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観月異能奇譚  作者: 千歳叶
第四章 星月夜
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未来視、飛ぶ鳥を落とす

「……」


 お互いの間合いを探り合うような沈黙の中、先に口を開いたのは穂村だ。どこか気まずそうに「あのさ」と呟くと、窺うようにわたしを見やった。


「……今から話すこと、笑わないで聞いてほしいんだけど」

「内容による」

「はぁ?」

「冗談。真面目な話なら絶対笑わないから」


 声のトーンを変えることなく返す。本当かよ。そんな言葉を聞き流し、わたしは続きを促した。


「さっき、能勢が言ってただろ。……未来視って。あんたは信じる?」


 穂村の問いかけに首を傾げる。仮に未来視というものがあるなら、その言葉通り「未来を見る」ことができるのだろうか。……正直言って疑わしい。

 わたしの言わんとすることを理解したのか、穂村は「ま、嘘だと思うならそれでもいいけど」とふてくされた。こいつは小さな子供なのだろうか。


「とにかく、俺には未来が見える。未来が何一つ見えなかったり、見たものと違う未来が訪れることはないんだよ」

「自信ありすぎてなんか嫌なんだけど、その言い方」


 げんなりしながらも、わたしは「それで?」と問いかける。未来が見えると主張する人間が、わざわざ「信じる?」なんて言葉で試すとは思えないのだが。


「……でも、能勢は違う。あいつの未来はいつ見てもぼやけてて、はっきりしたことは何もわからなかった」

「普通は未来なんて見えないけどね」

「うるさい。……とにかく、俺にとってそんなことは初めてだったんだよ。だから調べた。埃被った文献から眉唾物のネット記事まで、全部目を通した。……けど」


 けど。その先の言葉を発することなく、穂村は口を閉ざしてしまう。だんだんとうつむく青年に続きを催促するのは酷に思えた。

 しばらく沈黙を保ち、穂村が再び声を発するのを待つ。やがて、彼は乾いた笑いをこぼした。


「俺が『禁術に手を出した』とかいう噂が広まって、協会どころか住んでた家まで追い出されてさ」


 しかも情報は得られなかったし。聞いているこちらが驚くほどあっけらかんと、湿度のない口調で言葉が紡がれていく。


「ただただリスクを冒しただけで、何にもならなかった。……そんな俺に声をかけてきたのが、篠条さん」

「昭人が? どうして」

「いや知らないけど。野宿する俺に同情でもしたんじゃない?」


 出会いのシーンをばっさりカットして、穂村は淡々と回顧する。昭人が衣食住を確保してくれたこと、異能の知識を教えてくれたこと――そして、彼の「情報屋」として協力を仰がれたこと。その全てが青年にとって感情の入らない「事実」でしかないのだと、ひしひしと伝わってきた。


「その流れで、俺の未来視そのものが『禁術』なんだと教えてもらった。噂があながち間違いじゃないんだ、ってね」

「……知らずに習得したってこと? その……未来視、を」

「自分から身に着けたわけでもない。気づいたら使えるようになってて、誰にも言ってないのに話が広まって追い出されたってだけ」

「残酷……」


 ぼそり、誰に聞かせるわけでもなく呟く。しかし目の前の青年には聞こえてしまったのか、苦い笑みと共に「よくあることだよ」と返ってきた。


「……話が逸れた。とにかく。いつの間にか未来視が使えてた俺は、無意識にいろんな人の未来を見てたってこと」

「じゃあわたしの未来も見えるの?」


 穂村がその問いに答えることはなく、わずかに声を潜めると「でも」と声を落とす。


「俺に見える未来は『何月何日の何時何分何秒にこんな行動をすると』起きる結果だった。一秒でもズレればその未来はなかったことになる」

「うわ、思ったより細かい」

「基本的に行動がズレることはないんだけど、唯一と言ってもいいくらいの例外が――」

「……時間操作、ってやつ? さっき言ってた」


 言葉を奪うように問いかけてしまったが、穂村は文句を言うことなく肯定した。時間操作を持つ人間が関わると、未来が変わることもある。彼はそう言って、斜めがけしている小型の鞄から何かを取り出す。……硬貨だろうか?


「表か、裏。あんたはどっちを選ぶ?」

「いきなり何。……じゃあ表」


 わけもわからず答えると、穂村が手中のものを上空へ放り出した。クルクルと回転しながら高度を上げていくそれを呆然と見つめる。


「落ちる前に篠条さんがキャッチする――それが俺の『予想』で、見えた未来」


 いーち、にー、さーん。穂村が数を数えている間に、限界まで上がった硬貨らしきものが落下してくる。ぽかんと口を開けて眺めていると、背後から誰かが手を伸ばす気配がした。

 落下してきた物体が、その人物の手に収まる。はぁ、とため息をつく音が耳に届く。


「……また妙な遊びをしているのですか、穂村さん」


 やって来たのは昭人だったらしい。呆れた様子の彼を気にした様子もなく、穂村は「ほら、俺の『予想』通りでしょ」と笑いかけてきた。


「あと『妙な遊び』じゃないから。この人に俺の力を説明してただけ」

「はぁ……、そういうことにしておきましょう。情報、ありがとうございました」


 参考にさせていただきます。昭人はそう言うと、店へと戻るようわたしを促した。まるで――そう、わたしと穂村を引き離すかのように。

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