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観月異能奇譚  作者: 千歳叶
第四章 星月夜
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禁術使いの復讐劇〈二〉

「突然何を言い出すかと思ったら、まさか自分を正当化するとはな」


 水を向けられた男は笑う。昭人は一瞬だけ表情を消したものの、すぐさま微笑みを浮かべ直した。


「……では、きちんと説明していただきたい。何も『無実の罪を着せたと認めろ』と言っているわけではなく、納得できる理由が欲しいだけなのです」

「わかりきったことを。禁術使いは皆『未来視』の禁術に触れた。扱えずとも、知識を得ようとした時点で放逐の対象だ」

「それさ、俺を笑わせたくて言ってる?」


 昭人ではない声と口調。その言葉遣いには覚えがあった。穂村飛鳥、と名前を脳内で唱えると、予想通りの人物が部屋に踏み入ってくる。


「どーも。あんたたちに追い出された禁術使いだよ」


 穂村は抑揚のない声で言うと撫子の元へ向かう。久しぶりだね、などと軽口を叩きながら。


「確かに俺は未来が見えるよ。それが理由ならここへは戻れない。……まぁ、本当に未来視が禁術なら、だけど」

「何が言いたいの? ……なんて、術者協会の悲願を知ってれば聞かなくてもわかるか」


 恭介が一人で納得している。穂村は一瞬胡乱な目をして、あんた誰、と呟いた。


「俺のことは置いといて、君の主張を聞かせてよ」

「はぁ……。術者協会は、最終的に『異能を上回る力』を目指してる。いくら異能者でも未来を知ることはできない。だから、未来視は協会の最終目標――悲願である、とされていた」

「……それ、おかしくない?」


 思わず口を挟んでしまい、しまった、と慌てる。榛家の目的がわかるまでは無言でいようと思っていたのに。

 わたしの声に振り向いた穂村は「あんたもいたんだ」と目を瞬かせる。そして頷いた。


「おかしいよ。最終目標を禁術に指定するなんて、矛盾以外の何物でもない」

「じゃあどうして禁術なんかになったの?」

「さぁ、なんでだろうね。ちなみに未来視が禁術になったのは去年の秋だよ」


 それが何のヒントになると言うつもりだろうか。さらに追及しようとすると、男が顔を青ざめさせているのが見えた。


「俺が未来視の情報を集め始めたのは去年の春、協会を追い出されたのは去年の冬。……さて、なんで協会のお偉いさんは矛盾を生み出してまで未来視を禁術にした?」

「まさか、あんたへの嫌がらせが目的……とか言わないよね」

「その辺りのことは、俺よりも詳しい人がいるから。ねぇ、そこのお兄さん?」


 穂村が話を振ったのは、鷺沼派の特級術者。あんたならわかるでしょ、と確信を持った口ぶりで問いかける。


「四人……あぁ、今は五人だっけ? とにかく複数人の禁術使いを断罪して、その功績で特級の座にいるあんたなら」


 言葉の端々に悪意を滲ませ、穂村はにんまりと笑う。ぶるぶると震える男に、撫子が「お兄様」と声をかけた。


「あの者は自分を正当化したいだけです。あんな言い分に耳を貸す必要は――」

「そっちのあんた……撫子サン? あんたにも言っておきたいことがあるんだけど」


 スタスタと撫子に歩み寄った穂村は、元気そうで何より、と嘘くさく笑う。正面に立った彼は、警戒を露わにする女の顔を掴んで引き上げ、無理やり視線を合わせた。


「俺が『禁術なんて知らない』って叫んだとき、あんたが言った台詞は忘れてないよ」


 未成年を寮から引きずり出して、ろくな荷物すら持たせず追い出して。穂村は歌うような声色で撫子を追い詰める。


「それで、あんたは最後にこう言った。……あぁ、やっぱり覚えてないんだね」

「……知らなくとも、禁術が扱えるのは事実。そこに悪意がなかろうと許すわけにはいかない」

「いいや、違う。あんたは『無知は罪だ』って言ったんだ。知能のない虫けらを見るような目でね」


 そんなはずは――反射的に漏れたのであろう反発の言葉は、語尾が音になる前に霧散した。声もなく固まる撫子に、穂村は「でもさ」と続ける。


「俺が無知ならあんたは盲目だよね。兄貴の言葉を疑うどころか、証拠を探すことすらしないで罪だと断じるんだから」

「……」

「ねぇ撫子サン? 無知じゃないって言うなら教えてよ――あんたの盲目さは、俺の『無知』と何が違うの?」


 問いかけの体をしていながら、きっと穂村は答えを求めていない。彼は撫子を責めているのだろう。最大限好意的に解釈するなら、改心するよう説得している。

 ともかく、穂村と撫子のやり取りは決着がつきそうだ。残るは、昭人たちによって疑いを向けられている男のみ。


「お前の妹が咎められているが、どうする気だ? まさか尻尾を巻いて逃げ出すはずないよな」


 男は煽るような柊の言葉に舌打ちだけを返した。最初の態度はどこへやら、ずいぶんと余裕がないように見える。


「あぁ失敬。逃げ出す判断がつく分、負け犬の方がマシだ」

「お前……!」

「伊吹さん、そこまでにしてください」


 一触即発の空気を破ったのは昭人だ。彼は二人を止めると、ちらりとわたしたちの方を見た。

 恭介か、あるいは瑠璃か。誰に視線を送ったのかはわからないものの、何かの合図だろう。そうでなければ――月子が「そろそろね」と呟く理由がないのだから。

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