赤は三倍
もう一話、紀香目線でのお話です♪
もしかして、父がこの事件の実行犯、なんてことはないわね。
私がステータスが見えないことが確認できたから、余計な心配をかけないように情報を敢えて渡さなかったってところかしら。
にしたって、もう少しなんとかできたんじゃないかしら。
ということで、電話してみるけど何度かけても出てくれないわ。
仕方なくメッセージを送ってみるけど、こっちも一向に既読にすらならないわ。
番組では怪物がいるなんて情報まで流れてるじゃない。
何でもそつなくこなす父だけど、とても心配になってきたわ。
東京まで行ける電車はもう終わってる時間になっちゃったし、どうしようかしらね。
愛車の軽自動車はあるけど、基本的にいつも気分次第で行く先を決めるから地図は読まないし、ナビも使わないのよね。
人のことを方向音痴なんて言ってるのは誰かしら。
いつもちゃんと家に帰ってこられてるんだから決してそんなんじゃないわよ。
ただ、予めどこそこで曲がってとかを覚えたり、ナビ音声で次を右折してくださいって突然言われてそれに従うのが苦手ってだけなんだからね。
よし、始発を待った方が結果的に早かったってなるかもだけど、悶々と父の心配をしたまま朝を待つより突撃あるのみね。
こうして赤い軽自動車に乗り込んで東京に向けて出発したのが午前一時頃よ。
順当にいけば二時間かからずに到着できたみたいだけど、東京に入ったのが午前三時を余裕で過ぎてたわ。
そこからも結構時間がかかって、父のアパートについたのは結局午前五時前ね。
「赤は三倍速い」って通説があるみたいだけど私の場合は三倍は三倍でも所要時間の方だったみたい。
まあ、始発を待つよりは早く着いたってことで自分を誉めてあげましょ。
途中、ラジオでダンジョン関連の情報をずっと聞いていられたので、それも良かったって思うことにするわ。
そこで得た情報によると父のアパートは一応「安全」な部類に入るようなので、来客用の駐車スペースに車を入れさせてもらって「ダンジョン」の中に足を踏み入れたわ。
こんなに朝早くからドアを叩くのはちょっと躊躇いはしたけど、ここまで来たら待ってられないわ。
隣室の方たちには後でお詫びするとして、父の102号室に突撃したわ。
一回目で部屋の中で動く様子が判ったのでいろいろと安心したわ。
まったく、いるならいるでちゃんと返信してよね。
ちょっとは文句言ってやらないと、なんて父が出てくるのを待ってたら出てきたのはまさかの若い女性だったわ。
え?
父の新しい恋人?
もしかして昨晩はお楽しみ中で返信してなかっただけ、とか?
だとすると間が悪すぎるわ。
母が亡くなってまだ三年しか経ってないのになんて思いもほんの少しだけよぎらなくもなかったけど、父がそんなことも考えられるようになったと思えばまだ救われるかしらね。
…と思ったのも束の間。
ちょっとお相手が若すぎるんじゃないかしら。
多分、私とそんなに年齢は変わらないんじゃないかしら。
母の面影があるわけでもなさそうだし、父はこんな女のどこが良かったのかしら。
まあ顔の造形は美醜で言えば美の方に断然傾いてるし、カラダのほうも私の同僚の男性が目にすれば二度見しそうなぐらいご立派なものをお持ちでいらっしゃるとは思いますけどねっ。
というところで私の心と態度に少しトゲが生えてきちゃったわ。
「あの~、ここ多田信忠の部屋で合ってますよね。」
「あ~?前はそうだったみたいだけど、今はあたしが住んでるし。」
「え?前はってどういうことですか?多田はどうしちゃったんですか?」
「っていうか~、こんな朝早くから押しかけてきてるあなたはどなた?」
「あっ、ごめんなさい。私、多田紀香です。多田信忠の娘です。」
「ん~?娘〜?…えっ!?多田さんの娘?な〜んだ、そうだったの〜。あたしのことはママって呼んでくれていいのよ~。」
なんでいきなり抱きついてくるのよ。
初対面の人に対する距離感おかしいんだけど。
父、まさか本当に諜報機関で働いていて、この人は偽装の夫婦をするための相手なのかしら。
って私、こんな時に何をバカな想像してるのかしら。
「え?どういうことですか?父はここにいるんですか?いないんですか?」
「多田さんはあっち〜。」
女性が指さしたのは大家さんが住んでいたはずの部屋だ。
もう何がどうなってるんだかわけわかんない。
とりあえず、元の父の部屋から出てきた女性に早朝からお騒がせしたお詫びをして辞去すると大家さんが住んでいた部屋に向かったわ。
父、こうなったら洗いざらい全部話してもらいますからね。
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