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君は春

作者: Nof

 春先の匂いが街を染める頃、僕はイヤホンを耳にはめていた。独特なバンドサウンドと川のせせらぎを思わせるその歌声に僕の心は重力が働いているかのように惹きつけられていた。ただ、それに相反した感情が頭の中を埋め尽くしていたのだった。バンドのボーカルを務める上原理央は「歌姫」とさえ讃えられていた。しかし、喉の不調が明らかになり、活動休止を打ち出したのであった。そのことが、バンド界隈にどよめきを与えたのは、想像に難くない。僕自身も、その発表には驚かされ、現実を受け入れらない気持ちと仕方がないだろうという言い聞かせが一気に襲ってきた記憶は今でも鮮明に残っている。信号の色が変わり、足を止めた辺りでスマホにメッセージが来ていたことに気が付いた。上原からだ。そう、実は僕と上原は幼馴染で、前まで恋人関係だったのだ。月並みな話で、バンドでの成功を夢に見ていた上原との毎日にどこか空しさを覚えだして、結局は僕から別れを切り出した。実際、彼女は歌が非常に上手くて僕自身も成功を願っていた。ただ、そんな夢に必死に生きてる彼女と何もせず淡々とした日々を過ごしていた僕とで乖離していくのを感じざるを得なかった。身勝手な話だとは思いつつも、二人の変化に彼女も気付いていたようだった。「ねぇ、今から会えない?」メッセージの内容は、そんな彼女からの誘いだった。正直、驚きは隠せなかったが、僕自身も彼女と話しをしたかったので、会うことにした。

 二人が待ち合わせをするのは、いつも駅前の喫茶店だった。「ごめんね、急に呼んじゃって。」「ううん、大丈夫だよ。」汗の流れるのを感じさせる沈黙の中、カップの音だけが響く。「それで、話って?」そんな切り出しで、静寂は破られた。「多分、あなたも知ってると思うんだけど、ほら私のバンド、活動休止することになったじゃない? 世間では、喉の不調でってことになってると思うんだけど、あなたにだけは本当のことを話しておきたくて...」 「というと?」 「実は、活動休止の理由って喉の不調だけじゃないの。」え、どういうことだ... 実は、もっと重大な病気にかかったのではないかとか色んな可能性が胸の奥をよぎった。言葉に詰まっていた僕を物ともしないような調子で、彼女は話を続ける。「本当はね、 

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