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観月異能奇譚  作者: 千歳叶
第二章 弓張月
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弓張月の裏面

「……で、君たちは反省する気あるの?」


 黒部の問いかけに、わたしたちは顔を背けた。はっきり言って反省していない。

 玲や葵といった無関係な人たちに迷惑をかけたことは申し訳ないと思う。だが、先に異能を発動させたのは麻本だ。あの男に抵抗するには異能を使うしかなかった。仕方がなかったのだ。


 明らかに反省の色がないわたしたちを見た黒部は「まぁ、別にいいけど」と肩をすくめた。


「これ以上第四班の立場を悪くしたいなら、さ。俺には直接関係ない話だし」

「どういうこと?」


 無視できない発言を聞き返すと、男はきょとんとする。意外と幼い顔立ちをしているな、とどうでもいいことを考えた。


「そっか、音島ちゃんは知らないのか。第四班って〈弓張月〉の中じゃ面倒な立場にいるんだよ」

「ふーん……。要、それって本当なの?」


 要に尋ねる。彼は黙って頷いた。

 一向に口を開く気配のない要の代わりに、黒部が声を発する。説明しておこうか、と。


「そもそも〈弓張月〉という隊自体がややこしい内部政治に巻き込まれてるんだ。四大幹部による権力闘争の舞台になってしまっている」

「四大幹部……って、千秋と月子と偉そうな奴でしょ? 今は三人しかいないって聞いたけど」


 水沢の当主代行――要の叔父に当たる偉そうな奴――はともかく、千秋と月子が権力闘争に関わっているとは思えないのだが。

 首を捻るわたしを一瞥した要は億劫そうに口を開いた。できることなら話したくなかった、とでも言いたげに。


「正確に言えば、水沢と大崎の攻防戦ですね。当主代行が〈弓張月〉を私兵として扱おうとするのを大崎の兄妹が阻んでいるのです」

「そう言われても、俺たち一般人が真偽を確かめることはできない。わかるのは四大幹部の争いに巻き込まれてるって事実だけ」

「……だから、第四班が微妙な立場にいるってこと? 四大幹部の血縁者が集まってるから」


 その通りだよ、と黒部が頷く。要は何も反応を示さなかった。


「まぁそれだけが理由じゃないけど。薬師川君もなかなか面倒な事情があるし、何より第四班は人当たりが……ちょっとね」

「わかる。詩音以外は態度に難があるよね」


 わたしはすぐさま賛同する。要が睨んできている気がするが、構うものか。

 千波は突き放した口調で話すし、漣は笑顔でいながらも目は冷めているし、要は慇懃無礼。もう少し詩音を見習えないものだろうか。


「それを音島ちゃんが言っちゃうんだ」


 黒部の言葉に含みを感じるが、今は気にしていられない。わたしは聞かなかったことにした。


「あとは年齢とか性別とか……そんな理由で嫌う奴もいる。くだらないけどね」

「あんたは違うの?」

「俺は優秀であれば何でもいいと思う。たとえ異能が弱くても、それ以外が優秀なら気にならないさ」


 つまり優秀でなければ気に障る、ということだろう。実力主義か。わたしは眉を寄せる。

 そんなわたしに気づいているのかいないのか、黒部は「さて」と言って立ち上がった。


「俺からのお説教はここまで。後は大崎ちゃんに任せるよ」


 疲れた、と言い残して去っていく黒部。わたしは要と顔を見合わせた。

 退室した黒部と入れ替わるように入室してきた千波は、こちらに視線を向けると深いため息をつく。げんなり、そんな表現がぴったりだ。


「お前たちは何が何でもトラブルを起こさないと気が済まないのか……?」

「失礼ですね。私が常にトラブルを引き起こしているかのような言い回しはやめてください」

「事実だろう」


 先ほどまで黒部が座っていた椅子に腰掛けた千波は、再びわたしたちを見やる。その目に怒りの色は見えない。むしろ――憐憫のようなものが見える、ような。


「漣や詩音も含めてだが、お前たちには周囲からの目がつきまとう。……私の部下というだけで色眼鏡で見られるだろう」

「ふーん、大変だね」

「音島はどうして他人事なんだ、お前も例外じゃないぞ」


 そう言われても。緩やかに首を傾げた。

 わたしはもともと異質な存在だ。どこにいようと奇異の目で見られることには変わりない。たとえ、千波たち〈五家〉の人間がいない集団に入ったとしても。

 反応が薄いわたしに、千波は「……もういい」と諦めたようだ。それより、と話題を転換する。


「何が原因のトラブルだったんだ? 異能を使ったとは聞いているが、詳細まで知る時間がなくてな」

「音島さんの発言で激怒した麻本さんが異能を発動させました。こちらは防御のために異能を使っただけです」

「ちょっと、わたし一人の責任にしないでよ」


 要を睨む。しかし奴は「事実でしょう」などと宣うばかりで撤回しようとしない。


「あらかた理解した。どうせ『大崎千波()の下で働くなんて』とか言われたんだろう」

「そう……だけど、どうしてわかったの?」

「経験則」


 短く答えた千波が立ち上がり、わたしたちにも席を立つよう促す。向かうところがある、と言って。


「ようやくその気になりましたか」

「うるさい。お前が嫌だろうから、と遠慮していた私の身にもなってくれ」


 要は目的地の目星がついているようだ。心得たと言わんばかりに立ち上がり、ドアを開け放った。

 わたしも慌てて立ち上がる。そして千波に問いかけた。


「ねぇ千波、どこに行くの?」

「あの人……白浜さんのところだ」


 反撃の時間ですね。そんな要の言葉を、千波は否定しない。わたしは首を傾げたまま、彼らに続いて部屋を後にした。

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