300人その全てが集められている様だ。
近くには同級生しか居ない事と、遡れる記憶を参照するに、全校集会で集まったところを丸ごと拐かされたらしい。
何とも馬鹿げた話だが。
「早速だけど、これから君達には初期設定を行ってもらうよ。魔王の仕事はダンジョンの運営だ。与えられたポイント内でダンジョンの位置や形状なんかを選んで設定してね。自分の【ギフト】に合ったダンジョン作りをするといいよ。」
邪神ヨグがそう言うと、俺達の目の前にウィンドウ画面が出現した。
「制限時間は24時間。その時間内でダンジョンの設定を終わらせて。...あっ。【同盟】は組んでおいた方がいいよ。イベントなんかの取り分は人数割りになっちゃうけど、それを補って余りあるメリットがあるから。まぁ詳しくはヘルプ機能を使って自分で調べてね。それじゃあまた24時間後に。」
言うだけ言うと邪神は姿を消した。
瞬間、身体の自由が戻る。
「...っざけんなッ!!!」
そう誰かが叫んだのを皮切りに、部屋は怒号や困惑の声で満たされていく。
教員の一部が事態の収集を図るも、そんなものは焼き石に水で、結局1時間程騒ぎは続いた。
――――――――――
この1時間で分かったことは...
・この部屋には出口が無いということ。
・飲み物や食事は無いが、喉の乾きを感じない事からそもそも飲食の必要が無いと思われること。
・自傷も他傷も不可能であるという事。
と、これくらいだ。
喉を枯らすことなく叫び続けたり、暴れて教員を殴ったり、そこら中の壁に体当たりをかましてくれた者たちのおかげでこれらの事が分かった。
ヤンキーも役に立つ事があるんだな。
そしてそんな彼らも1時間もすれば落ち着いてくるもので、渋々といった様子ながらも目の前に浮かんでいるウィンドウを操作し始めていた。
俺はと言えば、彼らの様子をチラ見しながらもウィンドウ内にあるヘルプ機能を使って、初期設定を行う準備をしている。
つまり下調べだ。
あらかた目を通し終えた俺は、邪神の言っていた【同盟】を組むべく動き出した。
ヘルプを読み込んだ結果、やはり同盟のメリットは大きいと判断した為だ。
同盟を組むと、同盟に加盟した者が持つギフトで1つのダンジョンを運営出来る。
同盟には最大で10人まで加盟出来るので、10個のギフトの恩恵を1つのダンジョンに組み込むことが出来るのだ。
更に同盟のランクを上げることで加盟できる人数が増えるらしい。
その恩恵は、単独で運営する場合とは比べるべくも無い。
「おっ。いたいた。みっくーん!こっちで集まってるからはよ来いよー!」
同盟相手を探す為に動き出そうとした時、俺に声を書ける男がいた。
クラスメイトの佐俣だ。
「集まってるって...いつものメンツ?」
「プラスもう1人。オレらと組むっしょ?」
「もう1人が誰かによるけど...」
「むっふっふ。それは見てからのお楽しみよ。」
「お前はこんな状況でも元気だなー。」
そんな話をしながら佐俣の案内について行くと、部屋の隅に輪を作る形で座る4人組が居た。
「あ!みっくん!来ないから心配したよー。」
「他の人と組んだりはしないと思ったけど、ね?」
「...単独でやるかも、とは思ったな。」
「せ、先生も混ぜてもらってます...。」
俺が同盟相手として探そうとしていたメンツが勢揃いしていた。