超回避性 勇者
「そなたは勇者に選ばれた!必ずしもあの魔王を討ち払い、この国に平和をもたらすのだ!」
「はい!かしこまりました!」
そうして勇者に選ばれた青年への式典が行われ、青年はクタクタになりながら兵舎へ帰る。
バタン…
扉を閉めて一人きりになった青年は頭を抱えてしゃがみ込む。
「俺が…勇者…絶対にむりだ。なんで俺なんかが、一介の兵士に過ぎないだろ…」
勇者に選ばれる人間は、なにもくじ引きのようなもので選ばれるわけではない、れっきとした選考基準をクリアした者が選ばれるのだ、少なくとも青年はそこまで卑下するような人間ではなかった。
「あんなに期待されてしまっては断ることもできないじゃないか…俺がもし魔王を討伐できなかったら?この国は滅んでしまうのか?そんな重大な責任を俺が背負うなんて…」
確かにそれはもっともである、勇者に魔王討伐を一任するなど国としてどうなのかと言われればそうである。しかし、国から全くバックアップがないわけではなかった。
勇者と冒険を共にするパーティメンバーを国の力を総動員して探し出していたのだ。
冒険者組合や魔術師ギルド、神殿など、国中から力のある者や専門の知識を持つ者を選抜していたのだ。
「明日はメンバーとの顔合わせか…俺なんかが勇者でパーティメンバーはどう思うのだろう?ただの一般人だぞ?特別な力なんてないし…それに対して他のメンバーは皆優秀な者ばかり…俺だけ場違いだ…」
勇者に選ばれる者はそのパーティのリーダー的存在となる。そのためそれなりの社交性も選抜基準である。
「俺は人づきあいが苦手なんだ…兵士をしているのだって命令に従っていればいいだけで煩わしい人間関係が少ないからなのに…」
それは少し間違っている、確かに命令を実行するだけの存在ではあるものの、兵士同士の連携も必要であるし、兵団の中でも派閥があったり上下関係があったりなど人間関係は割と複雑な方だ。
青年はどの派閥に入るのか選べないでいた。どちらの派閥にもいい顔も悪い顔もしなかった、どっちつかずというやつだ。
さらに責任を負いたくないという理由で出世にも消極的であった。
それがどう働いたのか、なぜか彼は高潔で謙虚といった評価を得るに至り、一目置かれる存在となっていた。もちろん青年はそのことに気づいてはいない。
「兵士として命令に従い、一つの駒として死んでいく…俺にはそれくらいしかできないから、責任を負いたくないからただの歩兵となったのに…」
意図せず青年の思惑とは真逆の結果に陥ってしまっていた。
「魔王を倒すとか王国を守るとか…やめてくれ…俺にそんなことできるわけない……」
ポキリ…
何かが折れたような音がした…
「あぁもう無理だ…全部リセットしたい、魔王討伐は他の誰かに任せて、明日の顔合わせも行かずに、兵士もやめて…誰にも会いたくない…」
そう呟き、青年は眠りにつこうとベッドに寝ころぶが頭の中をぐるぐると思考が巡りなかなか寝付けないでいた。
チュン…チュン…
「はっ!」
青年が目を覚ますとすでにパーティメンバーとの待ち合わせの時間になっていた。青年は体調不良で今日は行けないと伝言を頼むとすぐにベッドに潜る。
「やばい、本当に顔合わせを断ってしまった。何と思われているのだろう…どうせ悪口でも言われているのだ。わざわざ集まってもらったのに勇者である俺が行かないなど、すでに俺の信頼は失われているだろう…」
実際はそんなことはなかった。パーティメンバーは体調不良なら仕方ないと言って、集まった者達だけで食事をしたり雑談をしたりとそれなりに楽しんでいた。
それに勇者の噂は皆が知るほど有名であり、勇者に会えることを心待ちにしていた。
そんなこととはつゆ知らず、青年は起き上がることができなかった。
「予定をぶっちしたせいでさらに会いづらくなってしまった…どんな顔をして会えばいいのだろう…」
その日も結局また朝まで眠れず、次の日も顔合わせに行くことが出来なかった。
「今日もやっぱり出られなかった…俺はもうだめだ。勇者なのに弱すぎる…こんな勇者がいていいわけがない…」
「しかし、どうすれば?このままでは王国が滅びてしまうのか?」
「俺一人が死ぬのはいいが俺のせいで他人が死ぬのは嫌だ!そんな責任は負えない!」
青年はついに決意する。
「だったら…一人で魔王を倒そう!」
………なぜそうなるのであろうか?
「パーティにはもう合わせる顔がない、それなら魔王を一人で討伐する方が楽だ!魔王を討伐したらそのままどこかへ逃げよう!」
だそうである。
それから青年は誰にも見つからないよう、夜中に逃げるようにして兵舎を抜け出し、一人魔王城へと向かう。
道中何体もの魔物に出くわす。傷つくのがいやだった青年はすべての攻撃を回避した。
そしてついに魔王城への潜入を果たす。青年はいつも周囲に警戒心を抱いているからか、いくつもの巧妙に隠すように設置してあった罠を全て回避する。
誰かに会うのが嫌だった青年は見つからないように行動し、魔王の玉座に至るまでの道中に何体も配置されていたすべての魔王の配下との遭遇を回避した。
そして玉座の間。
「よくぞここまで一人でたどり着いたな勇者よ!そのことに免じ…て…?」
青年は魔王と顔を合わせた瞬間に全力の一撃を放って一瞬で魔王を倒す。
会話が苦手で煩わしかった青年は魔王との会話をも回避する。
「はぁ。終わった…あとは人気の少ないところでひっそりと暮らそう…」
こうして魔王討伐は青年一人によって成されることとなる。
王国では一人で魔王を討伐した勇者に対する褒賞が用意されるも、その所在が分からないために無しになった。
自らに対する称賛も、地位も、名誉も。
青年は自らに注がれることごとくをすべて回避する。
回避性パーソナリティ勇者
他にもいくつか短編を執筆しています!
ついでにもう一ついかがですか?
長編も現在連載中です。気が向いたらぜひそちらも。