視点を変えなくても見える景色が変わる
怪物の特定やスキルの考察はそれぐらいにして、更に下に続く階段を下りることにしたわ。
もちろん今度はみんな目を開けたままよ。
視界が悪いっていうか見通しきれないってだけで他には不都合なこともないから、上でやったのと同じようにあっという間に封印が完了したわ。
念のために上でやったように一通り調べてみたけど、同じように下へと続く階段があっただけで新しく判ったことは何もなかったわ。
「まさか、延々と下り続けさせられるってことはないですよね。」
「もしそうならエレベーターにしてほしいの。せめてエスカレーターじゃないといやなの。」
「大丈夫っス。こういうのはゲームだと最後のフロアにいるボスを倒したら転移とかで地上に戻れるのが普通っス。」
承太郎ったらそんな無責任なこと言っていいのかしら。
っていうか、それフラグになるからやめてほしいわ。
消えた建物ごとにボスがいるなんて冗談じゃないわよ。
実際にはこの階段を下りた先にはもう下へ続く階段はなかったし、ボスらしき特別な怪物もいなくてほっとしたわ。
最後の一体を封印したところでこれまで同様にナビ子の声が響いたわ。
『敵陣を制圧したのでポイントを獲得しました。』
「これで終わりなの?」
「そうね、ここより下には行けないみたいだし、クマやサイのところみたいに制圧が完了したわ。」
「ダンジョンはなんで地下にこんなものを作ったんですかね。」
「アニメとかでよくあるっス。成長するダンジョンはどんどん階層が深くなっていったりするっス。」
そうね。
ダンジョンはきっと成長したかったんでしょうね。
何もせず放っておいたら承太郎の言うようにどんどん下に階層を拡げて…。
ちょっと待って。
大きくなる場所に地上ではなくて地下を選んだのはなぜかしら。
というか、これって本当に元の建物の下の地中なのかしら。
ダンジョンが作り出した空間だから、きっと亜空間とか異空間の特別製ね。
ほぼ同時に周囲の建物(おそらく全部ダンジョンよね)も消えてるから、もしかしなくてもこの不思議な空間で結合して手っ取り早く大きくなろうとしてるんじゃないかしら。
ここまであまりにも現実的な建物の中でだけ不思議な現象が起きてたから、いきなりのファンタジー展開にちょっと後れを取ってしまったわ。
「一回外に出るわよ。それと寮にいそうな誰かに連絡して建物に変化がないか確認してちょうだい。」
「どうしたんですか?あっ!寮もこんなことになっちゃったかもってことですか。」
「こんな何もないところのために寮費は払いたくないの。」
「ヤバいじゃないっスか。自分、地べたに寝るの超苦手っス。」
そういう問題じゃないと思うんだけど。
下りてきた階段を戻って地上に出ると、そこには地下に下りる前とは全く別の光景が広がっていたわ。
「寮は特に変わったところはないそうです。ってあれっ?建物が復活してるぅ!」
「あっちもこっちも建物消えてたはずっス。」
寮に変化がなかったのは一安心ね。
これもダンジョンマスターの存在が一役買っているのかしら。
だけど下りる前は随分見通しが良かったのに、階段を下りた場所を含めて周囲の建物が復活したからすっかり見通しが悪くなってるわ。
私がここを制圧したことが建物の復活に関わってるのは間違いないと思うけど、それで全部が元通りになったっていうのも考えにくいわよね。
と思った時には既に建物が消え始めたのを確認した高台の方に向かって駆け出していたわ。
「今度はどこ行くんですか。」
「そんなに走れないの。」
「あなた達はゆっくり後からでいいわよ。」
承太郎だけがしっかり後をついて走ってくるわ。
元の高台のところまで戻るまでもなく、さっき制圧したところを中心にほぼ円形に建物が消えてないところがあってその周りには結構な空き地のような場所が見て取れたわ。
大体半径二百から二百五十メートルぐらいな気がするわ。
「暗くてよく判んないっスけど、まだ建物が消えてるとこもかなりありそうっスね。」
『拠点数が規定値に達したので位階が上がります。』
ナビ子が聞きなれないことを言った途端に、見えてた景色が一変したわ。
消えてた建物が更に地上に復活してきたからよ。
「姐さん、何やったんっスか。マジ、ヤバいっス。」
「先輩っ!今、向こうに建物が増えたみたいなんですけどっ!」
「先輩が増やしたの。私は増やさないでほしいの。」
ここで追いついてきた二人にも今のが見えてたみたいね。
私が意図してやったわけじゃないけど、建物が更に復活したのは多分私の所為よね。
「私がやったんじゃないから承太郎を盾にして隠れる必要性はないわ。」
実際のところ、瑠奈を増やせるものなら増やしてみたい気もするけど。
そしたら、ひとつお持ち帰りにしてGを猫じゃらしみたいに遊んで楽しめるじゃない。
「だから増やさないでほしいの。」
見透かされたみたいね。
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