表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観月異能奇譚  作者: 千歳叶
第五章 朧月
85/129

神永那津の計算

「三人とも、ご無事で何よりです」


 安堵したように微笑む昭人だが、直後笑みを消して「危険な目に遭わせてしまって申し訳ない」と眉を下げた。


「昭人のせいじゃない。全部研究所の奴らが悪いんだから」


 わたしがそう伝えても彼の纏う雰囲気は暗いまま。まだ恐怖が抜けきっていない様子の友也をカウンター席に座らせ、わたしもその隣席に腰掛けた。那津と昭人はカウンターの向こうに入る。まるでわたしと友也が客のようだ。


「篠条さん、一つ提案があるんですけど……いいですか?」


 那津が普段と同じ表情で切り出すと、昭人はすぐさま渋い顔になった。彼女の言いたいことを理解した上で反対したがっているような、そんな顔をしている。


「……一応、耳に入れておきましょう。賛同するかは別の問題ですが」

「ありがとうございます」


 不承不承といった様子の昭人を気にせず、那津がふわりと笑う。わたしと友也は彼女の言いたいことを察することさえできず、ただ二人の顔を交互に見やることしかできなかった。


「それじゃあさっそく。しばらく……そうですね、一週間くらい休みが欲しいです。私はその間に研究所へ行って、八辻さんの救出も含めて全部解決してきたいんですけど……駄目ですか?」

「は?」

「神永さん、それってどういう意味ですか……?」


 突拍子もない発言に、わたしは思わず低い声で聞き返す。友也も恐る恐るといった様子で尋ねていた。

 那津のした「提案」は、どう考えても危険なものだ。何をしでかすかわからない奴らの巣窟に乗り込み、綾を救出しようと言っているのだから。それに加えて「全部解決してきたい」なんて言っていた。どこまでを指しているかはわからないが、簡単なことではないことだけはわかる。

 そんなことを認められるわけがない。わたしの思考を読んだかのように、昭人が「却下します」と告げた。


「みすみす危険に飛び込ませるわけがないでしょう。いくらあなたの異能が強力とはいえ、認めるわけにはいきません」

「でも、篠条さんだってこれが最適解だって思ってるでしょう?」

「それは……そう、ですが。だからといって認められないものもあるのですよ」


 穏やかな口調だが、お互い譲歩する気はないようだ。一歩も進展しない言い合いを聞き流しながら、わたしの思考は横道に逸れていく。

 昭人が「強力」とまで評する那津の異能とは、一体。しかも今回の事件への「最適解」とも言っていた。わたしは口の中だけで唸り、腕を組んだ。……何もわからない。もう直接聞いてやろうか、このままだと埒があかないし。


「ここで言い合ってたって何も解決しません。一刻も早く行動するべきです」

「無策で突撃する方がリスクですよ。神永さんも拘束されてしまうかも――」

「ちょっと、二人だけで話進めないでほしいんだけど」


 なおも言い合う彼らに割り込んだ。半ば睨みつけるように見やると、二人は気まずそうな顔をして視線を逸らす。ようやく我に返ってくれたらしい。


「えっと、僕が口を挟んでいいのかわからないんですけど……」


 おずおずと口を開く友也と共に、那津と昭人の言い分を再確認する。那津はすぐにでも研究所へ突入したいが、昭人は情報を集めてからだ、と譲らない。心なしか漂う空気も険悪になってきている気がした。


「はいはい、喧嘩しない。まず確認したいんだけど、那津は勝算があって言ってるんだよね?」


 念のために、と問いかけると、那津は小さく頷く。彼女は割と慎重な性格だから、何の勝算もなしにこんな提案をするとは思っていなかった。ある意味予想通りだ。


「私の異能をうまく使えば、警戒されることなく侵入できるはずです」

「那津の異能か。そういえば聞いたことなかったけど、気配遮断か何かなの?」


 その名の通り、自分の気配を断つ異能――それが気配遮断である。研究員に察知されずに侵入するのであれば、この異能が必須と言ってもいいだろう。

 わたしの問いかけに、しかし那津は首を横に振った。


「いえ。私の異能は……精神操作です。研究員の思考を操って私を『実験体の一つ』と認識させれば警戒されません」

「精神操作ってそんな使い方もできるんだ」


 ふむふむ、と擬音がつきそうな頷き方をしていると、那津はきょとんと目を丸くさせる。びっくりしないんだ、そんな呟きも聞こえた。


「まぁ、蒼から聞いたことあるし。それより、那津の作戦に手を貸すことってできる?」


 さらっと問いかけたわたしに、三方向から視線が注がれる。彼らの目は「こいつ正気か?」と雄弁に語っていた。失礼にもほどがあるだろう。

 あの男の「研究所を叩き潰してほしい」なんて言葉を覚えていたのもあるが、それがなくてもわたしはこう言い出していたはずだ。自分に害を及ぼすかもしれない存在を見ているだけなんて我慢ならない。


「わたしも研究所に連れて行ってよ。那津の迷惑にはならないはずだから」


 模倣の異能であれば、最悪侵入がバレても問題ないはず。わたしは口の端を持ち上げて笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ