取調室で以心伝心
「へー、なんか普通ですね。」
「もっと暗い陰湿な感じを想像していたのですわ。」
さて、どこにいるかというと警察の取調室だ。
一応否定しておくが、私が伴さんと面近さんに対して公衆の面前でしてはいけないことをして捕まったわけではない。
ましてや、その逆で私がされたわけでもない。
「すみませんでしたね。わざわざお呼び立てして来ていただいたのに取調室しか空いてなくて。」
「いえ、どうぞお気になさらずに。一度、副署長さんにはきちんとご挨拶しておかないといけないと思ってましたから。」
神社の件を副署長さんに連絡した時に、渋谷署の近くの神社だったこともあり呼び出されてしまったのだ。
副署長室もあるにはあるが、いろいろと問題を抱えていて外部には見せられないものが多数散乱しているとのことで結局取調室で話をすることになったというわけだ。
本当は背骨の骨折が癒合する時にちょっとおかしな状態になってしまったので、パイプ椅子のような椅子に座り続けるのは辛かったりする。
背骨って腕や足の骨とは違ってギブスで固定できないし、私の場合はぐしゃっとぽきって二か所同時にやってたので綺麗に戻らなくて正しい姿勢が取りづらくなったというか、どう座っても落ち着かない感じになっちゃったんだよね。
そして何より悲しかったのは背骨がつぶれて曲がったことで身長が5cmほど縮んで170cmを下回ってしまったことだ。
退院する前にそのことを知って、多発性骨髄腫を告げられた時と同じぐらいショックを受けたというのは大袈裟かもしれないが、かなりのショックだったのは間違いない。
まあ、今こうしてまともに動けていることには感謝しかないのだけどね。
「連絡をいただいて署員にもあちこちの神社仏閣を確認させています。それにしても今回の神社の件もですが、本当にあなたの情報提供があって助かっています。一体どうやって調べているのでしょうか。」
「一昨日の夜にたまたまアパートの敷地から出られないことに気づいて、前に見たアニメによく似た状況があったので試しに「ステータスオープン」って言ってみたら見えちゃって私もびっくりしましたよ。そこからはいろいろとアパートの住人にも協力してもらって試行錯誤してみたわけでして…。」
ありのままに全てを伝えるといろいろと余計な突っ込みを受けそうなので、隠し通せる限りは隠し通そうと思っている。
というのも、副署長さんはこれでもかという強面なのだが、なんか必要以上に丁寧にお話しされていて探りを入れられているように感じているからだ。
「天の声」のことなど聞かれても判らないことの方が多いので、しなくてもいい苦労はしたくないという思惑もある。
『副署長さんの心が読めないのですわ。雑音が入るというか妨害されているというかそんな感じなのですわ。それよりも多田さんと心が一つになっているという高揚感で何も考えられないのですわ。』
それは単にスキルに集中できていないということではないでしょうか。
『役に立たない女ね。しゃきっとしなさいよ。』
これはどういうことかというと朝から気になっていたことをいろいろと検証した結果なのだが、ちゃんと順を追って説明しておこうか。
副署長さんに神社の件を連絡したところ、渋谷署の近くだったこともあり呼び出されてしまったのは前にも言った通りで、その後ここに来るまでの間に試したのが「伝心」だ。
これはスキルファームとかの並びで追加されていたもので、能力も容易に予想がついたので真っ先に試してみたのだ。
案の定明日もジョーの能力で、直前の面近さん達の声は妄想でも幻聴でもなく本当の心の声だ。
使用方法は頭の中のスマホで連絡する感じで眷属の中から相手を選んでテレパシーみたいに意思の疎通が可能だ。
さっきみたいにグループ通信のようなことも可能で、さらに言葉だけでなくイメージも伝えられるのだが、今は二人から余計なイメージが流れ込んでくるので敢えて遮断している。
どんなイメージかは敢えてここでは言及しない。しないったらしない。
ただし開始できるのは私だけで面近さんたちから開始することはできないようだった。
もしかしなくてもスキルファームと同様にダンジョンマスターにだけ与えられた能力なのだろう。
次に調べたのが「ポイント開発」で、これもスキルではなくてスキルファームの並びだ。
ポイントを使っていろいろとできそうなことは判るのだが、具体的に何ができるかが容易には判らなかった。
なので、思いつくことを試してみて今のところ確認できているのはスキルレベルを上げることと、ポイント交換できるものを追加することだ。
そのスキルレベルを上げてみたのが面近さんの「読心」だったのだけど、元々こつこつと育てていたのと日光東照宮や渋谷の神社で手当たり次第に使いまくってたこともありレベル7に達していたんだよね。
それをポイント開発でレベル8に上げたところ、なんとダンジョンの外でも使えるようになってしまったという驚天動地のことが起きてしまい、先の伝心による会話の内容となったわけだ。
ポイント交換できるものとして追加してみたのは名付けて「伝心依頼通知」。
折角「伝心」なんてのが使えるのに私からしか開始できないのはもったいないという理論で提案されたのが眷属からも使えるようにするというものだったが、この二人に使わせると碌なことにならないと危惧した結果としてつくったのが通知ボタンのようなものというわけだ。
早速、二人に使用可能にしたところSNSでの投稿がバズった時のように通知音が鳴りやまなくなったので、「天の声」に連続では鳴らさないように調整させたのは言うまでもない。
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