追放された王妃なので農村で薬草を作っていたら息子たちがやってきて土下座しました、あら? 何かあったのかしらね⋯⋯。
息子たちの嫁選びに、私はことごとく失敗した。
長男の嫁は、家柄ばかりを鼻にかけて王宮の財産を浪費する虚栄の権化。
次男の嫁は、使用人を虐げ自らは何もせずに贅沢三昧。
三男の嫁に至っては、裏で反乱貴族と手を組んで善人の貴族たちを追い出す始末。
大失敗だった……。
そんな嫁たちに巧みに操られた息子たちは、私の夫であった前王が亡くなるとすぐに、私をまるで古びたおもちゃのように無情に切り捨てた。
そして私に与えられたのは、王宮の片隅にも及ばぬ、ひなびた農村の一軒家。
「息子なんて、嫁をもらったら他人よね……」
私は大きなため息をついて、一人きりの生活を始めた。
けれどこの村で、私は薬草と出会った。
うかつなことに全く知らなかったが、我が国の土壌は薬草作りに適しているらしい。
私は陽が昇る前に畑へ行き、ミントやカモミールを植え、昼にはハーブを乾燥棚に並べた。
夜はその日摘んだ薬草でお茶を淹れ、静かに詩集のページをめくる――。
王宮では考えられなかった穏やかな日々だ。
けれども気になったこともあった。村人たちが深刻な貧困に苦しんでいることだ。子どもが熱を出しても薬が買えず、老人は飢えて倒れていく。
私は薬草を分け与え、知識を伝えた。
働き者の村人たちのおかげで薬草園は大きくなり、村の大事な収入源となった。
「王妃様、ありがとうございます」
みんなは今でも私を<王妃>と呼んでくれる。心から感謝もしてくれて、私は利害関係に左右されない本当の友を得た。
そして数年後——。
門の前に三人の男が立っていた。
私の息子たちだった。
新王と王弟になった息子たちはあいかわらず豪華な服装をしていた。だけどその顔はどこか気まずそうだった。
「母上……お久しぶりです」
私は無言でハーブティーを差し出した。
「実は母上……王宮の財政が破綻寸前でして……」
どうやら嫁たちの贅沢三昧のせいで、国庫が空に近いらしい。
「王家の隠し財産があるという噂を聞きました。母上はご存知ですよね、どうぞ教えてください」
私が黙っていると息子たちは三人揃って地面に額をつけた。
(王家の隠し財産? ふふ、本当にこの子たちは……愚かね。そんなもの、最初から存在しないのに)
でも、私はその愚かさを逆手に取ることにした。
「ええ、知っているわ。でもそのためには王宮に戻って、図書室で記録を調べ直さないと——。でもあなたたちの妻は、私が戻ることを快く思わないでしょうね?」
「母上のためなら、妻たちに文句は言わせません!」
(私のため、じゃないわね。お金のため、でしょう?)
そう思いながらも、私は静かに頷いた。
「わかりました。わだかまりはありますが、《国のため》に戻ります」
王子たちは胸を撫で下ろし、私を王宮へ迎えた。
「おかえりなさいませ、王妃様」
頭を垂れる家臣たちの前を通り、私はまっすぐ執務室へ向かった。
そして財政の記録に目を通すと、眉をひそめるしかなかった。
「なんて酷いの……民からこんなにも重税を取っておきながら、支出は贅沢と浪費にまみれてる……」
まず取り掛かったのは、王宮内に蔓延る贅沢と無駄の一掃だった。
豪奢な晩餐会をなくした。見栄を張るためだけの宴など国に必要ではない。
王族が着飾るために浪費していた衣装や宝飾品には上限を設け、国庫から勝手に使えないようにした。
役職ばかり多く実働の伴わない官僚機構にもメスを入れた。似たような職務を持つ部署を統合し、不要な役職は容赦なく廃止した。
それから外交の名を借りて湯水のように使われていた贈答品や使節団の費用も細かく精査した。真に必要な交渉の場にのみ予算を配分した。
息子たちが文句を言わなかったか?
大丈夫。
あの子たちには満足する額の小遣いを与えていたから、私が何をしているかには全く気が付かなかった。
一ヶ月後、ようやく収支は赤字から脱した。
だが、それまでに積み上がった莫大な赤字はどうにもならない。
(収入を増やさなければ……。外貨を稼げるものはないかしら? そうだわ、薬草よ!)
私は農村で学んだ知識をもとに、薬草の国家管理と輸出制度を整備した。
各地方に薬草の栽培を奨励し、それを国が適正価格で買い取る制度を整える。これにより、農民たちは安定した収入を得られるようになり、荒れ果てていた農地にも緑が戻っていった。
さらに、薬草市場に課されていた厳しい規制を見直し、民間の薬商人たちと協力体制を築いた。品質を保ちながらも競争を促し、流通網は活気を取り戻した。
そして何より重要だったのは、海外との交易路を新たに切り開いたことだった。王国産の薬草は評判を呼び、外貨が流れ込むようになったのだ。
こうして国の財政は、再び息を吹き返し始めた。
その一方で、ひっそりと王子たちの権限をひとつずつ取り上げた。息子とその嫁たちは贅沢ができさえすれば国が少しずつ変わっていっても全く興味すら示さなかった。
「さあ、ここからが最終章よ」
大鉈を振るう時がいよいよきたのだ。
私は国民議会を設立した。
つまり君主制をなくしたのだ。
「母上! どういうことでしょうか、今日から僕たちは王族ではないと……!?」
「お義母様、私が王族ではないとはどういうことでしょうか!」
息子たちと嫁たちは大騒ぎを始めた。
だけどもう、遅いのだ——。
「あら、忘れたの? 私は《国のため》に戻ると言ったでしょう。この国は今日から、《共和国》よ」
「そ、そんな……」
仕事もせず、学びもせず、ただ特権だけにすがっていた元王子たちは、呆然とその場に立ち尽くした。
「母上、どうすればいいのですか?」
「学びなさい、そして働きなさい」
私の子育てにおける最大の失敗は、この言葉をもっと早くに息子たちに言わなかったことだ。
「そんな⋯⋯」
息子たちはわんわん泣いた。まるで小さい子供のように⋯⋯。
私は息子とその嫁たちを無一文で追放した。
そして今日——。
私は国民の前に立っている。
「この国をもっと発展させることをここに宣言します」
初代大統領として⋯⋯。