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反省だけなら猿でもできる

なんだろう。

とても空気が澄んでいて身も心も洗われるようだ。

私は今、緑というか黄や赤の中に身を置いている。

どっちを向いても赤や黄色に色づいた樹々で溢れている。

紅葉がとても綺麗だ。


「是非、うちの温泉に入っていっていただきたいのですわ。」


今いるのは那須高原にある別荘地のひとつだ。

当然こんなところにはアパートなんてものは見当たらず、見かけるのは基本的には宿泊施設か別荘用の立派な戸建てばかりだ。

付け加えると、どうやら那須塩原を過ぎたあたりで例の境界線を越えてしまっているようでもある。

この辺りに来るまでには道路からは住宅がまったく見えないところも長い距離であり、あったとしても基本的に一軒家だったりしたのでついついこんなところまで来てしまった。


「攻略と運転でお疲れでしょうからゆっくりお寛ぎになられると良いのですわ。」


実は車で通ってきた途中でもいくつかのダンジョンを攻略していたりする。

道路標識で市町村が変わるごとに適当な空き地があれば攻略してきて全部で四つだっただろうか。

宇都宮にも拠点ができたので「今度改めて餃子を食べに来ましょうね」なんて誘われてしまったよ。


「お風呂の後は美味しい昼食を食べていただきたいのですわ。かなり評判がいいのですよ。」


面近さんのご両親はこちらでオーベルジュを経営されているとのことだが、こんな形で顔を合わせるのは甚だ不本意だ。

実際、何と言って自己紹介すべきか困ってしまう。

面近さんに紹介させるといろいろと面倒なことになりかねないし、ここはやはり逃げの一手だろう。

ご両親に余計な手間は取らせたくないので辞退させてもらうということを面近さんになんとか了承してもらったが、なぜか代わりにこれから日光東照宮に行くことになった。

折角栃木に来たのなら世界遺産を見に行きましょうとゴリ押しされた感じだ。

まあ一つ手前の拠点まで戻って最寄りの拠点に転送で移動すれば一時間もかからずに行けそうだしいいか。

ついでに日光にも拠点を作れば鬼怒川温泉にも行きやすそうだ、なんて思ったのはここだけの話だ。

決して温泉回を意識したわけではない。断じてない、はずだ。

一昔前にテレビでも一世を風靡したお猿の芸って今でも見られるんだろうかと少し期待してしまった。


「子供の頃に何度か見に行ったことがあるのですわ。反省してるお猿さんの姿がとても面白かったのですわ。」


あれ?それって系統が違うんじゃなかっただろうか。

確か日光のお猿さんは学校みたいなシチュエーションでの団体芸だったと思ったのだけど。


「東日本大震災の影響で一度閉園したのですが、そう言えば復活した後は芸風が変わっていたような気がするのですわ。」


こんなところにもあの震災の余波があったんだね。

後で調べたところ、当時は調教師の多くが海外から修業に来ていたが、ほとんどが帰国もしくは日光を離れてしまったことと、放射能汚染の地からさほど遠くもなく風評被害も相まって記念館の形にして猿回しの公演はしなくなったようだ。

その後、反省する猿の人の手に渡って復活開業を果たしたということらしい。

今は、人間と猿が1対1で行う伝統芸能である猿まわしに団体芸を取り入れたスタイルが披露されているそうだ。


そう言えば、運転に余裕ができてからカーラジオを聞いていたのだが、ダンジョン関係の情報が多かった中で政治家の失言も報じられていた。

なんでも、法務大臣というのは死刑のハンコを押すときだけ注目される地味な役職だとか当の法務大臣が言ってしまったらしい。

死刑制度の存続自体が問題視されている世界の状況で、こんなことを言ってしまう人が法務大臣に就いているなんて政界にはよほど人材がいないのかもしれない。

失言した当人もだが、任命した方もしっかりと猛省してもらいたいものだ。

だって「反省だけなら猿でもできる」のだから。


ちなみに私は死刑に反対派だ。

と言っても、野蛮だからとか残酷だからという理由ではなく、人が人に死を与えるなど人道的に許されないという理由でもない。

寧ろ、今の死刑制度が手緩いと思っているほどだ。

実際に「死んで楽になりたかった」などと人を何人も殺して死刑になることを望むような人間まで出ているのだ。

死刑を望まない罪人も死を与えるだけで罪を贖わせることが本当にできるのだろうかという疑問もある。

死んで終わりになんかさせない。

楽に死ねると思うなよ。

「目には目を、歯には歯を」で有名な古代のハンムラビ法典のように、同じ痛みや苦しみ、いや同じでは足りなくてそれこそ倍返しぐらいがいいかもしれない。

被害者や遺族が望むのなら復讐を果たさせてあげてもいいくらいだと思っている。

幸いにして医療技術も昔より発達しているのだから、手足ぐらいなら切ってもつなぐことが可能だろうからやりたい放題かもしれない。

致命傷を与えないようにして自分が被害者に与えた悪意と恐怖を身をもって感じればいいのだ。

それが嫌なら人を傷つけるな殺すなということだ。

過失とか正当防衛の場合もあるだろうから、そこには情状酌量があって然るべきだが、罪を犯して反省もしない輩には相応の代償を払わせるべきだと思っている。

それは普通の生活においても同じことだ。

人に迷惑をかけて謝りもしないようなクズは報いを受けろ。


「多田さん?ちょっと怖い顔されてますが、私何か粗相をしてしまいましたでしょうか。」


「えっ、あぁごめんなさい。ちょっと考え事してたのが顔に出てたようですね。面近さんは全然悪くないですよ。」


「それなら良かったのですわ。いつも通りにちゃんと素敵な顔しててくださいね。」


素敵な顔ってどんな顔してればいいんだろう。

まあ、怖い顔を見せてしまったことは大変申し訳ないと思う。


「…反省します。」


「そういう時には私の膝に手をつくのですわ。きゃっ。」


それ、猿が反省する時のポーズじゃないですか。


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