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観月異能奇譚  作者: 千歳叶
プロローグ
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大崎千秋の異能教室

「……は?」


 わたしはぽかんと口を半開きにした。あまりにも突飛な発言だ。

 胡乱な目を向けると、千秋は「びっくりした?」とくすくす笑う。


「驚いたというか、どう考えても嘘でしょ」

「残念ながら嘘じゃない。君も異能の存在は知っているだろう?」

「異能って火を出すとか筋力を強化するとか……そういうやつじゃないの」


 わたしは脳内に残っていた知識を引っ張り出した。全員が持っているわけではない、物理法則を無視した力。それが異能だ。その中に心を読む異能などあっただろうか。

 訝しんでいると、今度は千波が口を開いた。


「お前の認識も間違ってはいない。異能の多くは物体や自身の肉体に干渉するものだからな」

「千波がわざわざ『多くは』って言うだけあって、当然例外もあるさ」


 千秋は微笑み、わたしをじっと見つめる。そして得心がいったように何度も頷いた。


「君は異能について詳しくないようだ。僕が頼みたいことにも関わってくるし、きちんと説明しておこうか」



 ミーティング用の丸テーブルに置かれた一枚の紙。そこに、千秋が黒い文字を書き込んでいく。


「まずは異能そのものについて。君や千波が言ったように、火や水といった物体や自分の筋力とか五感に干渉する力のことを指すんだ。異能を持つ人は異能者と呼ばれ、観月(みづき)……この国では人口の二割ほどを占める」


 やや右上がりの癖がついた文字だ。彼の話に耳を傾けながらそんなことを思う。


「異能には強さを示す基準……ランクがつく。一般的にランクⅠは弱く、ランクⅡは標準、ランクⅢが最強と言われているね」

「そうなんだ」


 わたしは曖昧な相槌を打った。それ以外に何と言っていいのかわからなかったのだ。

 千秋は頷いて「もっと細かく説明することもできるけど、先に進むね」と続ける。


「僕が持つ異能はちょっと特殊で、自分だけじゃなくて他者にも干渉できる。君の心を読めたのもこの異能のおかげだ」


 すらすらと、紙に四つの文字が書かれていく。完成したのは「精神操作」なる言葉だ。


「名前の通り、自他の精神に干渉できる異能。それが精神操作なんだ」

「こわ……」


 恐ろしげなことを柔らかい微笑みで言わないでほしい。わたしはぼそりと呟く。


「あはは、他人に干渉できるレベルの精神操作持ちなんて滅多にいないから安心してほしいな」

「それで安心できるわけないだろう」


 千波が呆れたように言った。わたしも同意を示す。千秋は不思議そうな顔をしている。


「そうかな?」

「当たり前だ、お前自身が『滅多にいない』うちの一人なんだから」

「うーん……心を読むのも簡単にはできないから、警戒しないでほしいんだけど」


 兄妹のやり取りをぼんやり見ていると、二人はわたしの視線に気づいたようだった。こほんと咳払いした千波が「それより」と軌道修正する。


「さっさと説明を進めないと日が暮れるぞ」

「それもそうだね。じゃあ次はこの場所について。ここは異能保全団体、通称〈九十九月(つくもづき)〉だ」

「異能を……保全?」


 異能者は天然記念物か何かなのか? わたしの疑問を千秋が拾う。


「その名の通り、異能と異能者を守るための組織さ。不当に冷遇される異能者を保護したり、異能を用いた犯罪を摘発したり……」

「異能排斥論者と口喧嘩したり、な」


 千波の呟きに千秋が苦笑し、そんなことあったっけ、ととぼけたように言った。


「とぼけるな」

「何のことかな。……あ、説明しないとね。ここからが問題であり、君に話しておきたい本題でもあるんだ」


 わたしに向き直った千秋は微笑みを消し、物憂げなため息をつく。


「……現在、異能者たちは異能を隠すか否かの岐路に立たされている。原因は一年くらい前に降って湧いた異能排斥論――異能者を脅威として排除すべきという論調だ」

「ごく少数の暴論であれば無視もできるが、とある政治家がこの論調を扇動していてな。私たち異能者の抗議でも火種が消えないんだ」


 千秋の後を引き継ぐように言葉を続けた千波が忌々しそうに舌打ちをした。千秋はそれを軽く咎めると「問題は他にもあってね」と嘆息する。


「半月前、とある国の武装組織がこの国に宣戦布告した。異能者を引き渡せ、とね。僕たちはそれらに抗い続けているけど、いつまで保つかはわからない」

「異能者も一枚岩ではないからな。この団体内でも意見が三つ四つと分裂するくらいだ」

「僕たちは異能と異能者を守りたいし、そのために脅威は排除しておきたい。でも脅威を未然に防ぎきるには信頼できる人員が足りないんだ。……そこで、君に頼みがある」

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